辺境のウンディーネさん
みずのひかり
『ウンディーネさんと土下座する女神様 ①』
今から5年ほど前のこと、世界で同時期に、とあるゲームがリリースされました。
そのゲームのタイトルは『エンシェントワールド』。
よくあるファンタジー系のVRMMOゲームです。
わたしはサービスが開始されてからほどなく参加した、プレイヤーさんの一人。
とは言ってもプレイ時間は1日2時間程度なんですけどね。
しかも戦闘に向かない神官さんをしているため、レベルはそんなに高くありません……多分。
なぜそう思うのかと言うと、わたしは基本的にソロで活動してるからです。
なので、周りのプレイヤーさんがどのくらい強いのか、よくわかりません。
そもそもわたしがこのゲームを始めた切っ掛けは、自分の足で世界を見て回りたかったからです。
冒険がメインで、強さなどは二の次。
実はわたし、幼い頃から病弱で、入院生活を余儀なくされています。
プレイ時間が制限されているのも、それが影響しているからです。
ですから旅行どころか近所の公園にすら行ったことがありません。
普段行く場所と言えば、病院内の施設くらい。
診察室とか、レントゲン室とか、狭い室内ばかりです。
そんなわたしに広い世界を見せてくれたのが『エンシェントワールド』でした。
それでも山や海などの圧倒的な大自然に触れられたりと、わたしは色んな所を旅しました。
ちなみに今日は素材回収のクエストで『
ここはハイエルフの貴族さんが統治する領地で、その中でも『イールフォリオ』と呼ばれる辺境の地なのだとか。
5年もこのゲームをプレイしてますが、実は初めて訪れる場所なんですよね~。
それだけにワクワクが止まりません!
自由気ままな一人旅。
ソロなので素材の回収や調査のクエストしかできませんが、毎日が楽しいです。
ゲーム開始当初は回復役として臨時のパーティーに参加することもありましたよ?
でもこの時に、誰かが傷つく姿を見て、とても辛い気持ちになったのです。
それは、お仲間さんだけでなく、敵であるモンスターさんに対しても同じでした。
ですからゲームを始めた頃は、モンスターさんと遭遇しても攻撃ができず、命を落とすこも多かったです。
今はHPもそこそこ高く、回復魔法がそれなりに使えるので、倒されることは滅多にありません。
それにわたしは『
このスキルはとても万能で、魔法でお水を作り出したり、そのお水を自在に操ることが可能です。
以前関わったクエストで、お水の精霊さんから『加護』と言うかたちでスキルを授かりました。
お陰で回復魔法だけでなく、お水の魔法も使えます。
もちろん、攻撃に使ったことは一度もありませんよ?
傷つけるくらいなら、我慢して耐えますから。
例え命を落としたとしても神殿で蘇ることができますからね。
復活の女神様である、レファリナ様の力で、ちょちょいのちょいです。
あ……そんなことを思っているそばから、早速モンスターさんが現れました。
黒い毛並みをした、大きな狼さんです。
あれ? どこかで見たことがあるような姿をしてますね。
もしかして、フェンリルさん系統のモンスターさんではないでしょうか??
フェンリルさんは狼さんに良く似た神獣クラスのモンスターさんです。
ただ、その中でも幾つかの種類に分類されます。
体長が3メートルを超す白いフェンリルさんは1体しか存在しない本物の神獣さん。
お会いしたことはありませんが、特殊な攻撃をするそうです。
すべてを凍らせるブレスを吐くとかなんとか……。
機会があったら是非お会いしたいものです。
そのフェンリルさんよりも一回りほど小さな個体は、複数存在するフェンリスヴォルフさん。
特殊な攻撃はありませんが、とても素早くて攻撃力も高いです。
山や森などで、何度かお会いしたことがありました。
他にも青い姿をした、ヴァナルガンドさんと呼ばれるフェンリルさんがいます。
こちらはフェンリルさんと同じ神獣さん扱い。
とあるクエストの最中に一度だけお見掛けしたことがあったんですよね。
あの時は興奮しました!
ちなみに色違いのモンスターさんは
つまり、わたしの目の前にいる黒いフェンリルさんは……。
「
これはお久しぶりの神殿行きになりそうです。
未知なる相手を前に、回復しながら逃げ切れる気がしません。
「一応、お水の魔法で壁でも作っておきますか」
何もしないよりはマシかと、魔法の発動を試みましたが……。
魔法よりも先にフェンリルさんの鋭い爪が、わたしに迫っていました。
さすがは
動きが速すぎます。
ですがこの時、リアルに激しい胸の痛みに襲われたのです。
「……うっ、こんな時に……」
いつもの発作が起きてしまいましたか。
神殿に送られる前に、強制ログアウトされますね。
ゲームのシステム上、体に異変を感じるとそういった処置がとられます。
仕方ありません。
体調が回復してから出直すとしましょう。
でもあのフェンリルさん、モフモフしてて気持ち良さそうでしたね。
何を隠そう、わたしは大の狼さん好きだったりします。
凛々しくて、カッコよくて、モフモフしていて~♪
なのであのフェンリルさんは、わたしの理想の狼さんそのもの。
「またどこかで、お会いしたい……です…………ね」
薄れゆく意識のなかで、わたしはゆっくり目を閉じるのでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「う、うーん……」
どれくらい眠っていたのでしょうか。
わたしは薄っすらと目を開けます。
するとそこには見慣れた天井がありました。
でも病室や集中治療室ではありません。
ゲーム内にある神殿の天井です。
あれ? 強制ログアウトされてませんね。
祭壇の手前にある台から体を起こし、周りをキョロキョロと見渡します。
ふと視線を落とすと祭壇のすぐ下で、土下座をしている女性の姿が見えました。
背中に白い翼があることから、この女性が女神様であることは一目瞭然です。
でも確認のために……。
「あの~、もしかして女神様ですか?」
「はい。再生の女神セルフィラと申します」
「再生の……女神様? 復活の女神様ではなくて??」
「レファリナ先輩は急用があるとかで、私が復活作業の代行をしております」
女神様って固定のキャラクターだと思ったんですが……。
わたしの勘違いのようです。
それよりもゲームの中なのに、先輩後輩とかあるんですね。
なんだか妙な気分になります。
「そ、そうなんですか。ところで……なぜ土下座なんてしているんですか?」
「実は……私のミスで貴女をイールフォリオに転生させてしまったからです」
転生? 復活じゃなくて??
女神様の言葉に首を傾げます。
でもまあ似たようなものなんでしょうね。
生き返っているわけですから。
「えーっと……ミスじゃないですよ。わたしはイールフォリオにあるギルドで素材回収のクエストを受けましたから。イールフォリオの神殿で復活するのは当然のことだと思います」
復活は最後に訪れた町の神殿で行われるので、なんの問題もありません。
ですが女神様はわたしの言葉に安堵するどころか、未だ深く土下座をしたままなのです。
「通常でしたらそうなのですが……此処は
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