異世界プランナー旅行記
めぐむ
プロローグ
「では、こちらのプランで進行させていただきます」
悩み抜いて作り上げた計画が日の目を見た。これで第一段階はクリアだ、と肩の力を抜く。依頼人であるお客様も気が抜けたようだった。
そのタイミングを狙ったわけでもあるまい。そうでないと思いたかった。そこまで悪辣な企みをできるようになったというのなら、腰を据えて説教することも視野に含まねばならないだろう。
隣に腰掛けたエミリーが、前傾姿勢を取った。
「ひとつ、ご確認したいのですが」
極めて丁寧な姿勢だが、だからこそ嫌な予感がする。
「はい、なんでしょうか」
「お客様は、ご結こ……っ」
口を塞ぐ代わりに、足を踏みつけてやった。
古代ローマの剣闘士が履いているようなグラディエーターサンダルを履いているエミリーには効果抜群だろうが、知ったことではない。むしろ、してやったりだ。
エミリーが身悶えている間に、手早く話をまとめてお客様にはご帰宅いただく。打ち合わせの終わったキャンピングカー内に、エミリーの甲高い声が響いた。
「何するんですか! 突然」
「そりゃ、こっちの台詞だ。客に結婚の有無を確かめるのはやめろって言ってるだろ。ひっかけようとするな」
「ひっかけるなんて遊びみたいに言わないでくださいよ!」
「婚活をしかけるな!」
本気であるのなら、なおさら性質が悪い。仕事中だ。
エミリーは頬に空気を溜めこんで、膨れっ面を作った。いかにも、なわざとらしさ。そんなもので俺が意見を翻すと思うのか。
「まーた、やっとるのか」
打ち合わせ中は席を外していたキクが戻ってきたらしい。呆れた声に、肩を竦めた。呆れたいのはこちらだ。
「いい加減、諦めたらええ。エミリーの自由じゃろう。なぁ、ブラック」
「ワン!」
キクの足元から姿を現したブラックが、無造作な相槌を寄越して車に乗り込んできた。
「プライベートじゃないんだぞ」
「構わないでしょ。どうせ、ダメなんだから」
ブラックの後ろから乗ってきたピュイが、冷めた調子で俺とエミリーを同時に切っていく。
「……お前は辛辣だよな」
「そうですよ。ダメかどうかは分からないじゃないですか! 私の美貌で」
「黙れエロフ」
「それエルフ差別ですからね!」
「安心しろ。エルフを敵に回すつもりは微塵もない。エミリー・リットロフの略だ」
「略だからいいって話にはなりませんよ!?」
「よいから出発の準備をせよ」
俺たちのやり取りなどものともしないキクの仲裁に切り捨てられた。仲裁と呼ぶのもおこがましいかもしれない。
俺はそこに便乗して、エミリーから逃げるように運転席に移動する。後部座席に三人と一匹が収まっていることを視認してから、エンジンをかけた。
俺たちの旅路はいつもこうして始まる。
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