第88話 5月1日/リア・クラークはヘルメットと鐙をゲットして、明晰夢で黒猫に会う
箱を開けると、木でできたヘルメットと皮で作られた鐙が出てきた。
手紙も入っている。手紙は後で読もう。
私はヘルメットを手に取り眺め、そして鐙に視線を向けた。
「リアさん。その帽子、珍しい形ですね」
ヘルメットを見たクロエが言う。
私はクロエに笑顔を向けて口を開いた。
「これは『ヘルメット』って言うんですよ。乗馬をする時に使うんですっ」
私の説明を肯きながら聞いたクロエは、箱の中を覗き込み、鐙を見て口を開いた。
「皮のベルトのような物も乗馬で使うんですか?」
「そうですっ。でも、鐙って、馬? 鞍? に、どうやってつけたらいいんだろう?」
私は小説に出てくる鐙は知っているけど、どうやって装着していたのかは知らない。
鞍からぶら下がっている鐙に足を掛け、馬にまたがる描写を小説で読んだり、ドラマで見たりしただけだ。乗馬クラブで体験乗馬をしたこともない。
ヘルメットは被ればいいけど、鐙ってどうやってつければいいの?
そう思った時『乗馬』の授業で見た『鞍装着』スキルのことを思い出した。
「『鞍装着』スキルみたいに『鐙装着』スキルがあれば」
私がそう言った直後、身体から力が抜けていく。
立っていられない……!!
「リアさん……っ」
クロエが傾いた私の身体を支えてくれた。
床に倒れ込まずに済んで、ほっとして意識が遠のく。
ヘルメットあるのに被らず、頭を打つというめちゃくちゃ間抜けな事態に陥らなくてよかったと思いながら、私は意識を手放した。
図書室だ。私は夢を見ている。明晰夢。
転生者の刑事さんや司書さんと会ったから、井上愛子だった時に通っていた中学校の図書室の夢を見るのだろうか。
私は図書室を逃げ場にしていただけで、図書室がすごく好きだったわけじゃないと思うんだけど。
「スキルは気に入ったか?」
「あっ。猫ちゃん」
足元に現れた黒猫が、長い尻尾を振りながら私を見上げている。
この黒猫は私の夢の産物なので、私がスキルをゲットしたことも知っている。
「可愛いねえ。いい子ね」
私は黒猫の前にしゃがみ込み、頭や背中を優しく撫でた。
夢なのにリアルな手触り。とても素敵だ。
「ヘルメットと鐙というのは面白い物だな。知識と探求は、我が力を強め、種の力を強める良い物だ」
「猫ちゃんは難しいこと言うんだね。私が本を読んで覚えた言葉とか喋ってるのかなー」
「やはり異世界の魂を身体に入れた我の判断は正しかったな」
黒猫が何やら満足げに呟いた直後、私の意識は暗転した。
身体が怠い。
……温かい何かが、流れ込んできている。
この感覚は、覚えがある……。
私は目を開けた。
白い天井が、視界に映る。ここは、医務室……?
さっきまで夢を見ていた気がするけど、夢の内容は思い出せない。
「リアさん、大丈夫ですか……?」
心配そうなクロエの顔。
私、倒れそうになってクロエに支えてもらったんだよね。
この前医務室に来た時みたいに、何かスキルを覚えたのかな。
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