話して理解に努めたい
狭山さんに相談し、九さんと話してから数日。緑さんから千歳に勉強会の詳細が来た。斎野神社に人を集めてやるそうだが、50人以上集まるとのことで、千歳はビビっている。
『そんなに何見に来るんだ!?』
「勉強熱心な人が多いんだね」
『そうだけど』
「大丈夫だよ、俺もついてくから」
『うん……』
あまり気が進まない様子ながら、千歳は頷いた。
そんな事を話していたら、緑さんから俺にも連絡が来た。
「和泉さまには、術式が働いてるところを見せる関係からも、勉強会においでいただきたいのですが、他にもお願いしたいことがあって」
「なんでしょう」
「千歳ちゃんが、危険でない和御魂だと見せる会でもあるんです、勉強会は」
緑さんは話してくれた。勉強会は、千歳を見たことがない人たちや、縁が薄い関西の人たちに、千歳が和御魂の側面が強いと見せることにもなるらしい。
和御魂とは、神様の優しい側面のことだ。で、千歳が和御魂の側面を一番見せているのが、俺である。
緑さんは、俺と千歳が普通に和やかに話している場面を勉強会で見せてほしい、とのことだ。
俺は、少し考えた。
「それは可能ですが、なんていうか……千歳もですね、緑さんにそういうことお願いされたら、理解できるし了解してくれると思います。もちろん、私から伝えることも出来ますが」
千歳、話せばわかってくれる人だもん。自分が危険視されている、と聞いてあまり愉快な気持ちはしないだろうけど、「でも本当は安全なんだから安全アピールをしてくれ」と言われて怒るような人じゃない。なるべくやってくれる人だ。
「そうか、そうですね。千歳ちゃんにも伝えます。お二人で協力してやってもらえるとありがたいです」
「わかりました」
そういう訳で、千歳にも緑さんから同じ話が行ったようだった。
『ワシが和御魂だってアピールすればいいんだろ? ワシ、お前とだけじゃなくて、緑さんとも仲良しだし、あと狭山先生とあかりさんとも普通に仲いい、ってアピールしたらいいのかな』
「すっごくいいと思う、そうしな」
俺は頷いた。
「千歳が勉強会の人たちに笑って話しかけるだけで、十分すぎるくらいだと思う。あとは……千歳のいいところは、話せばわかってくれるところだから、そこもアピールできたらと思うけど……それはその場の流れ次第だな」
『ワシのいいところ?』
千歳はきょとんとした。
『ワシのいいところって、話がわかることなのか?』
「そうだね、千歳はいいところいろいろあるけど、話がわかるところは確実にいいところだよ。千歳、令和のこと、知らないこととかわからないこととか、たくさんあるわけだけど、話せばわかってくれたじゃん」
『そうか?』
「話しても理解を拒否する人、いるもん。だから、話せばわかってくれるところは、いいところだよ」
いくら説明してもネットとパソコンの理解を拒否した前職場の上司を思い出す。あー、あと、俺の母親も理解を拒否する人だったな。少しでも自身を批判するような事実を言うと、ヒステリックに騒いだし……。
『…………』
千歳は、俺をじっと見つめた。
「何?」
『……お前の教え方、うまいからな。お前のおかげだ』
「え」
千歳はそっぽを向いた。
『じゃ、勉強会ではせいぜい安全アピールするか。愛想振りまいて話そっと』
「う、うん」
え、俺教え方うまい……?
……俺は、何かを千歳に説明する時、できるだけ伝わるようにと努めてはいた。
時代のギャップ、千歳が知っていること、知らないことを踏まえて。知らないことは千歳の責任じゃないから、バカにしたり咎めたりしないで、できるだけ正確に誠実に説明して伝えるようには、していた。
なんでそういう事をしてたかというと、まあ、不誠実な嘘で稼いでる両親への反発が多分にあるからだけど。
……でも、千歳は、そういう俺の努力を、ちゃんと受け取ってくれていたのか。
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