番外編 まだまだくっつきたい話

峰家の長男から、ワシと祟ってる奴のメールに連絡が来た。丁寧なあいさつと、「お二人の生活を良くするためにご協力させていただけませんか?」ということと、会える日程を教えてほしいと書かれてる。

生活を良くしたい、の言葉にワシは舞い上がった。

『絶対見合いの話ちゃんと持ってきてくれるぞ! がんばれ!』

ワシは祟ってる奴の肩をどーんとどやした。

「い、いやその、本当にそういうのは相手を見てからじっくり考えて決めさせて」

祟ってる奴はずっと見合いに乗り気じゃない。そんなに稼ぎ自信ないのかなあ。

『でも、釣書くらいはくれるかもしれないぞ?』

釣書いくつかの中から選ばせてくれるかもしれないし。

「うーん、釣書って、どんな事が書いてあるもんなの?」

祟ってる奴は首を傾げた。

『生まれた年月日と、学歴と、今どこでどんな仕事してるかと、あと家族構成かな。あ、お前、学歴はいいんだから釣書ちゃんと作れるぞ!』

「あー、そうか、もらうなら俺も書かないといけないわけね……」

祟ってる奴はため息をついた。まあ、こいつが自分の家族に触れたくないのはわかるけど、それ以外は別にそんなに心配することないのにな。稼ぎだって、生活できる程度にはあるんだし。

ワシは祟ってる奴と話して、二人で峰家に会える日時をいくつか相手に伝えた。


その夜は、組紐づくりで疲れたから、いつもみたいに祟ってる奴にくっついて布団に入った。

……あ、もし見合いの話が出たら、そんでこいつが結婚したら、もうこんな風にくっつけないんだ。今さら気づいた。

こいつは、稼ぎはあんまよくないけど優しくていい奴だし、いい女と見合いしたらトントン拍子で話が進むかもしれないし、そしたら、来年の今頃にはもう結婚してるかもしれないんだよな。そしたら、来年の今頃には、もう、ワシ、こんな風にくっつけないんだよな。

そう思ったら、すごく寂しくて悲しくなった。

どうしよう、変に我慢したら変に暴発するから我慢しないほうがいいって言われてるのに。ワシ、まだまだこいつにくっつきたい。

結婚を邪魔するわけには行かないし、ワシ、こいつ以外にくっつける人を探さないといけないのかな?

でも、くっつくだけなら星野さんや緑さんのほうがくっつき心地よさそうなのに、ワシ、こいつにくっつくほうが落ち着くんだ。こいつ男だから骨ばって筋張ってごつごつだけど、こいつにくっつくほうがいいんだ。こいつが、くっついてもいいよって言ってくれた時、すごく嬉しかったんだ。

今のうちにこいつにたくさんくっついておけば、来年までにはこいつにくっつかなくてもいいようになるかな?

ワシは、祟ってる奴にもっとくっつこうと思って、祟ってる奴の背中に手を回してぎゅっと抱きついた。

でも、来年の今頃までにくっつかなくてもよくなれる自信がない。峰家が持ってくるお見合いの話、うまく行ってほしい気持ちだったのに、うまくいかなかったら、ワシはホッとするかもしれないと思った。

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