意外な人と出会いたくない

狭山さんのTwitter(現X)とmisskey(表垢はmisskeyと同時運用することにしたそうだ)で、てんころアニメ2期と、てんころ最終巻まで3ヶ月連続刊行と、新シリーズ『唐和開港奇譚』の知らせ立て続けにされた。

千歳(黒い一反木綿のすがた)は嬉しくて踊っている。

『どうしようかなあ、電子書籍って日付変わったらすぐ買えるんだよなあ』

「すごいファンだと、紙も電子も買ったりするよ」

『そんなことしていいのか!?』

千歳は目をまん丸くした。

「別に、悪いなんてこと全然ないよ。出版社も狭山さんも、買ってもらった分だけ儲けられるしね」

『それもそうだなあ』

千歳はタブレットを開き、何事か吟味し始めた。

『電子書籍、普通の本よりちょっと安いんだな……うーん……電子書籍はどこでも見られて、紙は人に貸しやすい……うーん……』

紙も電子も一長一短あるんだよな、電子はいきなり配信停止になりうるし。まあ、千歳のお金で買うんだし、好きにすればいい。


その日、仕事が早めに終わったので狭山さんのDiscordを見たら、作業中ボイスチャンネルに狭山さんが一人でいたので、俺は話しかけてみることにした。

「こんにちは、新刊おめでとうございます」

「あ、和泉さん!」

狭山さんも少し時間が空いていた、とのことだった。

「わざわざありがとうございます、あ、唐和の漢方コラムやっぱり入れたいそうなので、担当さんから和泉さんにそのうち連絡行くと思います」

唐和開港奇譚、章の切れ目ごとに、話の解説になるちょっとした漢方コラムを入れないか、という話が出ていたのだった。

「ありがとうございます、頑張ります」

そのままなんとなく雑談した。狭山さんは、今度金谷さんとデートで猫カフェ行くそうだ。金谷さんが、猫とのふれあい方を知りたいらしい。

「でも、クーちゃん、心配しなくてもすごく人懐っこくありません?」

こないだ、初対面なのに俺や千歳にお腹触らせてくれたくらいだしな。

苦笑するような狭山さんの声が答えた。

「そうなんですけどね、なんかあかりさんの中でクーは僕の小姑くらいの存在になってるみたいで、猫礼儀を失したくないみたいなんです」

「猫礼儀?」

「いきなり大きい声出さないとか、挨拶は鼻チューとか、おでこぐりぐりは親愛の証とか、そんなのですね」

「あー、なるほど」

猫語を知りたいわけね。

「猫に対する注意事項が多い猫カフェをあえて選んだんで、まあ、その辺肌でわかりますよって安心してもらったので」

「金谷さんに、狭山さんのそういう心遣い、伝わると思いますよ」

こないだの狭山さんの愚痴を踏まえて、俺はそういった。狭山さんの照れ笑いがした。

「へへへ、そうだといいんですけど……」

その後もなんだかんだ話し、千歳に夕飯に呼ばれて会話から落ちた。

翌朝、狭山さんの担当を名乗る人のメールを見て、俺は腰を抜かすかと思った。

奥武蔵。

俺が小学校の時の親友と同じ名前。

俺が小学校の時、絶交された親友。

俺が小学校の時、おっくんのお母さんを、俺の母親の言う通りに、インチキに勧誘した、から……。

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