閑話 えっちな本とチョコミント

今、かつてないチャンスが到来しているのかもしれない。


祟ってる奴が「駅前の銀行口座に用がある」と出かけてしまった。ついてってやろうかと言ったけど、「今日は大丈夫だよ、ありがとう」と断られたので留守番だ。

あいつが長く家にいないの初めてかもしれない。なんか今しかできないことやろうかなと思って、部屋の真ん中でごろごろ転がってみたけど、祟ってる奴がいてもできるなと思ってやめた。

どうしようかな。昼飯の仕度までまだ時間あるし、ヒマだな。今しかできないこと……。部屋の隅々まで掃除とかかな……。

ワシは思いついた。そういえば、祟ってる奴になるべくいいことや楽しいことを増やしてやろうと思ってたんだった。前やろうとしてうまく行かなかったけど、そろそろ女抱く練習させてやってもいいんじゃないか? 今いない隙に、あいつのAVでもエロ本でも探り当てて、それ参考にあいつの好みの女になれば、今度はうまくいくんじゃないか? あいつだって、好みの女抱けたら嬉しいだろうし。

それには、あいつがいない今がチャンスだ。

そう思って、さっそく机の裏とかパソコンの裏を探したけど、何もなかった。洗濯物は畳んでおいたら祟ってる奴が自分でしまってるから、下着とかタオル入れてある引き出しかと思ったけど、なかった。普段着の引き出しも漁ったけど、それらしいものはない。よっぽど巧妙に隠してあるのかな? 男の必需品なのに……。

「ただいまー」

あれこれひっくり返していたら、祟ってる奴が帰ってきてしまった。ワシはあわてて散らかした服を引き出しに詰め込みだした。

『お、お帰り』

「あれ? どうしたの?」

祟ってる奴は、部屋に入ってきて不思議そうな顔をした。

『い、いや、ちょっと整理』

「あー、どうもありがとう」

祟ってる奴は肩掛けカバンを下ろして、手洗いとうがいに洗面所に行き、また戻ってきてカバンを開けた。

「千歳、これお土産。チョコミント」

出てきた緑の箱に見覚えがあった。前、カルディってところで買った、一口サイズがたくさん入ったおいしいチョコミントだった。

『え! いいのか!?』

「これも」

祟ってる奴は、カバンからもうひとつ箱を取り出した。似たようなデザインで、でも少し薄い緑色だ。

『え、これもチョコミントか!?』

「これはホワイトチョコメインだって。同じメーカーの」

『うわー、チョコミント富豪だ! やった!』

「三つ目もどうぞ」

『えっ?』

もうひとつ、似たデザインの箱で、でも赤い箱を渡された。

「これ、ミントキャンディーの細かい粒が練り込んであるやつだって」

『え、こんなにいいのか!?』

「いいよいいよ、いつものお礼。好きそうなの買ってこようと思ったんだけどさ、どんなチョコミントがいいか分からなかったから、全部買ってきちゃった」

祟ってやる奴は、ふにゃっと笑った。カバンを机の横にかけて片付けながら言う。

「本当はさ、駅前の系列のコンビニしか売ってない新発売のチョコミント買おうと思ってたんだけどさ、港南台のNewDaysは仕入れてなかったから、代わり」

『え、そんなのもあったのか!?』

「この辺だと、後はもう通販でしか買えなさそうだから、買いたい時は俺に言って」

『う、うん』

ワシはチョコミントを三つ抱えてうなずいた。そんなにレアなチョコミントのこと、なんでこいつ知ってるんだろう。今くれたチョコミントについても、やたら詳しかったな。

『なあ、お前、何でそんなに詳しいんだ? 自分でチョコミント食わないのに』

ワシは首を傾げた。

「え、そりゃ調べようと思えば調べられるし……。チョコミントは、好きな人が情報発信してたりするし。千歳喜ぶかなと思って」

『うん、こんなにたくさんチョコミント食べれるのうれしい! 通販のやつも見てみたい』

「今見る?」

『見る!』

祟ってる奴はパソコンをつけて、すぐ通販のページを出してくれた。

……そういえば、インターネットって調べるのにもっと時間かからないか? なんていうか、調べる言葉入れて、検索して、検索して出てきたページをいくつか調べて、それでやっとたどり着かないか? すぐ出すのって、お気に入りとかブックマークとか言うのに入れとかないとできなくないか?

え、じゃあ、こいつ、チョコミントについて調べて、それ整理してまとめてるのか。調べるのだってそれなりに手間なのに、こいつは調べてくれてるんだ。

自分で食わないのに。ワシが喜ぶからって。

……こいつ、いい奴だな……。すごく優しくていい奴だな。

こいつには、こいつの優しさに見合ういい女を絶対にあてがってやろう。

いい女を引っ掛けられるいい男にしてやるには、金稼がせるのもそうだけど、経験積ませないと。

機会を伺って、なんとかこいつのエロ本を探しだして、こいつの好みの女の格好になって、練習させてやろう。こいつが留守にするの、次はいつかな?





ヒント:令和の二十代なんてエロはすべてインターネットで事足りる



https://kakuyomu.jp/users/zingibercolor/news/16817330654020848274

『子々孫々まで祟りたい』キャラにあげたいチョコ・お菓子を募集しています

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