できれば長く過ごしたい
怨霊(命名:千歳)に『卵が一人一パックまで九十九円だし、台風前に買い込みたいから荷物少し持て』と言われて近所のスーパーに駆り出されている。今日はそんなに暑くなくてよかった。
卵含めていろいろと買い込み、荷物をエコバッグに入れて帰ろうかというところで、スーパーの出入り口に笹飾りが置いてあるのが目についた。
「もう七夕か」
千歳(女子中学生のすがた)が笹の近くに置いてある長机に寄っていった。
『短冊書けるぞ、好きにつるしていいんだって』
「なんか書いてく?」
『えーと、じゃあ、和泉豊がものすごく元気になってものすごく稼いでものすごく子孫を繋ぎますようにって書く』
「……千歳の願いがそれなのはわかってるけど、このプライバシー保護全盛の時代に俺の名前出して書くのはやめて」
近所づきあいはまったくないが、俺の名前と存在を知っている人に万が一その短冊見られたりしたら、俺はどうすればいいんだ。
千年は唇を尖らせた。
『じゃあ、なんて書けばいいんだ?』
「同居人とかにして、名前の代わりに」
『しょうがないな……』
千歳はエコバッグを肩にかけたまま、器用に机の上の短冊とペンを取った。
『お前はなんて書くんだ?』
「え? そうだな……世界平和と新型コロナ絶滅」
『短冊ってそういうんじゃないだろ! 確かに叶うといいことではあるけど!』
「いいじゃん、世界平和になったら物価高マシになって暮らしが楽になるかもしれないし、新型コロナがなくなったら少し景気良くなるかもしれないし、そしたら俺の仕事も良くなるかもしれないし」
たくさんの人が幸せになって、俺も幸せになる。割のいい願いだと思う。でも千歳はあまり納得していないようだった。
『そんな、風が吹けば桶屋が儲かるみたいな……もっと直接の願い事書けよ』
まあ、それもそうかもしれない。
「直接ねえ……まあ、いい感じの仕事が途切れずに、といってもできないくらいたくさんでもなく、ちょうどいいくらいの量来たらいいかな」
『じゃあそれも書け』
というわけで、俺も短冊を二枚取った。エコバッグを肩にかけ直しつつ、一枚目の裏表に世界平和と新型コロナ絶滅、二枚目の表に「こなせる量のいい仕事が途切れず来続けますように」と書く。
……特に何も考えずに一枚目の裏表に書いてしまったけど、これいいんだろうか。いいなら、二枚目の裏にも何か書けるな。ついでに何か別の願い事書こうか。どうしようか。直接の願い事、他にあるだろうか。
千歳がうれしそうに言った。
『書けた! 笹につけるぞ!』
「あ、ちょっと待って、俺もうちょっと追加で書く」
ペンを回しつつ考える。俺の直接の願い事。叶ってほしいこと。
楽しそうに笹に短冊をつける千歳を見ながら考えて、気がついたら、こんな文面ができていた。
「同居人がなるべく長い間いてくれますように」
……改めて見ると、なんかすごく照れくさいな。千歳に見られるのは阻止しつつ、笹につけよう。まあ、見られても『いい女見つけて結婚して子供作りたい、くらい書けよ!』と言われるだけかもしれないけど。
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