一緒にカレーを味わいたい
「よし、四回目接種はとりあえず必要ない! 副反応回避!」
自分の虚弱さを考えると、あまり喜ぶところではないのかもしれないが、俺は市役所のホームページを前に思わずガッツポーズしてしまった。
『四回目ってなんだ?』
家事を終えて、タブレットを見ながらゴロゴロしていた怨霊(黒い一反木綿のすがた)(命名:千歳)がパソコンをのぞき込んだ。俺は説明した。
「こないだ打った、新型コロナワクチンの四回目のこと。基礎疾患ありなら四回目推奨なんだけど、過敏性腸症候群は基礎疾患に入らないって」
『お前、自律神経失調なんとかとかいう病気じゃなかったのか? それとも過敏性なんとかとか言う病気もあるのか?』
千歳が、呆れたような気の毒がるような顔になった。どんだけ体悪いんだと言いたいらしい。そんな反応になる気持ちはわからなくもないが、好きで体悪くしたわけでもないので困る。
俺はとりあえず説明した。
「実態としては自律神経失調症なんだけど、これ正式な病名としては認められてない病態だからさ。俺、調子崩してから腹壊しっぱなしだから、書類とかに書く正式な病名としては過敏性腸症候群ということで診断もらってる」
『なんか複雑なんだな……』
千歳は首を傾げた。
「まあ、過敏性腸症候群は自律神経がイカれてなることもある病気だし、自律神経失調症のうちの一症状を取り上げて正式な病名として使ってる感じかな」
『ふーん』
千歳はとりあえず納得したようだった。
『お前、明らかに腹具合悪そうなツラしとるもんな』
「どんな顔だよ」
『一応、揚げ物は消化に悪そうだから作っとらんが、なんかダメな物とかあるのか?』
「え? えーと……」
俺は、昔もらった過敏性腸症候群についての説明パンフレットに載っていた情報の記憶をたどった。
「うーん、多すぎる脂質とか多すぎる炭水化物とか、香辛料とか……あとアルコールとかかな。豆類とか小麦もあんまりよくないらしいけど、俺ベーシックパンやめても全然変わらないから、俺の場合は多分関係ないよ」
本当はカフェインもよくないのだが、さっきインスタントコーヒーを淹れたばかりなので黙っておく。コーヒーないと仕事に気合入れる手段がなくなるし。
千歳が動揺した顔になった。
『おい、今日うっかりカレー作るところだったぞ』
「いいじゃんカレー、久々に食べたい」
『でも、油ものも香辛料もダメなんだろ?』
「多少なら平気だよ、ベーシックパンのカレー味食べたことあるけど特に変わらなかったし」
『特に変わらないって、いつもと変わらず腹具合悪かったってことじゃないのか?』
「まあ、そうとも言うけど」
『うーん、ワシもカレー食いたいしな……何とかならんか……うーん、カレールーじゃなくてカレー粉使えば、脂はどうにかなるか……? とろみは片栗粉か小麦粉でつけるとして……』
千歳はうつむいて考え込んでしまった。カレールーを使わず作るカレーというと、最近流行ってるスパイスカレーもそうだな、と思っていると、千歳が顔を上げた。
『おい、カレー粉少なめでカレーになるレシピとかないのか? いつも料理の参考にしてるインターネットにはなさそうだから、お前ので調べろ』
いつも千歳が参考にしてるネットのレシピサイトにはそういうカレーレシピはないと言いたいらしい。
「えー、ちょっと待って……カレー粉少なめねえ。使うスパイス少ないスパイスカレーとかで出るかな?」
適当に単語を選んで検索し、出てきた結果を漁る。
「あ、これとかどう? スパイス三つで作る辛くないスパイスカレー」
よさそうなサイトが出てきたので、千歳と二人でのぞき込む。
『ターメリック? クミン? コリアンダー?』
「ウコンとかだね、最近ならスーパーに置いててもおかしくないスパイスだよ」
『うーん、あとの材料はニンニクとショウガと玉ねぎと肉か……全部買い置きにあるし、このスパイス三つ買えば作れるか……高いスパイスなのか?』
「別にそこまでではないと思うよ、グラムで計算すればカレー粉とそう変わらないと思う。余るだろうけど」
『うーん、まあ三つとも同じ量使うし、何回かカレー作れば使い切れるか』
千歳は決めたようだった。
『よし、午後の買い物でこのスパイス探してくるぞ』
「よろしく」
『見つからなかったら今日は肉じゃがだ!』
「カレー粉で作ればよくない? 千歳もカレー食べたいんじゃないの?」
『気分の問題だ!』
千歳は無事にスパイスを見つけてはしゃいで帰ってきて、夕飯は脂質控え目スパイスカレーだった。甘口ながらしっかりスパイシーでおいしかった。千歳もカレー欲が満足したようだった。
『ちゃんとカレーの味になったな! カレー風味の料理もたくさんあるし、今度からこのスパイス使って作るぞ!』
「楽しみにしてます」
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