第32話 変わり始めるクラス
「……おお、なんか凄いな」
教室を見回すと、晴也は思わず驚きの声を漏らした。普段は鈍感な晴也であっても、気づくくらいには違和感を覚えている。
ここ最近、男子の風貌が変わっていたことに気づいたのだ。
ピアスにワックスなど、軽いお洒落を男子が決め込んでいる。晴也の通う高校はそれなりの進学校であるため、真面目な生徒が多いはず。
それなのに、同じクラスの男子が悪びれているため———晴也としては口をぽかんと開ける他なかった。
「……最近のブームみたいだぞ、ピアスとワックス」
自席で唖然としていると、隣から佑樹が晴也の様子を見て口を開いた。朝のホームルーム前ということもあって、佑樹は晴也の話し相手になった様だ。
「皆、不良になったのか? 先生に怒られるぞ」
繰り返しになるが、この高校は自由を重んじる学校ではなく規則の厳しい進学校だ。
詳しく校則を知らない晴也だが、ピアスにワックスはまずいということは察しがつくのである。
「まっ、そりゃ怒られるのは覚悟の上だろうな」
「どういうことだ?」
「怒られてでも勝ち取りたい物があるってことだろうよ」
「は、はぁ……?」
意味が分からず首を傾げる。クラスの内情に特段興味を持たない晴也であっても、この高校に通う生徒達はそれなりに真面目だと把握していた。そのため、この男子の奇行にはどんな理由があれ理解が追いつかないのだ。
顔を確認するでもなく、あたりを見回せばワックスにピアス——その上、根暗っぽい男子までもがお洒落をしていたためホントに意味が分からないでいる現状である。
『———S級美女の好きな男子は、ピアスにワックスをしているこの高校の男子である』
耳元へと寄ってきて吐息を当てつけられながら、そんな言葉を佑樹から晴也は受け取った。
(……また、S級美女? の話か。ここ数日はずっとその手の話題ばかりだな)
少女漫画の様な出会いをした、という女子のそれからの話には少し興味はあるが、それ以外に関してはめっぽう興味がない晴也。
億劫そうにしながらも、佑樹から詳細を聞くに……どうも"S級美女"である三人全員がピアスにワックスをしているこの高校の男子が好きであるらしかった。
「……だから皆ワックスやピアスしている、と?」
「そういうことだな。先生に怒られる代償にS級美女とお近づきに、好みの対象になれればお安い物なんだろう」
「……単純というかなんというか」
体育の一件からも片鱗はあったが、まさかここまでとは。晴也はこのクラスの男子の単純さに思わず頭を抱え込んだ。
「まっ、あとはトレンドだろ。簡単に言えば流行りだな」
「ワックスにピアスが?」
「そうそう。ほら、俺もここに……」
少しロン毛っぽい佑樹は髪を掬い上げて、耳元をこっそりと見せてくる。片耳には申し訳程度に小さめのピアスが耳たぶについていた。
「そこまでして、そのS級美女に振り向いて欲しいのか」
「皆、恋したいからなぁ。だからさ赤崎もピアスにワックスすればS級美女に振り向いてもらえるかもな」
冗談まじりに嫌味を笑いながら言ってくる佑樹に晴也は『そうだな』と適当に流すだけにしておく。
(それにしても、その女子が好きっていうのは、ワックスにピアスをしているその男子というだけであって、単にワックスやピアスをすればいいって話じゃないよなぁ……)
———なんて、一人そんなツッコミを内情で抱えた。本当に、クラスの男子は単純だと思う。そして、この進学校でワックスやピアスをし始めた男子に敬意を晴也は評したのだった。
(……俺は、"学校"ではそんなワックスにピアスなんて無理だからなぁ)
まさか、その正体が自分であるということには気づかずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます