第22話 S級美女との邂逅(結奈)①
「ふぅ〜、今日も一日やっと終わったな」
気だるい授業をようやく終えると、クラス内は学生達の活気づいた声で賑わいを見せている。寝たフリをし、顔を伏せていた晴也に佑樹は労いの言葉を送っていた。
「そうだな」
特にこれといって返す言葉もなく、淡々と抑揚のない声で返答する晴也。
ニヤニヤと白い歯を覗かせる佑樹を見るに、どうやら労いの言葉というのはあくまで本題に入る前の建前であるらしかった。
晴也は鈍感ではあるものの、佑樹に対しては妙に感が鋭いのだ。大概、佑樹が分かりやすい性格をしているからではあるのだが、薄々この後、話してくる内容も察しがついていたりする。
「……赤崎、それでな」
「はいはい。もういいって、その話は」
「まだ何も言ってないんだが!?」
「……はぁ。おおよそあの女子の話だろ?」
あの女子、というのは"S級美女"の一人、高森結奈のこと。今日のトレンドなのか、佑樹は度々その話を晴也に振っていたのである。
嫌というほど聞かされた話題に少々、晴也はうんざりとしていた。
「ま、まぁ……そうなんだけどな。今日一日通して思ったことだが、確実に高森さんは恋してるぞ……」
「それは良かったな。もしかしたら、チャンスかもしれないし」
「いや、その相手が俺なわけないだろ? きっと相良とかなんだろうけどさ。なんかここ最近、難攻不落のS級美女達の様子がおかしいから赤崎には共有しとこうと思って」
余計なお世話だ、と思うものの佑樹の口は止まることを知らないだろう。
何度、面倒くさがっても懲りずに佑樹は話しかけてくるのだから。
「まぁ、頭にだけは一応入れとくよ」
「そうしてくれ……クラスの男子と仲良くなるためには必須な情報だからな」
親指を上げてグッドポーズを決め込む佑樹であるが、生憎と交友関係を広げるつもりは晴也にはない。
何せ晴也は一人でいる方が気楽——という信条を掲げているからだ。最もここ最近は、趣味を共有できた経験から案外、"同志"を作るのは悪くないことだと思っているのだが。
晴也がこくり、と縦に首を振ると佑樹は視線を外して申し訳なさそうな顔を浮かべる。
「悪い……。別の友達に呼ばれたみたいだ」
見れば同じクラスの男子が佑樹の名前を呼んでいた。ここ最近は、ちょくちょく絡む様になった晴也と佑樹だが……まだ親密な関係値までは築けていないのだ。
晴也は、気にしないでくれ、とコクコク首を振って佑樹の後ろ姿を見送った。
(……S級美女が誰だか今いち知らないけど、関わることなんてありはしないだろ。なんでそんなにその手の話題がしたがるんだか)
クラスの男子が群がる情報源に疑問を投げかけながら、晴也は帰宅の準備を気怠げにし始めた。
♦︎♢♦︎
放課後、一人で帰路を辿っていた晴也だったがあることを思い出して律儀にも道を引き返していた。
(……そういえば、ワックスがもう切れかけてたっけ)
晴也にとっての"日用品"が無くなりつつあることを思い出したのだ。
晴也の愛用しているワックスは比較的、高校近くに位置している"ドラッグストア"に置いてある。一度家に帰ってから、買いにいくというのは少々面倒であった。
別に急ぎで必要、というわけではないものの、ワックスの不足に気づいた以上、胸のつっかかりが買わないと取れそうにもない。
(……でも、この姿で買い物行くんじゃなぁ)
晴也にとっての懸念点はそこ。この身なりでワックスを買うところを同級生、ましてや佑樹に見られれば揶揄われること間違いなしである。高校近くに位置しているドラッグストアであるからこそ、晴也のことを知っている同級生に出会わない可能性はないとは言い切れないのだ。
(こうなったら、簡易的に頭髪整えるしかないか……それと、イヤリングつけてっと)
あたりを見回して、人がいないことを確認すると晴也は髪をかきあげて、普段、外出する時に近い容姿になる様に整えはじめた。
小さな手鏡で、ある程度納得のいく容姿になったことを確認すれば、堂々と晴也はドラッグストアへと歩みを進めていく。
(よし。これなら例え同じ高校の人と出会っても、"赤崎晴也"だと思われないだろう……)
内情で口角を上げて、一人テンション高くドラッグストアへと向かう晴也であるが、この後S級美女の一人、高森結奈と再び邂逅することになるのだ。
———そして、次第にある違和感に気づくことになるのだが、この時の晴也に知る余地はないのである。
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