第40話 故郷はエーテルの彼方へ ②

「あ、理由て言った方がいい?」

「いえいえ、大体予想がつくので結構です」

「いやいや! ボクは全然予想つかないので教えてください!」

「えー、めんどくさ」

 

 クソみたいな会議の後でめちゃくちゃ疲れてるから尚更めんどくさく感じている。

 

「仕方ないな、まず武装惑星デルニアから説明するか」

「デルニアって、ボク達が最初に行った惑星ですよね?」

「そ、キュービックの後にな。あそこってなんで武装してたと思う?」

「え? そりゃベクターに備えてとかじゃ」

「まあそれもあるけど、実際は外敵に備えてた訳じゃないんだ。本当は中にいる奴を外に出さないために武装してたんだよ」

 

 そもそもエンシワ連盟の領界から数百光年も離れた惑星を武装させるメリットなんて無い、武装させるなら領界ギリギリの惑星や衛星にし、外側を監視しつつ防衛する方が良い。

 

「それだけ武装して外に出す事を許さない奴ら、例えば死刑執行ができない凶悪犯とか危険な動物とかがいたんだ、つまり武装惑星デルニアは監獄惑星だったわけ」

「ほ、ほぉぉ」


 デルニア星系に人の住める星はデルニア以外無い、つまりデルニアから脱走に成功したとしても逃げ道がほとんど無いのだ。星系から上手く出られたとしても、その先にあるのは未開拓の領域なので補給はままならない。また定期的にエンシワ軍が巡回しているので隠れるのも難しい。

 

「そんな監獄惑星にガリヴァーが訪れた。目的は一つ、デルニアに収監されている囚人達を連れて行くため」

「なんで囚人を連れてくんです?」

「デコイのため……ですよねぇ?」

「その通り」

 

 そもそもガリヴァー単機でベクタークイーンを倒そうなど無理がある。例えクイーンの肉片を回収するだけだとしても、接近するまでが不可能に近い。

 だからこそのデコイ、それもただのデコイではなく生きた人間を使ったデコイだ。

 囚人達をクイーンとの接触ポイント付近の衛星や隕石に配置し、彼等に武器を持たせて放置する。そうすれば囚人達は群がってくるベクターと死にものぐるいで戦い始める。たとえ無駄とわかっていても、生への執着は生き物全てが持っている欲望のためほとんどの囚人が抗っていた。

 そして囚人達が戦えば戦うほど、クイーンの周りは手薄になり攻めやすくなる。

 

「そんなの酷いですよ」

「だな、囚人達の武器はキュービックで購入したらしい」

「しかしその後どうやって心臓の破片を手に入れたんでしょうねぇ」

「自爆」

「え?」

「自爆したんだよ、爆弾を積んだ小型シャトルに乗ってクルーが特攻したんだ。二十四人もな」

 

 さしものクイーンでも至近距離で二十四回も爆発を受ければ耐えられなかったようで、胸に小さな穴が空いてしまったらしい。

 そこから二十五人目が心臓をえぐり出して持ち帰ったというのが実際にあった事だ。

 

「ボク達を助けてくれたあの艦長が、クルーにそんな命令をだすなんて」

「実際はクルーの方が提案してきたらしい、それを後から艦長の命令として処理したんだ」

「おかしいですよ、なんでそんな簡単に命を粗末にできるんですか」

「確かにおかしいけど、彼等にとって……いや、俺達は倫理観を持ち出せるほど有利な立場にいるわけじゃない。あの時のガリヴァーにとって、それが最善の策だったんだよ」

 

 ドクターは黙りこくったが、まだ納得がいかないようで服の裾を掴んでワナワナと震えている。医者としては自分から死にに行くというのが、理解はできても共感ができないのだろう。

 

「でも艦長はずっと後悔してたみたいだよ、彼の手書き日誌には囚人達を囮に使った事とクルーに自爆特攻させた事に対する謝罪が綴られていたんだ」

「その日誌は見せてもらえますかねぇ」

「いくらサマンタランでもこれは見せられないな。これは俺が墓場に持っていく」

「う〜〜〜ん残念です」

 

 あの時、リオ達を助けたのはせめてもの罪滅ぼしだったのだろうか、それともただの使命感だったのか、今となってはわからない。

 

「ちなみにクイーンの胸部は以前より強化されてるみたいだから、同じ手は使えないぞ。参考になったか?」

「それはクイーン討伐の参考になりませんね」

「リオさんは、その事を公表しないんですか?」

「ああ。公表しても市民からのパッシングでせっかく波に乗り始めた討伐の流れがパーになるかもしれないし、それに前クルーの遺族達も非難されるかもしれないだろ」

「そう……かもしれませんね」

「だからこれでいいんだよ、前クルーは勇敢に戦って死んだ。それでいいんだ」

 

 それが、前クルーに対してリオができるせめてもの手向けだ。

 

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