第27話 あの艦を目指せ! ⑤
エーテルドライブが解除され濃紺色の世界へ戻る。レーダーで障害物が無いことを確認したが、周囲の状況はまだ分からないので即座にスキャンをかけた。
「周囲に異常はありません、安全です」
「少し休憩しましょうか」
ブリタニア号を近くの隕石に着陸させてから息をつく。快速船の名は伊達ではなく、旅を始めてから僅か二日で三分の一も距離を詰められた。
このペースなら七日かかるかかからないかぐらいで到着するだろう。
「皆さん、特に問題が無いなら今のうちに健康診断をしましょう」
「まるでお医者さんみたいな事を言いますねぇ」
「ボクは医者ですよ!!」
艦長命令で無理矢理行う事にした。
本当は出港前にやっておくべきなのだが、慌ただしかったのでやる暇がなかった。副長をブリッジ待機にしておき、ヒデは機関室の整備が終わってから休憩に入る。ロビンソンとサマンタランが先に手が空いたので二人から健康診断を始める。
「まずはサマンタランさんですね」
「んーー、若い女の子に弄られると思うと興奮しますねぇ」
「誤解を招く言い方はやめてください、はいそこのベッドに寝転がってくださいねー」
ふよふよと上下に揺れながらサマンタランはベッドの側へと寄る。ポンチョは脱がずにそのまま寝転がってドクターの指示を待つ。
ドクターは「動かないでください」と伝えてから両手をかざして魔法を使う。魔法陣が掌とサマンタランの周りに現れて体内の異常を調べる。レントゲンやMRIと違って金属や布に影響される事はない。
五分程念入りにやってから結果をカルテにまとめる。
「過去の診断結果と比べてエーテル器官に少し負荷がかかってますね、魔法の使用頻度を下げた方がいいですよ」
「エーテル器官は使えば使うほど強くなるんですけどねぇ」
「やりすぎると良くないですよ、何事も程々です 」
「ではしばらく最低限の魔法で留めておきますか」
「それがいいです。ちゃんとエーテル器官を休ませてあげてください。カルテは後で送っておきます」
ベッドから浮遊して医務室から出ていくのを見送る、口では魔法の使用を最低限にすると言っていたが、あの手合いは直ぐに屁理屈をこねて魔法を使い出すのが目に見えているので、ドクターはこっそり副長にプライバシーが守られる範囲で監視を頼んでおいた。
次に来たのはロビンソンだ。
「ロビンソンさんは初めてですね、過去の診断結果とかってありますか?」
「ごめんそういうの持ってないや」
「大丈夫ですよ。ロビンソンさんと同じテンマ星人かつ同年代の女の子の平均と比較しますので」
「なんか恥ずかしいなあ」
サマンタランと同様にベッドへ寝転がりドクターの診断を待つ。五分かけてじっくりアナライズ魔法をかけ終わったあと、ドクターはライブラリーからテンマ星人の平均と先程の診察結果を比較し始める。
「うん、特に問題は無いですね。むしろ平均より健康的なくらいです」
「ふふーん、冒険に大事なのは健康的な身体だものね!」
「いい心がけですね、皆さんもロビンソンさんくらい素直で元気だと良いのですが」
「お医者さんいらなくなっちゃうね」
「それが理想なんですけどね」
「あっそうだ、ずっと聞きたかったんだけど」
「なんですか?」
「お爺ちゃんてどんな人だったの? お話した事あるんでしょ?」
「ええ、短い時間でしたがとても素敵な人でした。どんな人とでも仲良くできて」
それからヒデがやって来るまで二人は語り明かした。ロビンの話題から始まり、ロビンと仲の良かったリオの話、家同然のように思えて来ていたガリヴァーの話、話せるだけたくさんドクターは話した。旅が始まってから初めて同年代の女の子と話せたおかげか、リオがいなくなってから感じてた不安が少しだけ和らいだ気がした。
最後はヒデの診断だ。
「ヒデさんはちゃんと睡眠とってバランスの摂れた食事をしてください」
「おいまだ診察してないだろ!」
「普段の生活見てたらわかりますよ、診察はしますけど」
ベッドへ横になったヒデをアナライズ魔法で調べてドワーフ族の平均と前回の診断結果を比較する。結果は予想通りだった。
「結構体重増えてますね。運動もした方がいいですよ」
「ぐぬぬ」
悔しそうに歯噛みしながらヒデは医務室を出ていく。厳しめに言ったが、ヒデはリオがいなくなってから不眠症が続いており、連盟の医者曰く心理的な問題だから時間の解決を待つか自力で解決するしかないと診断されていた。
これで少しは寝る努力をしてくれると良いが、あとで睡眠薬と食事を持って行ってあげよう。
「これで健康診断は終わりですね」
「いえ、私が最後です」
突然副長が現れた。システムだからと不意打ちで現れるのはやめてほしい。
「あなたの場合はヒデさんかサマンタランさんに頼むべきだと思います」
「確かにその通りです」
そう言って副長は再び姿を消した。おそらくヒデかサマンタランの元へ向かったのだろう。
一体なんだったのだろう。
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