第26話 あの艦を目指せ! ④

 ブリタニア号の各セクションと物資を確認し、発進準備が整うのを待つ。

 各作業が終わるのに約一時間を要した。最後に終わったのはヒデで、彼がブリッジに上がった頃には全員集まっていた。

 

「機関室は問題ないぜ、直接的な破壊が起きない限りはブリッジで操作できるみたいだ」

「少ない機関士で回せる設計ですからねぇ、わたくし同僚の仕事ぶりに鼻がたかくなります」

「医務室も大丈夫です、医療器具も薬も充分あります」

「操縦もOKだよ、シミュレーションもバッチシこなしてきた」

「みなさんいい働きぶりですねぇ、あたしも食糧を確認しました、まあ大体二ヶ月はもつでしょう」

「二ヶ月だとギリギリじゃないですか?」

 

 ドクターが尋ねた。実際ロイヤルメローに乗っていた時は一ヶ月もかかったのだ。往復を考えたらあまりにもギリギリと思われる。その上捜索もするのだから余計にかかるだろう。

 と杞憂していたが、サマンタランは魔法でペンを浮かべ左右に振り否定の意を示した。

 

「ノンノン、まずこの艦は鈍重なロイヤルメローと違い快速船ですので速度は倍以上あります。更に我らがラボラトリーの新型エンジンを搭載してますので更に速度マシマシ、エーテルドライブも十二光年先までいけます」

「ま、代わりに装甲が薄くて攻撃能力も公子魔砲一つだけどな」

 

 つまり速度と馬力に振り切ったお陰でそれ以外が最低限になってしまったという。

 

「戦闘になったらジエンドですが、これなら片道七日ぐらいで到着します」

 

 みんなで気を付けましょうとなって発進準備よし、となったところでトラブルが発生した。突然アラートが鳴り響いて危険を知らせてきたのだ。

 そして遠方から断続的に爆発音が聞こえてくる。

 

「これ、何が起きたんですか!?」

「ベクターじゃねぇだろうな?」

「いーーえ、ベクターでしたら守備軍がもっと早くに気づいてアラートがでていますとも、おそらくこれはテロですねぇ」

「「テロ!?」」

「よくあるんですよ」

 

 エンシワにはたくさんの異星人がやってくる、交易のためだとか留学のため、または旅行や仕事の出張など。そして、救助を求めに。

 それはエンシワ連盟に所属している星や所属していない星まで、あらゆるところからベクターに襲われた故郷を救ってほしいとやってくる。

 

「昨日の時点で申請のあった惑星の数は二二〇です。だから皆さんの星に援軍を出すことを渋るのですよ評議会は」

「それとこのテロは何か共通あるんですか?」

「これは感情をもつ知的生命体に多く見られるんですが、人は追い詰められると馬鹿な事をします。これ以上ライバルが増えないよう新しい救難者を襲ったり、もしくはライバルを蹴落とすためにテロをおこすなんて事があるのですよ、あとは政府への不満とか」

「あぁー」

「まあ直ぐに収まるでしょう、出発は少し遅れるでしょうが」

 

 安全が確保されるまで待つ事にしたのだが、心無しか爆発音が大きくなってきている気がする。ドーン、ドーン、ドドーーン! と、段々大きく、かつ近くに。

 

「うーーーん、これは不味いかもですねぇ」

 

 サマンタランの危惧は直ぐに形となった。程なくして爆発がこの発射口に届いてしまったのだ、あろう事か出入口が崩れてしまい戻ることができない。爆発音は更に大きくなっているし炎も広がっている。

 

「仕方ありません、緊急措置という事で発進しましょう」

「え、でもハッチは閉まってるよ?」

「光子魔砲で破壊しましょう、ええもうそれは派手にド派手に」

「やったー! あたしそういう派手な発進してみたかったんだー」

 

 ロビンソンがウキウキしながら操縦桿を握った。合わせてサマンタランが光子魔砲の照準を前方のハッチへ向ける、副長が出力計算を行い、ヒデはエンジンを始動させる。ドクターは成り行きを見守るだけであるが、一向に光子魔砲が発射される気配が無い。

 

「あのー、発射しないんですか?」

 

 とドクターはサマンタランへ尋ねる。

 

「発射したいのはヤマヤーマですが、艦長の号令がないと」

「えっ!? 艦長はサマンタランさんじゃないんですか!?」

「はい! 艦の申請を出す時に艦長をドクターにしましたので、艦長はドクターです」

「ボクそれ初耳なんですけど!!」

「いやぁー、うっかりわざとやっちゃいました」

「言葉が矛盾してるんですよ!」

 

 艦長の件は後で問い詰めるとして、今はとにかく発進しなければならない。艦長になった自覚はまだ無いが、とにかく号令を掛けなければ。

 

「えっと、光子魔砲を撃ってください」

「はいドクター艦長」

「ドクター艦長はやめてください」

 

 サマンタランが光子魔砲を放ってハッチを破壊する、副長による出力計算は完璧で、周囲の崩落どころかヒビすら見えない。

 

「あたしは準備できてるよ」

「機関部もいいぞ」

 

 操縦士と機関士のお墨付きも出た。

 

「わかりました。それではブリタニア号を発進させてください」

「よしいっくよー!」

 

 景気良いロビンソンの掛け声と共にエーテルリアクターが稼働してエンジンが火を噴く。ぐんと後ろに引っ張られる感覚が思いの外強いのはそれだけ速度が出ているからだろう。

 初速でかなりのスピードがでている。あっという間にカタパルトを抜けてエーテル界へ飛び出た。

 

「脱出成功しました」

 

 副長の報告を聞き流してモニターで今出てきた発射口を見る。未だに爆発音は続いており、このテロが予想外に大きなものである事が見て取れた。

 あのまま留まっていたら巻き込まれたかもしれないと考えると、早々に離脱できたのは良い判断だった。

 

「緊急脱出した旨を報告しておきました。ではではー、テロは治安部隊に任せるとしまして。ワタクシ達は当初の予定通りガリヴァーを探しましょう」

「はいそうですね。ロビンソンさん、全速でいけますか?」

「オッケー、任せてよドクター艦長」

「ドクター艦長はやめてください」

 

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