宇宙船アルハンブラ

 宇宙船アルハンブラは今日も小惑星の周りを回っている。

 船長のメフィンはクセの強い男で

「世の中は1握りの天才によって動かされるべきだ」

 と平然という類のものだった。

 そんな彼だが、部下からの信頼は厚い。

 船長がこんなんで大丈夫か?と思うかもしれないが 彼が言うには

「私が優秀なんだから問題ないだろ?」

 とのことらしい。

 そして彼は

「まあ、宇宙に君臨する天才たる私ならば、この程度造作もない事だよ!」

 と言いながら、目の前にある物を指差した。

「なんですかこれ?」

 と質問したのは副長。

 彼の前には何か黒い物が置いてあった。

「ふっ……これは『探査用ロボット』だ!」

 見た目的にはロボットアニメに出そうな機体だった。

 ただ、サイズはかなり小さい物だが……。

「えっと……それで何を?」

「この機体はな! 私が発明した『小型重力波測定器』を積んでいるのだ!!」

 自慢げに語るメフィン。

 しかし

「はい?」

 全く意味がわからなかった。

「簡単に説明するぞ! この装置は超小型の重力波をキャッチできるんだ! そしてそのデータを私の頭脳に送り、私は瞬時に計算し答えを出すことができる!」

 メフィンの説明を聞き

「ほー……」

「なるほど~」

 と感心している船員達。

 しかし

「ん~……あの……それってつまりどういうことですか?」

 ただ一人を除いて。

「むっ?……ああ、そうかそうか……君には難しかったかな?」

 メフィンは首を傾げる。

 どうやら自分の凄さをわからせるために 説明をしたようだが、理解されなかったみたいだ。

「ではわかりやすく言おうじゃないか」

 メフィンは腕を組み話し始めた。

「例えばだ、ここに小さな虫がいるとする。もし仮に重力波を発生させたらどうなると思う?」

「はぁ……」

「いいかね? もし仮に重力波を発生させるような存在がいたとして、それを観測できれば我々はソイツについて知ることができるだろう」

「…………?」

「つまり! 我々に襲いかかってくるのか? それはどんな形なのか? そもそも知性はあるのか? 等々、そういった事を全てわかるようになるわけだ!」

「へぇ~すごいですね~」

「そうだろう!! はっはっは!!」

 得意気に話すメフィン。

 それに対して副長はあまり興味がない様子だった。

 そして話は終わり

「さて! 仕事に戻るとしようか!」

 と、作業に取り掛かろうとするが

「あ、すいませんちょっといいですか?」

 と副長が声をかける。

「ん? なんだね?」

「えっと……ちょっと気になったんですけど」

「うん」

「もしもの話ですけど、その装置が故障していた場合はどうするんですか?」

「は?」

「いやだから……壊れている可能性だってあるでしょう?」

「そ、そんな事はありえない!!」

「え? どうしてですか?」

「私が作ったからだ!!!」

「あ……はい……わかりました」

 自信満々に答えるメフィンに対し もう何も言えない副長であった。


 それから数日後のこと。

 いつものように小惑星の周りを回るアルハンブラ号。

 すると突然警報が鳴り響いた。

「何事だ!?」

「わかりません! 原因を調査します!」

 慌てて動き出す船内。

 しかし事態はすぐに判明する。

「大変です! 計器の一部が故障しています!!」

「何だとぉおおおおお!!!」

 叫びながらメフィンが向かうのは、例のロボットの近く。

 そこには確かに計器の一部と思われるものがあった。

「な……なぜこんなことに……まさか!!」

 彼は何かに気付いたようだったが

「メフィン船長! これは一体どういうことですか!?」

 と、船員達が押し寄せてくる。

 そのため

「待て! まずは落ち着くんだ!!」

 と彼らを宥めるしかなかった。

 その後、落ち着いた彼らは話し合う。

「とりあえず故障の原因は何でしょうか?」

「わからない……だがこれは私のミスではないぞ!」

「ええ、わかっていますよ」

「ふぅ……ならいいんだが……」

「それでどうしますか?」

「そうだな……修理をするしかないだろう」

「ええ、では誰がやりますか?」

「…………」

 沈黙の後

「仕方ないな……ここは私が直してやろうじゃないか!」

 とメフィンは言った。

「え? 船長直せるんですか?」

「当然だ! 私は天才だからな!」

 胸を張るメフィン。

「ではお願いします」

「任せろ!!」

 そしてメフィンは操縦席へと向かった。

「さてと……」

 操縦桿を握りしめたメフィンは慎重に動かす。

「よし! これぐらいでいいだろう! 後は自動修復機能に任せるだけだ!」

 そしてスイッチを押す。

「これで大丈夫なはずだ!」

「あ、ありがとうございます」

 船員達は頭を下げ礼を言う。

「なに、この程度造作もない事だよ!」

 と笑いかけるメフィン。

「ところで、あの~……」

「ん? どうした?」

「その……お聞きしたいことがあるのですが……」

 恐る恐る質問をしようとする船員。

「ああ、なんでも聞いてくれ!」

「えっと……じゃあ……その……」

「うん」

「もしかして……」

「ああ」

「その……あれって……自分でやられたんですよね?」

 とメフィンが指差す先にある物。

 それは、さっきまで動いていたはずのロボットだった。

「もちろんだ!」

 自信満々に答えるメフィン。

「ですよねぇ~」

 それを聞いて苦笑する船員達。

 どうやら予想通りの答えだったようだ。

「まあ、そう言うわけだ! 私は忙しいからこれで失礼するよ」

 と言って、その場から立ち去るメフィン。

 残された船員達は顔を見合わせ

「……なんというか……あの人らしいと言えばらしいけど……」

「……うん……なんか疲れた……」

 そんな事を呟き、ため息をつくのであった……。

「いやぁ……ほんとに凄いですねあの人は」

 モニターを見ながら話すのは副長だ。

「うむ、全く持ってその通りだ」

「ははは、でもまさかあんな方法で機械を動かすとは思いませんでした」

「そうであろう?しかしあれは天才的な発想だと思うぞ」

「ええ、本当に」

「まさに天災……か」

「ええ……そうですね」

「「……」」

 二人は黙り込む。

 何故なら今彼らが見ているのは メフィンが作った重力波測定器の映像だった。

 それはロボットの動きと連動しており ロボットが動いたことにより、画面が切り替わっていたのだ。

 つまりロボットの故障はメフィンがやった事になる。

「……それにしても……」

「はい……何と言いますか……」

「「さすがに酷すぎる……」」

 声を揃えて、そう思った二人であった。


 アルハンブラ号にて、とある会議が行われていた。

 その議題は『ロボットの修理について』である。

「えー……それでは、ロボットの修理について話し合いたいと思います」

「うむ」

「はい」

 議長は副長だ。

「とりあえず現状を確認しましょう」

 副長は手元の資料を確認する。

「まず、今回の問題は二つあります」

 と、彼は二つの点を指差す。

 一つはセンサー類。

 もう一つは人工知能だ。

「まずセンサーですが、修理自体は難しくありません」

「ほう」

「なるほど」

「ただ、修理が完了するまでには3日かかります」

「「は?」」

 予想外の回答に驚く二人。

「おいちょっと待て! 3日だと!?」

「はい、そうなります」

「何を言っているんだ! そんなに待てるわけないだろう!!」

 メフィンは怒り出す。

 それも当然の事だろう。

 何故なら彼は早くロボットに会いたかったからだ。

 だがそんな彼に

「いえ、待ってください船長」

 と、制止をかける者がいた。

「何だね君は!」

 彼は怒っているせいか、いつもより不機嫌そうだ。

「いいですか船長? ここで修理をしないということは、あのロボットが二度と動かなくなるかもしれないということなんですよ?」

「それがどうした!」

「ええ、確かにロボットが動かなくなっても、私達には影響は出ません。むしろ故障したロボットなんて邪魔なだけです」

「ああ、わかっているじゃないか!」

「ええ、もちろんわかっていますよ。あなたと違って」

「……」

 嫌味を言われ、さらにイラッとするメフィン。

「でも、それはあくまでも最悪の場合の話でしょう? 船長だって本当は理解しているはずですよ? もし修理に失敗したらどうなるのかを」

「……」

 無言になるメフィン。

 彼の言うとおりだった。

 何故なら失敗した場合、もう動くことがないから。

 つまり二度と会えない可能性が出てくるのだ。

 それを想像してしまったメフィン。

「……」

「だからここは大人しく待ちましょう」

 諭すように話しかける副長。

 すると

「ふぅ……わかったよ」

 と、渋々ではあるが納得したようだ。

 その返事を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす副長。

 どうやらうまくいったようだ。

「さてと……次は人工知能ですね」

「うむ」

「これは正直なところどうにもならないかもしれませんね」

「どうしてだ?」

「ええ、簡単なことです。この人工知能が故障している可能性があるからです」

「え?」

「どういうことだ?」

 首を傾げる二人。

 この機械の一番の問題点はここなんですよ」

 と、副長はモニターに映る人工知能を指す。

「見て下さいこれ。これを見て何かおかしいと思いませんでしたか?」

「うん?……ああ! 確かに!」

「本当だ!なんでこんなことになっているんだ!?」

「はい……実はですね……」

 そして彼は説明を始めた。

 その内容はこうだ。

 まず初めに彼はAIの故障を調べた。

 それはセンサー類の故障が原因ではないかと考えたからだ。

 そこで彼はまずセンサー類を確認した。

 しかしそこには異常なしという結果が出た。

「やはりセンサー類は問題ないようですね」

「そうみたいだな」

「では次に人工知能ですね」

「うむ」

「人工知能を調べるために、私はあのロボットに命令を与えました」

「うん?……まあ、そういうことになるのかな?」

 いまいちピンとこないメフィン。

 その横で副長は話を続ける。

「まあ、今は細かいことは気にせずに聞いてください」

「……わかった」

「それでですね……私が与えた命令は三つです」

 そう言って、彼はモニターに三つの命令文を表示する。

「えっと……一つ目が『動きを止めろ』ですね」

「うん」

「二つ目が『その場で待機』です」

「ほほう」

「三つ目は『今の命令を実行しろ』ですね」

「ふむ……ん?……あっ!」

 ようやく気付いたらしい。

「やっとわかりましたか……」

「まさか……」

 冷や汗を流すメフィン。

「ええ……そのまさかですよ……」

「……」

「……もしかして、全部壊れてるんですか!?」

「はい……その通りです」

「……マジか」

 あまりの出来事に愕然とするメフィン。

 そんな彼に、副長はある事実を告げる。

「それと、もう一つ報告することがあります」

「……なんだ」

 もう聞きたくないといった感じのメフィン。

 だがそんな彼を無視して、副長は続ける。

「実は先程、ロボットがこちらに向かってきまして……」

「……ほう」

「しかもそのまま衝突しました」

「……」

「どうやら命令を受け付けられないようですね」

「……」

「ちなみに現在、あのロボットがどこに行ったのかは、我々にはわかりません」

「……」

「つまり……どこにいるのかわからないんですよ」

「……」

 メフィンは黙ったまま、その場から動かなかった。

 それからしばらくして、彼は口を開いた。

「とりあえず……修理してくれ」

 こうして彼は修理を依頼することになった。

 修理完了まで3日かかるそうだ。

 その間、ロボットはどこかへ行ってしまった。

 おそらく修理中に会うことはないだろう。

 だが彼はそれでも良かった。

 何故ならロボットが帰ってきたとき、また一緒に過ごせるからだ。

 それに、もしかしたら修理中に帰ってくるかもしれない。

 だから待つことにした。

 修理が完了するその時を……。


「あれ?……メフィン船長?」

「船長!どうしたんですか?」

「おい!大丈夫か?」

 彼の目の前には部下達が立っている。

 どうやら彼が急に動かなくなったから心配したようだ。

「……いや、なんでもない」

「そうですか……よかったぁ」

 安心した様子の部下達。

 そんな彼らを見ながら、メフィンは思った。

(ロボットがいなくなったことは、言わないほうがいいな)

 と、彼は考えていた。

 何故なら、ロボットが戻ってきたときに困るから。

 何故なら、ロボットがいない間、自分がとても寂しかったから。

 何故なら、ロボットと離れるのは嫌だから。

 だからこそ彼は思うのだ。

 ロボットに早く会いたいと。


「……はっ!?」

 目が覚めるメフィン。

 ここはアルハンブラ号の船内だ。

 どうやら椅子に座って寝ていたようだ。

 辺りを見渡すと、いつも通りの光景が広がっていた。

 仲間達の楽しそうな声。

 そして作業をしている者達の姿。

「……夢だったのか」

 どうやら彼は夢を見ていたらしい。

「まあ、それもそうか」

 そう呟く彼の顔は、なぜか嬉しそうだった。

 ロボットがいなくなってから5日目。

 ついにその日が来た。

 それは待ちに待った瞬間でもあった。

 何故なら今日は待ちに待ったメンテナンスの日だ。

 そのため、ロボットが戻ってくる可能性があるからだ。

 メフィンは急いで格納庫に向かった。するとそこには、もうすでに仲間のロボットがいた。

「……はは」

 思わず笑みを浮かべるメフィン。

「お帰り!」

 そう言って、彼は思いっきり抱きしめた。

 それから少しして、メンテナンスが終わった。

「さてと……それじゃ、行こうか」

 メフィンの言葉にコクッと首を振るロボット。

 その後、二人は部屋を出た。

 向かう先は艦橋だ。

 そこに行けば仲間達に会えるはずだ。

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