山猫山荘奇譚

 ニューラグーン州はいわゆる逆3角形とも長靴とも形をしているのだが、その南、つま先の部分に山猫山荘というコテージ風のお屋敷がある。

ーねえ、知ってる?

ーなに、お姉さま?ーあのね、あそこって出るらしいわよ……。

ーで、出るって……? ーうふふ、幽霊よ! ーゆ、ゆうれいぃ~!? ーそう、なんでも昔、あそこの家に住んでいた一家が惨殺されたんだって。

ーそ、そんなぁ……。

ーしかもね、ただの殺人事件じゃなかったんですって。

ーえっ、どういうことですか? ー一家全員が、殺された後にバラバラにされたみたいなのよ。それで、その一部を、ここの別荘地へ運び込んだみたい。

ーひゃあああっ! ーこらこら、あまり大声を出すんじゃないよ。他の客人に迷惑だろう? ーごめんなさい、お父様……。でも、怖いですぅ……。

ー大丈夫だよ、私がついているから。ほれ、いい子だから泣き止みなさい……。

ーくちゅんッ!!………………はっ

(なんか変な夢を見た気がするけど忘れた)

 はてさて、なぜ私がこのような回想をしているのかと言うとだ。目の前にいる男があまりにも"例の噂話"に出てくる人物像に似ているからである。

 年の頃合いや背格好などはほぼ一致しており、顔色もやや青白いように思えるくらいか。そして極めつけとして、頭髪の代わりに頭に被ったシルクハットである。まるで帽子を被ったまま髪を生やす実験に成功したかのような風貌だったのだ。

ただ唯一異なる点は彼が身につけている服だろうか。なんとタキシードなのだが全身白装束ではなく黒いネクタイをつけており、更に首元には蝶結びしたネクタイ用のリボンまでも装備しているのであった。……これはつまりあれでしょうか?巷では有名な殺人鬼の服装とかそういう類のものなのですかね。それなら、こんな夜更けに訪れたことにも合点がいくというものだが果たしてどうであろうか。

 だが私はここで臆することなくこう言った。

ーあらまあ、お客様がいらっしゃっていたなんて存じ上げませんでしたわ。ようこそ我が家へいらしてくださいました。本日は何かご用件があって来られたのですよね。何せもうすぐ夏を迎えるこの時期にこちらまで足を運んでいらしたことですもの……。おそらく、それはきっと何か特別な理由あってのことだと思うのですけれど……。もし宜しかったら聞かせていただけますかしら、一体どんな要件をお持ちで此処を訪れたことを。

 すると彼は驚いた表情を見せた後すぐに笑顔になりこう口を開いたのだった。

―初めましてマドモアゼル。僕の名前はルクルといいます。突然の訪問にもかかわらず快く受け入れてくれてありがとうございます。しかしあなたのような淑女とお会いできて光栄ですよ。まさか貴女のところに辿り着けるとは思いもよりませんでした……。いえ実はね少し困っていることがありまして。恥を忍んでこうしてあなたの家の戸を叩きに来たわけなんですよ、ああ本当に良かったです!これで僕は助かりますよ!!……おっほん!失礼しましたつい興奮してしまいましてね。とりあえず中で詳しい話をさせていただきたいと思うんですが如何でしょう。それとよろしければ紅茶を用意してもらえたらありがたく思うんですけれども。勿論僕のぶんだけで結構ですよ、えぇ、はい。だって一人で飲むよりも二人のほうが楽しく飲めそうじゃないですか、ねぇ?

 ここまで一気に喋った男の言葉を受け流し私は言う。―分かりましたわ。少々席を外しますのでその椅子にかけて待っていてくださいませ。その間にお湯の準備をしておきましょう。それからお茶菓子でもご用意しておきますね。……そんな訳で私達二人は応接間で待つことにしたのだが。何故か男は先ほどとは打って変わって無言のまま、テーブルに置かれたティーカップを口に当てたまま固まってしまっていたのだった。これには思わず首を傾げてしまうことになるのであるが。

ーお待たせいたしましたわ!貴方の為に心を込めて作った特製クッキーです!!お口に合うかどうかわかりませんけど是非召し上がってみて欲しいです!!遠慮はいらないからどんどん食べちゃって下さい!

  すると彼の身体は一瞬ピクリと震えたかと思ったら、そのまま私のほうへと向き直るなり今度はいきなり深々と頭を垂れたではないか!

ーなッ!!?ちょッ……!ちょっと!何なんですの急に!!?何を考えてるのかしらこの人は!

 慌てていると顔を上げた男がまた口を開こうとする。ーいや、申し訳ありません!あまりにも嬉しくて感極まっていました!!お気になさらずにどうか続けてくださって構いませんよ!!

ー……!あ、あのですね!?さっきから私の声が聞こえてないんですか!こっちは真剣にやってますのッ!!いい加減にしないと警察を呼びますよ!!

 そこでハッとしたように、やっと気づいたと言わんばかりに大きく目を見開いた後再び深くお辞儀をする。

ー大変お見苦しいところを見せてしまいすみませんでした……。まさかこのようなところでこのような美しい方に出会えるとは思わなかったもので……あぁなんたる幸運だろう!今なら死んでもいい!!

ーな、何です?いま何か言いました? ーい、いいえいいえ何も言っていませんよ!!それより続きをしましょう!!ほらほらさあさあと、僕なんかと遊んでいる暇はないんじゃないですか早くしないとその綺麗なお顔も台無しになっちゃいますよー。ほらほらさっさと行きなさいよ。

ー……さ、さっさと言ってこいって言ったからやっただけなんだけど……。なんかすごくムカつくんですけどこの人……。え、ていうかまだやるのこれ……。

 こうしてなんとか男をやりこめる事に成功することが出来た私であった。そして彼が部屋を出ていったことを確認するとすぐさまこの別荘を管理している知人の元へと向かうことにする。幸いなことに相手は在宅していたようですぐに面会することができた。そして事情を説明すると彼はこう切り出したのだ。

―ええっと確か……以前そちらで管理されていた別荘が二件ありましてね。一つは洋館タイプのものだったと記憶していますが……あれ、どうされたんですか? ―……どうしたもこうしたも、つい先日に事件が起きましてね。それ以来、客人の出入りを禁じていたのです。それが原因でしょう、あそこにあった建物の中で何者かに襲われていたようですわ。―そ、それは確かに穏やかではない話ですねぇ……。犯人の目星などについては……。

―全くといって手掛かりすら無いに等しい状況ですわ。一体どのような人物がどうしてそのようなことを……

 しかしここで私は思い当たる節があることに気付いた。……そういえば昨晩、私が眠っていた間に物音がし続けていたような気がする……。もし、もしこれが今回の事件の発端であるとすればだ……つまりは、 ―ねえ、もしもの話なのだけれど……。あなた、最近誰か見知らぬ人間が訪れてはいなかったかしら。その人物の風貌について知りたいことがあるのですけれど。―ええそうなの。もしかしたあなたも知っているかもしれないという可能性を視野に入れてのことですの。だからね教えてほしいの。お願いできないかしら。私からの強い願いを受けて、彼は少し困惑しながらも考え込む仕草を見せた。……やっぱり知らないというのかしら……。しかししばらくして答えが出たのか彼はこう口を開いた。

ーいえ実は……あるんです。少し気になる出来事がありましてね。というのも数日前のことだったんですが、たまたま夜中に散歩をしていた時に妙なものを見たんですよ。それが何なのかと言いますと……屋敷の壁沿いに設置されている梯子を使ってどこかへ行こうとしている男の姿なんですよねぇ……。最初は何処に行くつもりなのだろうかと考えたんですが、よく分からないのでとりあえず声をかけようとしたわけなんです。―それで、そうした所……あろう事かこちらの存在に勘づいたのでしょうねぇその男は突如として逃げ出してしまったんですよ。僕は必死に追い掛けましたよそりゃもう。―だってあんな所に一人で放っておくなんてそんなのできっこないじゃないですか。危ないですよ。だって夜にしかも森の中ですよ。ああきっと彼奴は幽霊かなんだと勘違いしたんじゃないかなぁ。でもねそれでも追いかけ続けたんです。だって見捨てる訳にはいかないじゃないですかぁ。でもいくら呼びかけても返事をしてくれなくて。そのまま男は森の奥へと消えていった。そうして諦めかけた時です。男は突然立ち止まるなりその場に倒れ込んだ。それから間もなくして男がやってきたと思われる場所から悲鳴のようなものが上がった。これは不味いと思って急いで駆け付けた訳です。するとそこに居たのは全身傷だらけで虫の息だった男の姿が。すぐにお医者さんを呼んだ上で僕もその中に加わり病院まで付き添ったんですけど、そこで分かったことが幾つかあったんですよ。

まず襲われた場所はここから歩いて十分程のところにありながらも木々に囲まれていて昼間であっても人気が少ないところでした。そこで何を思ったかその男は何日も前から潜んでいたんですって。―それも、何かに怯えながら、ただじっと耐え忍ぶようにしながらね。そして恐らくはその最中に襲われたのではないか、というのがその男を診たお医者さんの見解なんですけれど。―まあ、本当に何があったのやら。それにしても不思議でならないのはどうしてそこまで隠れていたというのに……わざわざあの場所にやってきてしまったのでしょうか。―おやどうかされましたか。―え、いや何でもないです!気にしないでください!!―うん、僕もこれからはできるだけ早く帰るようにしますから!心配かけさせてすみませんでした!ではまた!!

 そういって彼は部屋から出て行った。私もこれ以上ここに居る意味はないと判断する。

―ごめんなさい急用ができたものだからこれで失礼するわ。今日はこれにて終わりにしましょう。じゃあ明日はどうするか連絡を入れるから宜しく頼みます。

ーはい、承知しました。それでは……。

 結局何も得ることは出来なかった。私は妹に一刻も早く報告をしようと急ぎ足になりつつも帰路につく。そして馬車に乗り込んでふと思ったのだ。

―ねぇ、あなたは何か思い当たる節はないの? ―いえ……申し訳ありませんが今のところは何も。

―……そ、そうなのね。

 どうせ駄目だろうと高を括って聞いたのだがまさか返答が返ってくるとは思わなかった。やはり私のような凡人にこのような案件など解決できるはずもないということなのだろう。ならばさっさと終わらせてしまおう。

―ねえ貴方はどう思うかしら。この事件に進展があれば良いと思うのだけれども。

―ええ、仰るとおりです。我々としても早期解明を望んでいる次第です。

―そうよね。……なら、頑張りなさい。

 私の言葉をどのように受け取ったのかは不明だが御者はそのまま馬を走らせることに専念し始めた。窓から見える景色は次第に街から外れていき、やがて林の中を突き進んでいく。そこから更に進むと、辺りが開けていく。その光景を目の当たりにして、私は思わず呟いた。

―……綺麗。

―はい、ここら一帯は観光地としても有名でありまして、自然豊かな地となっているのです。

―……へぇ、そうなの。―ええ、そのおかげでこうして安全に行き来することが出来るのですよ。

―……そ、そうなのね。確かにそれはとても素敵なことだと思うわ……。

 ただそれだけだ。それ以上でも以下でもない。しかし、どうしてこうも美しいものに人は感動を覚えることが出来るのだろうかと考えさせられる程この森の美しさは群を抜いている。それを理解した途端に先ほどまで抱いていた焦りなどどこかへと消えてしまっていた。……全く単純ね私……。しかしいつまでも見惚れているわけにもいかない。

 そうしてしばらく時間が経つと目の前にはいつの間にか目的地である山猫山荘が見えてきた。到着するまであっという間であったような気がした。私は急いで荷物をまとめると急いで外へ出た。

―んーやっぱり空気が美味しいのねぇ。

―あ、もう降りられるんですか。ありがとうございます。じゃあ行きますよ……。はい、と言って彼はそのまま馬車を動かすと屋敷の方に向かって走り始めた。このまま玄関まで向かってくれるようだ。……ふう、なんとかここまではやってこれたみたいね。

 正直もう既に疲労困ぱい状態であった。ただでさえ歩き慣れていない靴を履いていたせいでいつも以上に体力を消費していたし。だがまだ気を抜くわけにはいかない。これからようやく今回の件の元凶に会うことができるのだから。

―はい着きましたよ。ここでよろしかったですかね。

―ええ、大丈夫よ。後は私がやるから。

―はい、分かりました。何かありましたらすぐにお呼び下さい。

 彼がその場を離れるのを確認してから、扉を開ける前に少し深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。よしっと気合を入れて、いざ! ゆっくりと扉を押す。するとそこには誰も居らず、しんとした静寂だけが取り残されており、何とも不気味な空間が広がっていた。ーあれ、居ないのかなぁ

 そういえばと思い、私は壁に手を添えながらそのまま横に移動してみることにする。すると何かを察知したかのように突然部屋の奥にあった暗闇が大きく口を開くように開いた。そうしてその中を覗き込むようにして確認してみたのだが……そこに人の気配は無かったのだ。

―……?どういう事なの……。

 状況が良く分からず、取り敢えず中に入ってみることにした私は恐る恐る奥の通路へ進むことにした。そうして、どれくらい進んだ頃であろうか。何かを発見した私は立ち止まってその物体を観察した。

―これは一体……。それを見た瞬間に嫌な予感を覚えたので一旦戻ろうとしたその時だった。突如背後から強い力で押されて、抵抗する間もなく部屋の中央付近まで一気に飛ばされてしまった。そうしてから慌てて体勢を整えようと試みるが、その努力も虚しく、まるで私が来ることを予測していたように、何者かによって拘束されてしまったのだった。そして視界に飛び込んできたものを見て、今自分がどんな危機的状態に置かれているのかということを悟る羽目となった。

 そうなのだ。よく見てみれば周りにいた者達は全て人形のような無機質なものばかりであり、中には獣のような形をしたものもいる始末。しかもそいつらは私を完全にロックオンしており、鋭い爪を立ててこちらに迫ってきているのだ。どうやら逃げ場はないらしい。……うーんどうしようかしら。私は何とかこの状況を切り抜ける方法を考えようとした。けれども思いつく訳もなく、次第に近づいてくる死の恐怖を感じては必死になって暴れる事しか出来なかったのだ。そして遂に目前にまでやってきたソレが私めがけて襲ってきた、まさにその寸前であった。ピタリと動きが止まると、そいつは何やらもの凄い形相をしながら苦しみ始め、そして最後には息絶えたのである。私はそんな状況を理解できず、ただ呆然としていること以外何もできなかった。そして、それが私の最後の記憶になった。

  ふと目を覚ますと見覚えのある景色が広がっており、どう考えてもここは山猫山荘の中で間違いないと理解した。先ほどまでの出来事を思い出してみても夢にしては余りにも生々しすぎたからだ。私は暫くの間その場でボーッとしていたのだが、やがて身体を起こす。先ほどよりはだいぶ楽になっていた。それでもやはり足下がおぼつかない状態ではあった。ただ一つだけ確かなことがあるとすれば私は生きているという事実だ。あそこで死んだと思ったのに。その証拠に服をめくってみると、傷どころか血痕すらついていなかった。もしかして誰かに助けられたということなのかしら……。

 そこまで考えたところで急に寒気が走ったため再び布団の中に潜り込んでしまう。まさかまた襲われたりしないわよね……。しばらくすると落ち着いたのでゆっくりと上体を起こして周囲を観察することにした。さっきよりも目が霞んではっきりとは見えないけれど、人影がないということは確かだ。……もう皆出払っているみたいね。だとしたら誰が私を助けてくれたのだろうか。

 不思議でしょうがなかったけれど、いつまでもここで寝転んでいるわけにもいかない。それにずっとここにいるわけにもいかないだろうし……。意を決して立ち上がるとゆっくりと歩を進めていった。

 そういえばこの部屋に窓があるのを思い出す。私は迷わずそこに向かうと、カーテンを開ける作業にとりかかった。だが、思うように体が動かないうえ、手も震えていて非常に時間がかかってしまった。ようやく終えると、改めて外の光景を確認する。……良かった、外の風景は変わっていなさそうだ。少し安心すると続いて扉に手をかける。しかし鍵がかけられているようでびくともしなかった。まあ予想通りではあるけど。仕方が無いので次に進むことにする。

 次に目に入った場所は特にこれといった変化はなかった。そのまま部屋を出ると階段を登っていくことにした。正直なところとても怖かった。今まで散々怖い思いをしてきたというのに、何故こうも平気になれるのであろうか。自分でも良く分からない。でももうこれ以上悪いことは起きないはずだと信じることにした。だってあれはきっと悪夢だったんだから。

 そして次の場所に到着した時である、廊下の向こう側から複数の声と共に人が走ってくるのが見える。私の存在に気付いた彼らは慌ただしい様子のまま向かってきた。

―あれ?こんなところに居たんですか。探しましたよ。随分とうなされたような顔していますね。そう言って彼は私の手を掴んできた。

 突然手を握られたことにびっくりして反射的に振り払う。すると彼が悲しげな表情を浮かべたため、何とも言えない気持ちになる。

―……ごめんなさい。そう、私は無意識のうちに拒絶していたのだ。どうしてなの。本当に自分らしくない。

―え、ああ。いいんですよ気にしていないです。それよりどうしたんですか?まだ本調子じゃないのなら無理して動いたりせず、少し休んでいた方がよろしいですよ。

 優しい言葉をかけてくれる彼の態度を見て私は戸惑ってしまう。

―ねえあなた。もしかして何か知っているんじゃ……。

ーそうかぁそう思っちゃいますかぁ~。あはははっ!!残念ながらそれは答えられません。申し訳ありませんねぇ、どうしてもって言うのであれば後で教えてあげますから、それまで待っていてください。ほら、私も忙しい身なのでそろそろいかせてもらいますね。

そう言い残すなり私を置いて立ち去ってしまった。やっぱり怪しい。私は咄嵯に彼を追いかける。ーおや、ついて来るなんてどういう風の吹き回しなんでしょうか?私は貴方の為を思ってやっていると言うのに。どうやらもっと酷くなりたいようですね。……やれやれ、困った子だ。今さら後悔しても遅いのですが……。どうやら覚悟を決めていただいたみたいなので早速行きましょうかね。……私は彼に促されるまま付いていく。何処に行くのか尋ねると、すぐ分かるとのこと。それから暫く歩くことになった。

 ふいに横を見ると、いつの間にか山猫山荘は姿を消しており辺り一面が真っ白の空間が広がっていた。しかもいつまで経っても風景が変わらない。これはまさか……。嫌なものを感じたため急いで逃げようとするが、既に周りを囲まれてしまい逃げる術がなくなってしまっていた。どうしよう、どうにかしなければ。

ーどうしましたそんなに慌てて。ここは別に何もしなくても大丈夫な世界なのに。だからといって無暗に動き回る必要もないと思うぞ。それにこの場所はお前の記憶の中にあるものが具現化されたに過ぎないものなんだしな。要するに思い出すことが出来たものだけが自由に行き来できるってことだ。ちなみにだが、ここには俺達がいるってことだけ伝えておくぜ。それじゃまた会おうや。その時までせいぜい頑張ることだ。そっちには期待しているんだぜ。

 暫く歩き続けていると前方に見覚えのある人物の姿を発見した。

(その瞬間、目を覚ました)

ーお姉さま、ようやく起きたわね

ー……あら、わたし寝てたの?

ーええ、ぐっすりと。夢を見られていたようね

ーええ、不思議な夢だったわ

ーどんな夢か、聞かせてくれる?

ーええ、それはあなたとこんな話をしていることからはじまるの……


著者略歴と解説

 チョウシは帝国出身で、現在は皇国在住の作家。

 『国境の河』で第一回皇国優秀小説賞を受賞。

 その作風は、カッコなどを使わず、会話と地の文がシームレスに繫がることもある実験的なものである。

 本作は、いわゆる『夢の中での論理』をかれなりに描いたものであるという。

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