第42話
翌週の会議は、役職決めであった。これが結構面倒くさい。今まで事務作業だの、それこそ今から割り振ろうとしている仕事の振り分けに至るまで貢献してきた六条さんはや僕たちの仕事は、いくらか免除されたのだが、普通の委員たちはどうやって楽な仕事にしようかと互いにけん制し合っている。さらに、なるべく仲がいい人と一緒の仕事がしたいだのなんだので、ごねにごねまくる人もいる。まるで進む気配がない。
僕はまた、この前の競技案の会議を思い出し、これはまた面倒なことになったぞ、どうしたものかと考えあぐねていた。前回のような突飛な解決策は、もうなかった。
六条さんの方を、なんとなく、ちらっと見た。この前のことがあったから、どうも彼女から見え隠れする不穏な空気に、体が敏感になっていたのかもしれない。
遅々として進まぬ会議に、彼女は明らかにいらだっていた。六条さんがいらだつ姿を見るのは、これが初めてだった。眼光が鋭くなり、顔をうつむけてもむしろ目線をあげていた。今にも噛みつこうとする猛獣のようだった。
膝の上に置いていた手を、あまりにも強く握りしめるものだから、スカートが破れるのではないかと思ったほどだ。彼女ほど気品のある女性でも、貧乏ゆすりをするのだと、知ってしまった。
なんとか制止できないかと思い、彼女に触れようとしたその時だった。
「皆さん!」
六条さんは立ち上がって、大声で呼びかけた。
「これ以上やっても時間の無駄です! こんな非効率な会議、まったくもって時間の無駄です。
みんな勝手に自分のことばかり考えて。それで全体の利益を損なってどうするんですか。情けない。
もう結構です。わたしが全て決めます。皆さんが一年かけても作れないような、完璧な割り振りをします。
文句のある方は言ってください」
誰も異論を唱える者はいなかった。六条さんの貢献はそれほどまでに大きく、その発言力は、一年生ながらにして場を仕切れるほどになっていたのだ。
果たして六条さんがサッと決定した割り振りは、なるほど見事なものだった。自分の都合、なるものを唾棄していたが、その実全員の利害を完全に把握しており、不平を漏らさないようしっかりと調整されていた。平等にして、効率的だった。
ただ、結局六条さんの仕事が増えているようだった。文句を言わせないためだろうが、やはりどこか自虐的だ。
誰も文句を言わなかった。言えるわけがなかった。
その後、委員会の主導権は完全に六条さんが手にした。僕はこの現代日本に、これほどまでにてきぱきと場を動かせる人物がいるのかと感心していたが、サボり魔の鷲頭などは依然と打って変わってあわただしくなった委員会の空気にあてられて、自主的に手伝いつつ苦笑いしていた。
そうして、体育祭本番一週間前、ほぼ直前にやる準備だけの段階となった。僕は何も問題ないと思っていた。その時までは。
だってそうではないか。六条さんのやり方は正しいはずだ。もし僕が彼女なら、いや、彼女ほどの才覚があったなら、間違いなく同じことをしていたし、そうでなくとも脳裏に同じことが浮かんでいたことを、否定できない。
だが、なぜか引っかかる。引っかかることに引っかかる。
委員会は、これもただ本番が近いせいなだけだと思いたいが、ただひたすら仕事をこなそうとして忙しくなった。仕事をするために委員会があるのだから、それに文句をつけるのはどう考えてもおかしいのだが、だが、以前のような笑い声が減っていた。
六条さんからも。
一緒に仕事をしていた時ほどの声の張りがなかった。疲労の色が、その顔に浮かんでいた。せっかくの綺麗な顔がもったいないなと思い、多少の足しになればと思って何度か手伝ったが、かたくなに拒まれるようになった。
僕と鷲頭は多少の余裕があったせいで、共通の結論にたどり着いていた。この組織は、限界だった。
今まであまり気にしていなかったが、朝比奈の様子もおかしかった。昨日なんか、体調を崩してしまったらしい。
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