第一章:凍った雪の国

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 新品同様の白いテーブルクロスが皺ひとつなく敷かれた縦長テーブル。外観を見ずとも建物の規模をある程度予想出来るような上品だが豪華なダイニング。

 そこでは仮面をしたメイドに囲まれながら三つの人影が各々の食事をしていた。二人に挟まれるように座り、フォークとナイフを使って丁寧に魚料理を口へ運ぶ男性。それはあの舞踏会にいた紺青髪の男。


「おいオリギゥム。ホントにアイツ逃がして良かったのか?」


 そんな男性へ荒い口調を投げ付けたのは彼の左手に座る女性だった。椅子を傾かせながらテーブルに両足を乗せ、片手で骨付き肉を貪っている。だがあの時と服装は違いその口調に合ったものへと変わっていた。


「大した問題ではないでしょう。当分はちょっかいを駆ける程度で十分です」


 静かに返事をしフォークを口へ運ぶオリギゥム。その動きは洗練され、まるで教本のようだった。


「だったら最初っから捕まえねーで良かっただろ」


 一方、愚痴るように呟くと女性は目の前にある肉の山から一つを乱暴に掴み口へ。


「別にいーじゃん。それにアンフィスが捕らえた訳でもないんだしさ」


 女性の向かいから聞こえてきたその幼いさ残る声はあのサスペンダーの少年。今は仮面をしておらず、その夏の蒼穹の様に澄んだ顔が露わになっている。そんな彼の前に並んでいたのは種類の違うパフェ。


「文句言い過ぎ~」


 そう言うと少年は挑発するような表情を浮かべた。


「うっせー! ガキはすっこんでろ」


 言葉と共に半端に肉の残った骨が回転しながら宙を駆け抜ける。

 だが少年は顔を傾けひょいっと躱し、骨は後方の壁へ。


「メル、アンフィス。もうちょっと静かに食事出来ないものですかね?」

「食事? こんなんただの暇つぶしだろ?」

「まー確かに。僕らにとって必要なのは血だけだし」

「食事っつーんなら新鮮な血でも持って来いよ」

「さんせー。濃厚で温かくて芳醇な血を直接がいいかなぁ」

「まぁつっても今はいらねーけどな」

「最近、飲んだばっかだからね」

「――あまりそのような話をしなくでください」


 するとオリギゥムは持っていたフォークをわざと床へ落とした。それに反応しメイドの一人がナプキンで口元を拭く彼へと近づく。静かにフォークを拾い上げ立ち上がりその場を去ろうとするメイド。オリギゥムはその手を掴むと間髪入れず引き寄せ自分の膝上へ乗せるように倒した。そして自分を見上げる仮面へと顔を近づけていく。

 だが彼の顔はそのまま仮面の横を通り過ぎ首筋へと一瞬、不気味に光った牙を突き立てた。メイドから言葉にならない堪える声が上がるが、そんな事などお構いなしにオリギゥムの喉は頻りに上下し続ける。その口付けをするように触れる唇の隙間から漏れた鮮血は、首筋を撫でながら流れていき白襟へと吸われていった。


「オリギゥムって絶対、燃費悪いよね」


 言葉の後、牙を離したオリギゥムはメイドを膝上から退けナプキンで口元を拭った。一方、血を吸われたメイドはその場から離れようと一歩目を踏み出すが力が足りずそのまま崩れ落ちてしまう。そんな彼女を静かにやってきた他のメイドが迅速に連れ去り、それとは別のメイドがオリギゥムの前へ新たなフォークを並べた。


「そんな話をされて口にしたくなっただけですよ」


 口元の血を綺麗に拭き取ったオリギゥムは新しいフォークを手に取り食事を再開した。


「それで? これからどーすんだ?」

「どーするって、まずはアレを見つけないとでしょ」

「ここまで見つからねーならホントにあるかさえ疑問だけどな」

「無ければ――我々は終わり。それだけですよ。もしそうなったら次の世代に託すしかないですね」


 オリギゥムはそう言うとゆっくりと動かした顔をメルへと向けた。


「一人で残されるのはごめんなんだけど?」

「なんだぁ? 寂しいのか僕ちゃん?」

「例えアンフィスだとしてもいないよりかはマシってぐらいにはね」

「ですがその時は――分かりますね?」


 だがメルはオリギゥムへ視線をやった後、何も答えずパフェを口へ運び始めた。

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