ヒカリ ~生まれ変わる世界の地、七つのヒカリが揃う時~ 

なもなき光

七つのひかり

第一話 消えた記憶


「キーンコーンカーコーン」


チャイムの音が鳴り響く、生徒たちは瞬く間に席に着席し教壇に向かって姿勢を整えた。


「皆さんこんにちは」


前の扉から入ってきた長い髪を左右に揺らす顔が整った女性が教壇に着く。


「ロン・スミル先生おはようございます」


元気よく立ち上がる全生徒たちは教師に向かい頭を下げ朝の始まりを告げる。



 俺が通っているスイロン帝立高等魔術専門学校ではスイロン帝国で騎士や魔術師として専属で働いていた者、今現在も働いている者、計50人強の教師たちが魔術の極意について一から教えるスイロン帝国一の魔術学校、学校の規模もなかなかのもので校舎一つ見ても顔を左から右へと流しながら見ないといけないほどに大きい、整備も生き通っており実習などでけがを負ってもすぐ治療できるようこの帝国の一、二を争う腕利きの回復師が常に一人在中している。また行事ごとも大規模で二年目で対モンスター実習訓練、三年ではクラス別対抗戦、四年目に冒険者ギルドで活動を行う冒険者と一つの依頼を受ける。そうして無事卒業へと向かうことが出来るようになっている。


これだけのものが備わっているため入学をするにはそれなりの技術や財力がかかってくのも当たり前。そしてこの学校今年入学した一人の平民が居た。名は


「よーウィル、今日の授業も退屈そうだよなぁ」


 寮から朝食を食べに食堂へ向かう途中、隣の家で同じクラスの友人ジェイス・フォルマンに後ろから声をかけられた。よく一緒にご飯を食べ登校をするので日課の一つとして組み込まれたことの一つ。何の気なしに返す返事にお互い違和感を一切感じていない。

まだ入学したばかりで友達と呼べる友達も彼ぐらいしかいないから、まぁ心のどこかでありがたくは思っている。


「おはよジェイス、まぁ実習が始まれば楽しくなるでしょ」


 入学するにはそれなりの技術が必要。それでも入学者の半数以上がまともに魔術を扱うことが出来ない、それどころか魔術の使用に必要なマナのマの字も知らないものばかりだ。

その点幼いころから金に困っていた俺は父のモンスターの討伐を手伝ったり、母から魔術を教わったりとそこそこの本番を繰り返してきた分ほかの生徒より頭一個分くらい抜き出てはいる。それでも母親は初級の魔術しか使えないし、父に至っては魔術すら使えない肉体派の人だ。基礎中の基礎を知っているからと言ってそれ以上の細かな知識やもっと上位の情報、自分に足りないものが分かっているわけではない。いくらスタート地点が皆より一歩前だからと言って気を抜いた瞬間から追いかける側に回ってしまうかもしれない。

まぁ頭では分かっているのだけれども実際、授業を受けると上の空であるのは彼と一緒なのかもしれない。



 「皆さんに質問です。魔術を使うのに必要となる主なものは三つあります。それは何ですか?」


先生の質問の問いかけにクラス中にざわめきの声が広がった。

(答え今開いてるページに書いてあるのに)

教団側から見て一番右奥、窓沿いに座る俺は窓の外を眺めながらふとそんなことを考える。


「はい。ウィルさん三つのうちわかるものはありますか」


よそ見をしているくらいなのだからわかるよね、そんなことを言いたげにやわらかい声で当てられ、一瞬ぴくっとなった肩を静め、静かに椅子を引いた。


「一つ目はマナ 二つ目はヒカリの開花 三つ目に属性調和です」


教科書をまんま読み上げ、すぐに席に着く。まぁこの程度で先生が俺のこの態度を許してくれるとは思わない。


「はい正解です。ではそれぞれの特徴などわかりますか?」


もう一度立ち上がろうとした俺に掌をこちらに向けた先生が座ったままでいいと促し、その場で発言に移る。


「マナは基本生まれ持った量で決まり、それ以降変動することはまずありません。マナが多ければ魔術の打てる数は増え使う魔術の数も増えます。ヒカリの開花については大体10歳前後で一つ目の属性が開花します。全世界で見て、炎、風、水、闇、光、土、無の順に開花する人が多いいです。また一つしか開花しないものが半数を占め、三つ開花する人は世界で見ても一握り、それ以上は数世代またいで一人誕生すれば奇跡と言えます。調和については」


そこで教師の待てが入った。当然のことである、今こんなものを言ったところで多分クラスの大多数が付いていけていない、隣の席では腕に頭をのせ閉じかけている目をこちらに向ける視線も感じる。


「そうですね今のところその情報だけで十分でしょう」


はぁと頭を抱える先生は多分俺のことをめんどくさい生徒だと感じているんだろうけど、実際言っていることは間違えていない。入学初日から帝国一とも呼ばれる学校の図書館を読み漁って得た知識だ。これが間違いだったら多分この帝国には正しい文書はないと思ってもいい。

そんなことを考えているうちに気が付けば今日の授業が終わっていた。



それから二カ月ほどが経った頃、実習授業が始まりクラスにも馴染め始めた頃だった。


「今日はマナの制御、魔術の発動の練習をしたいと思います。ではマナの制御ではどこに集中を置くのがいいでしょう」


授業が始まり実習に取り掛かる、やり方を誤ればマナが漏れ出し術者本人や周囲へ影響が出かねない。そうならないために存在するのが先生たちである。誰しもが初めっから魔術が打てるわけではない、失敗は付き物、失敗を繰り返して成功へ進んでいくのが魔術の基本である。そのため失敗しても大事故を起こさないようまずは一点に集中を置き慣れてくれば意識をしないよう制御、そうして魔術を打つという段階がある。

手を高く上げる幾人かのうちの一人が当てられると同時に利き手の平と答え見事正解だったようで先生に褒められ少し頬を赤くしているのが見えた。


説明を諸々終えそれではやってみましょうの一言で生徒たちは散々に広がっていった。

先生が前で見本を見せると続いて生徒たちが同じようコントロールする。制御がうまくいくと掌には淡い青色の光が広がり少しだけ掌に温かい感触を覚える。

中には黄色い光や赤い光と制御をうまくできない生徒も見て取れた、ちなみにだが赤く光るのはマナを集め過ぎたことによる過剰反応、また黄色や白などはマナの集合が悪い場合に起きる現象だ。

当然ながら俺やジェイス、また今までに魔術を習ったことがあるであろう貴族の娘などはうまく制御できていた。


「暇だなぁ」


横でそうつぶやいたジェイスは掌を上に向けその上に火の玉を発生させた。真っ赤な赤から始まった火の玉は次第に青白くなり、次に真ん中をくりぬいたドーナッツ状にして、そのまま小さく凝縮したところで炎を消した。

横で見ていた俺も同じように、ただ少しだけ違う魔術で行う。


「ブレイクファイヤー」


小声でつぶやきながら発生させる火の玉。名前通り炸裂するファイヤーボール。まだ完全習得とまでは言えないが発生ぐらいなら集中すれば行ける。自分の気づかないうちに少し力んだマナが体の外へ流れ、足元の草がさわさわと揺れ始めた時だった。


「ぐっ」


猛烈に走る頭の痛み、まるで一本一本の血管が破裂寸前で波打っているかのよう。言葉で言い表せないほどの頭痛に地面に倒れこむ。うずくまる俺に近寄ってくる生徒、急いで回復師の元へと俺を担ごうとする先生。

そこで意識は途絶えてしまった。



暗闇の中、何もないずっと先の闇を見つめる。何もないし何も感じない言葉も発せられない。数分か数時間、はたまた数日が経っただろうか、時間の感覚すら狂ってしまうほどの時間が経った、いや実際には数分程度しか経っていない感覚も覚えていた。それほどに無。

それからまた時間が経つのを感じた時、景色が一気に変わる。まるで目覚めた直後、瞼を開いたときに感じる光のよう中央から少しづつ色付いていく。

。。

。。。

目を開けた先の景色は天高く広がる青い空でもない。癖になる消毒液のにおいが広がった白い天井でもなければ、毎朝見る見慣れた煤汚れた天井でもなかった。


「ここは」


喋れたことに一瞬驚き口を隠したと同時すぐ横にある気配に気が付く。


「やぁおはよう」


透通る青い声が右耳から聞こえる。


「ついておいで、いいものを見せてあげるよ」


手を引かれたことに抵抗することもなく前へと進んでいく。足を動かす感覚がないことに気が付き下に目を落とすとそこには透明なスロープが存在するかのようにするすると天を進む俺と手を引く少年の足が見れた。


見える景色はこれまで見てきた物とは全く違う。建築物は構造から形、素材。道はきれいに舗装されておりそのを上を馬車よりも数倍も早く進む謎の物体。


そうして見えてくる二階建ての青い屋根の一軒家、庭には小さい家がもう一つ、そこには狼型モンスターに近い生命体が括り付けられていた。


「ぐっ」


再び襲い掛かる頭痛に再び目を閉じかけた俺に少年は背中をさすってくれていた。


「大丈夫あともう少し」


青い屋根が少しづつ近づいてくる。ぶつかる、と思ったときには目の前にあった屋根は姿を消し一つの部屋が目に映る。机に椅子、部屋の隅には小さく畳まれた二輪の物体。そして寝床に横たわる一人の少年。

その顔に見覚えがあった。

まだ整いきっていない顔に色素が少し抜けた茶髪、身長は約170ほどの細身。

寝返りを打つと同時に目を開けた横たわる少年を見て俺は確信を持てた。


「俺だ」


そこには今朝顔を洗う時に見た鏡に映る自分の顔とそっくりの俺がいた。間違えるはずがない。自我をもってから約8年間程付き合ってきた顔だ。


「そう。ウィル・スレイム。いや新島健(にいじま たける)そう呼んだ方がいいかな?」


その言葉を聞いた瞬間胸に突き刺さる何かを感じ。今にも張り裂けそうだった脳の血管が破裂するそんな感覚に陥った。


「その痛みは過去の情報が一気に流れ込んできたせい。もう半分以上の記憶は取り戻した頃かな」


流れ来る情報の全てが少しずつ解読されていく。思い出す過去の記憶。


俺はとある県の底辺学校へ通う高校二年生だった。それなりの環境に恵まれていたはずなのにどこか道を踏み外し、少しずつ危ない方へと線路をずらしていった。一年の時に知り合った先輩に誘われ煙草を吸い始め。高校二年に上がると同時に学校へ行く回数が減り気づけば路地裏で黒服に身を包む男たちと絡んでいた。


「悪いがその値段では譲れんな」


「は?この分だけでもいいからよこせっつってんのわかんない?」


薬の効果が薄れていたのかイライラしていた俺はその時黒服の男どもに手を挙げてしまった。


ガンガンと頭を壁に打ち付けられる音が最後の記憶だった。


「そんな自分を後悔した君は懺悔がしたかった。でも本当ならその希望は叶うことなく後悔を抱きながら永遠の時間を過ごすはずだった。その時にたまたま通りかかった僕に君は拾われたの」


俺はただ神様の気まぐれにより生まれ変わった、少年はそう語った。今生きる世界に七つのヒカリを齎したとき果てることのない監獄から抜け出すきっかけになる、そう少年は行った。


記憶が戻った俺はすぐにその意味を理解した。理解せざる終えなかった。


「俺は、こんな俺は生きていいのか」


「僕が救った命を簡単に終わらせないでほしいな。少なくとも拾ってよかった、そう思えるいいエピソードを見せてくれたらいいんだけど」


少年は一つの遊びをするかのように軽く笑って見せた。



全ての過去を知った俺はまた現世へと戻ってきた。その時には既に少年の姿はなかった。ただ過去の出来事を背負った俺がその場には居た。


第一話 消えない記憶

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