DAY 2-1
朝、
スマホを見ると、ちょうど八時になろうかという所だった。
結衣からメールが一件入っている。
<行って来ます。ご飯は適当に食べてね>
そう言えば、今日は実家に陽輝を連れて行くと言っていたのを思い出した。
結衣の両親が孫を連れて来いとうるさいらしい。
それにしても、こんなに早くから出掛けたのか。
いつもなら、いい加減起きてと急かされる時間だが、今朝は違う。
どれだけ寝ようと自由なのだ。
嬉しい……。
そう思った次の瞬間、遥翔は再び眠りに落ちていた。
「……」
次に目が覚めた時、時間は既に十一時を過ぎていた。
さすがに腹が減ってきて、何か食べようと起き上がった。
いい加減寝過ぎてしまったのか、逆に体がダルい気がする。
顔を洗い、パンをかじりながらコーヒーを淹れた。
陽輝の顔を見られないのはとても淋しいが、久々の独身生活だ。
どうせならのんびりしてやろう。
遥翔はゆっくりとコーヒーを味わった。
もはや着替えるのも面倒になってしまい、食事が終わった後もパジャマ姿のままでゴロゴロしながらテレビを見ていた。
その内テレビもつまらないワイドショーばかりになってしまい、新聞を取りに行こうと外に出た所で、ちょうど
「仲野さん、おはようございます。昨日はゆっくり眠れましたか」
「おはよう……ございます。ええ、お陰様で」
仲野は腕時計と遥翔を交互に見ながら言った。
「あ、まだこんな格好でしたね。さっき起きたばっかりで……。今日は朝から妻が息子を連れて実家に帰ってるもんで、ついつい寝過ぎてしまいました」
「ああ、なるほど。分かりますよ。私もいつも一人で生活していますから、どうしても不規則な生活になってしまうんですよね。今日は早起きして、写真を撮って来ましたが」
「それはいいですね。僕も昼からはちゃんと仕事をします」
「家で何か、お仕事をされているんですか?」
「はい、実は作家をやっているんです。ハッキリ言って、あんまり売れてないんですけどね」
「ほう、一之瀬さんは作家先生でしたか」
「先生って言われるほど大層なもんじゃないんですけどね。一応、
「桐山、葵……。えっと、どこかで聞いた事がある様な……」
仲野は顎に手を置き、考える仕草をしている。
サングラスで目の動きは分からないが、遥翔には明らかに知らない様に見えた。
ほとんどの人はこういう反応しか返って来ないので慣れている。
「すみません、思い出せなくて。普段からあまり本は読まないタイプなので……」
「いえ、そんなものですよ。ベストセラーをバンバン出してる売れっ子さんと違って、僕は微妙なポジションですからね。ははは」
逆に気を使わせると悪いと思い、遥翔は笑いながら言った。
「でも、すごい事ですよ。自分の書いた物が本として世の中に出て、たくさんの知らない人に見てもらえるなんて。私もまた機会があれば拝見します」
「ありがとうございます。ぜひ」
「では。お仕事、頑張って下さい」
仲野は頭を下げながら部屋に戻って行った。
そうだ。
結衣や陽輝のためにも、もっともっと頑張って良い小説を書き、早く有名にならなければ。
いつかは、名前を聞いただけで誰もが驚く、そんな小説家に。
遥翔は改めてそう思った。
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