第6話

「さて、私は何にしましょうかね……?」

「女子同士で渡すプレゼントって、どんなものがあるんです?」


 色々な店を回りながら、どんなものを渡すか候補を探していく。

 何店舗か見回った後、少し悩むようなしぐさをする結愛を見て、侑人はそんな質問を投げかけた。


「女の子同士だからと言って、特に変わったものを贈り合うとかはありませんよ? 化粧品とかも候補になるみたいですけど、うちの学校って化粧とか全面的に禁止ですし、私も柚希も普段もすることが無いので。大体、小物とか日用雑貨とか、あとはリップクリームとかハンドクリームとかですかね?」

「そうなってくると、あんまり男から贈るものと変わらないかな……?」

「どうでしょう、あんまりみんな彼氏とかから貰った物とかは見せたりしない子ばかりなので……。知っているのは、小野寺君が柚希に渡している例だけですね」

「それはダメですね! いつも適当だし、幼馴染で何か渡せばいいだろってくらいの感覚ですので」


 侑人がそう力強く言うと、結愛は楽しそうに笑う。

 どうやら、彼女は侑人と柚希のよく分からないグダグダの関係性についての話を聞くことがとても好きらしい。


「それにバイトも禁止ですから、使えるお金の範囲もありますしね~」

「うちの高校って、校則色々と多いですよね。男はともかく、女子はなかなか窮屈な思いをしないといけないですよね」

「確かに、柚希も何とかスカートを短くしようと常に先生方と戦ってますからね」


 侑人たちが通っている高校は一応進学校ということもあって、校則がやけに厳しく生徒たちからは、常に不満が噴出している。


 ひどい例なら、女子のスカートの基準が厳しすぎて新調しなおした丈の長さでもアウトにされ、再び買わされたという話も聞いたことがある。


 他の進学校でより偏差値の高いのに、服装の校則が緩くてスカートをすごく短くしているところもあるのだから、もっと臨機応変に対応すればいいと思うのだが。


「前に服装チェックがあった次の日に、短くしたら生徒指導から”ありがたーい言葉”を貰ったって不貞腐れてましたね」

「お説教のことを”ありがたーい言葉”って言うんですか?」

「そうですね、よく言ってるような気がします。変ですかね?」

「いえいえ、そんなことはないかと……!」


 そうは言うものの、耐えきれないと言った様子で必死に笑いを堪えている。

 これまで特に突っ込まれたことはなかったのだが、これだけ彼女に笑われるということは、敦人含め他の人にもそう思われているのだろうか。


「まぁ柚希以上に、もっと反抗的な人だと先生に言われてもがっつり短くしている人、いますもんね。何の分からない自分から見てもオシャレに感じますし、オシャレしたい女子からすれば、何とか攻めたいラインなのでしょうね」


 よりオシャレに敏感なこともあるのかもしれないが、スカートを短くしたがる女の子は、男子である侑人から見てもオシャレに見えるし、男子からもかなりモテている女子がやっている印象がある。


「小野寺君は、ああいう雰囲気の女の子が好みなんですか?」

「え、いや……」


 彼女からそう尋ねられた侑人は、言葉に詰まってしまった。

 まさかそう捉えられるとは、全く想定していなかったからである。


 だが、冷静にここまでの発言を振り返ってみると、「スカートを短く見せている女が好き」と捉えられても仕方無いような気がする。


 彼女は美人だが、スカートを短くしたりするようなタイプではない。

 もちろん、そう言うファッションをしても抜群に似合うと思うし、見てみたいという気持ちはかなりある。

 つまり、「好みが合っていないのでは?」と思われている可能性がある。


 それだけでなく、単純にスカートを短くしている女子に対して、エロい目で見ていると思われている可能性だって考えられる。


 ……短いスカート姿の結愛を見たいと思っている時点で、それは事実だと認めざるを得ないような気もするが。


 どちらで捉えられたにしても、マイナスなイメージにしかならない。


「そ、そういうことでは……。す、すみません」

「な、何で謝るんですか?」


 そう思い込んだ侑人は、結愛に何か言われる前に謝罪を口にしたが、そんな侑人の様子を見て、彼女は少しびっくりした反応をしている。


「そう言う子を見て、オシャレだなって思っただけで、そう言う子がタイプってわけじゃないので、そのー……。あ、あとやましい意味でもないので!」


 やらかしたという感情と、彼女に対してどう弁解しようかと言うことで頭が混乱してしまった侑人は、早口で伝えたいことを一気に言葉にした。

 そんな様子を見て、結愛はちょっとだけポカーンとした様子を見せたが、少しするとまた笑い始めた。


「単純に聞いてみただけです。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ?」

「よ、良かったです。正直なところ、真島さんとタイプが違いますので、そう思われると距離が出来るかと思って、凄く焦りました……」

「確かに、私のタイプではなさそうですね。でも、柚希にはよく『やってみない?』って言われてはいるんですよ?」

「あいつ、そんなこと言ってるんですか?」

「はい。もしかしたら、あの子に押されてやるかもですね?」


 それはそれですごく興味があるので、機会があればそう言った姿も見てみたいところ。


「それにしても、小野寺君は真面目ですね。正直、やましい考えを持って発言していたなんて少しも考えてなかったですよ?」

「そ、そうでしたか。真島さんに嫌な思いをさせたかもしれないって感じてしまいまして。それは違うってことをとにかく分かってもらわないといけないってなりました……」

「一生懸命な顔で話してましたから、それは伝わってきましたよ?」


 彼女からそう言われて、侑人はホッと息をついた。

 何気ない会話の中でも、相手にどう思われるかよく考えてから発言しなければならないなと思った。


「さてさて、お店回り再開しましょう? 他にもいい雑貨屋さんがあるので」

「はい」


 次の目的に定めた雑貨屋へ向かおうとした侑人に、結愛が先ほどよりも少しだけ近くに寄ってきた。

 そのことに侑人も気が付いたが、また空回りしそうだったので、特に言葉にすることなく、歩みを進めた。

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