第5話

 小さいころから、五月の下旬に迎える柚希の誕生日に、侑人は毎年プレゼントを渡していた。

 小学生になる前ぐらいから、親から「何かプレゼントしてみたら?」という声掛けから始まって、今に至るまで毎年続いている。


 周りの目もあるので、中学生ぐらいの頃にもう誕生日に物を送り合うのを止めようと思った時もあったのだが、今でも誕生日になると何かものを渡すという状況が続いている。

 おそらく、プレゼントを渡していることを柚希との話など何らかの形で知っていて、彼女が柚希への誕生日プレゼントのことを考えている最中に気が付いて、声をかけてくれたのだろう。

 どういう形であれ、まさか彼女側から声をかけてくるとは侑人とすれば、全く想定していなかったが。


 そんな提案があった次の週末、待ち合わせ場所に決定したやけに人慣れした鳩がうろうろする駅前の広場で、侑人は結愛の到着を待っていた。

 とにかく遅刻するわけにはいかないと感じた侑人は、待ち合わせ時間の30分も前に到着してしまい、うろうろする鳩をじっと見つめながら時間を過ごした。


「すみません、お待たせしました」

「い、いえ……」


 集合時間の10分前くらいになったところで、白いワンピースに身を包んだ結愛が侑人の元に駆け寄ってきた。

 制服姿の彼女しか知らなかった侑人としては、私服の姿の結愛を見て、いつもとはまた違う可憐さに思わず息を呑んでしまった。

 部活もしていないために打ち上げなどの経験もないので、こうして同い年の女子の私服姿を見ることなど、まずない。

 見慣れていないこともあって、かなりドキドキしてしまう。


「ごめんなさい、待ちましたよね……?」

「いえいえ、そうじゃないですよ! 自分も先ほど来たばかりです」


 そんな侑人の反応を見て、結愛はかなり待たせてしまったと捉えたようで、かなり申し訳なさそうな顔をしている。

 ただ、「あまりにも綺麗だったのでびっくりした」と素直に言うのは、ちょっと相手が引いてしまうのではないかと思ったので、咄嗟に嘘をついてしまった。


 だが、この状況でこういう嘘をつく場面は至る所で見てきたので、大丈夫だと思いたいところ。


「な、なら良かったです。では、早速行きましょうか?」

「はい、行きましょう!」


 二人が向かったのは、集合場所の近くにある大型商業施設。

 色んな店があるために、高校生の経済力でも子洒落た物を見つけることが出来る。


「誕生日プレゼント渡している事って、あいつから聞いたんですか?」

「それもありますし、去年渡している姿も見ましたよ。あの時は、周りの女子皆が二人が付き合っているのかと勝手に思っちゃってましたけどね」

「やっぱり勘違いしますよね。そう言うことになるので、中学生ぐらいの頃に止めてもいいんじゃないかと思ったんですけどね。柚希は何も気にしないでこちらにプレゼントを渡してくれるものですから、今でも続いていますね」

「じゃあ、ずっと前からあのように送り合いしてるんですね」

「別にこう言うスタンスが続くことも悪いとは思わないんですけど、もう彼氏がいるらしいので考え直して欲しいとは今でも思ってますけどね」


 一応、パッとすぐに渡すだけで済ませて周りに目立たないように意識しているが、去年の時点でそうなってしまっているのであれば、今年は更なる注意が必要かもしれない。


「私としては、ずっと昔から変わらずに続いていると聞いてとても素敵だと感じましたけど、なかなか難しいものですね」

「まぁ柚希の彼氏さんからすれば、幼馴染であるなんて知ったこっちゃないだろうですしね。というか、これまで実用品を中心に色々と渡してきましたけど、自分の見ているところで使っているところ、見たことないんですけどね?」


 これまで柚希には、文房具やちょっとした小物を渡したりしていた。

 本当は消耗品などにした方が良いのだろうが、そういった異性的配慮をする相手でもないと思っているし、逆にそう言う物の方が女性向けとか色々あるので、選択肢的にいつも同じようなものに落ち着く。


 ただ、これまで渡したものを使っているところを一度も見たことが無い。


 渡した時は「やったー!」とか嬉しそうにはしているのだが、本当は要らないと思っているのではないかと若干疑っていたりしていた。


 そんなことを、目的地に向かうまでの道のりで結愛に話すと、ふふっと軽く笑った。


「柚希ったら、小野寺君から貰った物が相当大切なんでしょうね。持ってますけど、大事そうにして使ってないだけですよ。知りませんでした?」

「そ、そうなんですか? それは全く知りませんでした」


 渡した以上は、柚希がどう扱おうと自由なのだが、実用品なので使わないと意味が無いと思うのだが。

 だが、大事にしているということは貰ってそれなりに嫌な気はしていないということが分かったので、ちょっとだけ嬉しくなった。


「あ、これは柚希に内緒ですからね? 私が言ったことを知られてしまうと、絶対に柚希は怒るので」

「もちろんです。でも、そんな裏話を聞けて良かったです。いつも『無駄なもの渡してるんだろうな』って思ってましたから」

「それは絶対に無いですね。話を聞く限り、こうしてずっとプレゼントの送り合いを続けようとしているのは、小野寺君からプレゼントを貰うのが楽しみだったりするんだと思います」

「何だろう……。こんなこと言っていいか分からないんですけど、毎年渡していることと、変に凝ると良くないと思って適当に選んでたんですけど、今回は色々と考えてしまいそうです」

「一緒に色々見て回って、いい物が見つかると良いですね?」


 柚希の知らない一面が聞けたところで、二人は大型商業施設の中に入った。

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