合格発表
3月初旬、今日は蒼の志望校の合格発表の日である。卒業式の後、落ちた時に備えて勉強は続けていたものの、試験の結果が気になってあまり集中できない日々が続いていた。
その中迎えた合格発表当日、ネットでも結果は確認できるが、せっかくなのでみんなで発表を現地で見ようと理恵ちゃんがいって、いつもの4人で発表を見に行くことになった。
10時の発表に間に合うように、蒼は家をでた。大学の最寄り駅で電車をおりると、改札ではるちゃんの後ろ姿が見えた。蒼ははるちゃんに駆け寄った。
「はるちゃん、おはよう。いよいよだね。緊張するね。」
「蒼ちゃんは、受かりそう?私は自己採点したけど、ギリギリっぽい。」
「大丈夫だよ。二人で合格するといいね。」
二人で大学に入り、合格発表を待っているところに、涼ちゃんと理恵ちゃんもやってきた。
「もうすぐ、発表だね。ドキドキする。」
いつも明るい理恵ちゃんも、さすがに緊張で顔がこわばっている。
10時になり、いよいよ合格発表の時間となった。合格者の番号がかかれたボードが、大学職員によって設置されていく。
それぞれ自分の学部の場所に行って、自分の番号を確認しに行った。理工学部の場所にたどり着いた蒼は、順番に並んだ番号の中から自分の番号を見つけた。
「やったー。」
蒼は思わず叫んでしまった。見た目女の子の蒼から、男の低い声が聞こえことで周りから変な注目を浴びてしまったが、合格した喜びの方が勝るのであまり気にならない。
自分の合格の喜びに浸った後、はるちゃんたちはどうなったかが気になり始め、集合場所に戻ることにした。蒼がほかの3人を待っていると、はるちゃんがもどってきた。
「はるちゃん、どうだった。」
「合格したよ。これで大学も一緒に行けるね。」
蒼ははるちゃんに抱き着いた。はるちゃんも拒絶することなく蒼を受け入れて、二人で合格の喜びを分かち合った。
二人でひとしきり喜び合った後、涼ちゃんと理恵ちゃんが近づいてくるのがみえた。下を向いて泣いている涼ちゃんを、理恵ちゃんが励ましている。
「理恵、どうだった。」
はるちゃんが、理恵ちゃんに結果を尋ねた。
「私は受かったけど、涼ちゃんが・・・」
結果は言わなくても、泣いている涼ちゃんをみて不合格だったことは察しがついた。いつも明るい涼ちゃんが、泣いているところを初めて見た。
「涼ちゃん、まだ後期試験が残ってるから頑張ろう。医学部の試験科目は何?」
蒼の質問に、
「英語と数学と小論文。」
ようやく涙がとまった涼ちゃんが、震えるような声でこたえてくれた。
「みんなで対策練るから、がんばろう。みんなで一緒に合格しよう。」
蒼が涼ちゃんを励ますと、
「みんなありがとう。もう1回頑張ってみるよ。」
ようやく笑顔を取り戻した涼ちゃんがこたえた。
次の日、蒼は合格後の入学手続きを終えると、涼ちゃんのために後期試験の問題を解いていた。後期試験は、前期では出なかった証明問題が毎年出ているようだ。
涼ちゃんのために始めた勉強だったが、解き始めてみると楽しくなってきた。いままでとはちがい、受験の重圧のない状況で解く数学の問題は、パズル的な要素があって面白い。
「蒼、受験終わったのにまだ勉強してるの?」
部屋に入ってきた母が、蒼に尋ねた。
「明日、涼ちゃんに教えることになっているから、そのためにやってるの。」
「そう、蒼は友達思いだね。ところで、今度入学式用にスーツ買いに行きたいけど、いつがいい?」
「じゃ、来週の火曜日、お母さん休みとるからその日にしようか?」
「今度の日曜日でもいいけど。なんで休みとってまで平日なの?」
「スーツは採寸とかあって時間がかかるからね。平日の方がすいているでしょ。」
「ごめん、ありがとう。」
男が女性用のスーツを買いに行って、興味の視線にさらされるリスクを減らしてくれようとしている母の配慮に気づいた。そんな気遣いをかけてしまい申し訳ない。
「いいのよ。蒼が好きなようにしてもらうのが一番だから。買い物終わったら、ご飯も食べようね。」
翌日、涼ちゃんの家に向かっている途中、蒼は理恵ちゃんとすれ違った。
「理恵ちゃん、涼ちゃんはどんな感じだった?」
「完全に立ち直って、やる気出してる感じ。その辺は心配しなくてもいいみたい。」
理恵ちゃんは得意の英語を教えていたみたいだ。気持ちの切り替えの上手な涼ちゃんらしく、元気なようでよかった。落ち込んでいると、蒼もやりずらいと思っていた。
理恵ちゃんと別れた後、涼ちゃんの家のチャイムを鳴らす。笑顔の涼ちゃんが迎え入れてくれた。
「蒼ちゃん、わざわざ来てくれてありがとう。」
「さっき、理恵ちゃんとすれ違ったよ。」
「理恵ちゃんからは英作文のコツをならったよ。」
「じゃ、数学は証明問題からやろうか?」
「うん、お願い。」
そのあと、涼ちゃんに証明問題のコツをいくつか教えた。もともと成績の良い涼ちゃんなので、コツさえ教えればあとは自分の力でどうにかなるだろう。
「蒼ちゃん、ありがとうね。絶対合格するからね。」
帰り際、涼ちゃんが蒼を手握りながら言った。
「頑張ってね。涼ちゃんがいないと、男子でスカート履いているの一人だけになっちゃう。」
蒼が言った後、ふたりで笑った。なんとなく大丈夫そうな気がしてきた。
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