卒業式
入試が終わり学校に登校すると、教室の中ではみんな入試の話で盛り上がっていた。出来が良かった人、思うように力を出せなかった人もいるはずだが、みんな一様に笑顔なのは、ひとまず試験が終わった解放感からだろう。
にぎやかだった教室も朝のホームルームのために先生が入ってくると、静かになった。朝のホームルームでは、3日後の卒業式にむけての準備の流れが説明され、まだ入試が残っている人もいるので、あまり浮かれないようにしましょうと釘を刺された。そして、最後に、
「森田さん、ちょっとこの後職員室まで来てもらってもいい?」
蒼は突然自分の名前を呼ばれたことに驚いた。涼ちゃんから、「蒼ちゃん、何かしたの?」と冷やかされながら、先生と一緒に職員室に向かった。
職員室に入ると、先生から原稿用紙を渡された。
「森田さんお願いだけど、卒業式の時に生徒代表で話してもらってもいい?」
突然の依頼に、蒼は戸惑った。
「こういうのって、生徒会長だった人がやるものじゃないんですか?」
「それもあるけど、それとは別に男子代表で毎年一人話してもらっているの?ハクジョ男子として、学んだことや気づいたことを話してほしいの。」
「でも、なんで私なんですか?本田さんや森本さんや、他にも男子はいるのに。」
「森田さんは、最初からスカート履きたいわけで入学したわけじゃないよね。他の子はみんなハクジョ男子になりたいと思って白石高校にきたけど、森田さんはちがうでしょ。だからこそ、いろいろ思ったこともあるだろうからお願いしてるの。」
そこまで言われたら、断ることはできなかった。
「明日、一度原稿チェックしたいから、書いてきてね。」
教室に戻ると、涼ちゃんたち3人に囲まれ、
「蒼ちゃん、どうだった?何か言われた?」
早速涼ちゃんがきいてきた。
「卒業式で、男子代表で話すことになった。」
蒼は、先生から渡された原稿用紙を見せながら言った。
「蒼ちゃん、すごいじゃん。楽しみにしておくね。」
「理恵ちゃん、期待されても困るよ。作文とか苦手だし、人前で話すなんて初めてだから緊張する。」
「蒼ちゃん、心配しなくても大丈夫だよ。」
はるちゃんが、蒼の背中を叩きながら言った。こんな風に4人で楽しく過ごせるのもあとわずかだと思うと、すごく寂しくなる。
その夜蒼は原稿用紙に向かいながら、高校入学から今に至るまでのことを振り返ってみた。
2年生になって、スカートで学校に通うようになって、楽しかったこと、苦労したことなどがいろいろ頭の中に浮かんでくる。
はるちゃんや理恵ちゃんとは、ハクジョ男子だからこそ男女の垣根なく仲良く遊ぶことができ、はるちゃんや理恵ちゃんと交際できた。
蒼はそんな出来事を原稿用紙に書き綴った。
「森田さん、小学生の読書感想文じゃないだから、高校生活の出来事並べて、楽しかったです。だけじゃ、ダメだよ。」
蒼は昨晩書いた原稿を先生に見せたところ、ダメ出しをくらった。困惑している蒼に、先生が諭すように話しかけた。
「制服がスカートになって感じたこと、考えたことがあるでしょ。それが、どう今後の人生に結びついていくかを話して欲しいの。分かった?」
また、明日原稿を見せる約束をして、蒼は職員室をあとにした。
教室に戻り、ひとまず涼ちゃんと相談してみることにした。
「ハクジョ男子になって感じだことか~。とくに何も感じなかったな。中学のころからお姉ちゃんにハクジョ男子になるように言われて、家でもスカート履いていたから、制服がスカートになってもあまりなんとも思わなかったけど。」
「涼ちゃんはそうだよね。」
「でも中学の時に白石高校に行くって決めてから、髪の毛や肌の手入れとか体型の維持とかお姉ちゃんに言われるようになって、女の子って陰では努力してるんだなと思ったよ。蒼ちゃんもそうでしょ。そのことを書いたら。」
涼ちゃんからいいアドバイスをもらった蒼は、本田さんにも聞いてみた。
「私はスカート履きたくてこの高校にきたから、堂々とスカートで通学できるようになって、むしろ嬉しかったな。」
「ハクジョ男子として、何か思ったことや考えたことない?」
「そうだね~、男がスカート履くと、トランスジェンダーと思われるのはちょっと嫌だから、女子だって気分でスカートとスラックス選ぶように、男子もそうなればいいなと思ったことはあるかな。」
以前風邪ひいて病院に行ったとき、スカート履いている蒼を、性の問題で悩んでいると勘違いされた病院での出来事を思い出した。
「スカート履くのに、男と女子とか考えない世の中になればいいのに。男がスカート履いても誰にも迷惑かけてないから、好きなようにさせてほしいよね。森田さんもそう思うでしょ。」
「話聞かせてもらって、ありがとう。これで何とかなりそうだよ。」
本田さんからも、良いアドアイスがもらえた。やっぱり、ハクジョのみんなは優しい。でもそんな優しいみんなとも、明後日でお別れなのが寂しい。
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