始業式

 4月になり3年生が始まった。始業式の朝、蒼は2週間ぶりの制服に着替えながら、初めてのスカートで登校をした1年前のことを思い出す。あの時は、恥ずかしくてたまらなかったことが、遠い昔のように感じる。


 昨晩はるちゃんから「駅で待ち合わせして一緒に学校に行こう。」とラインが届いた。いつもは上りと下りで電車の到着時間がちがうので、いままで待ち合わせしたことがなかったが、断る理由もないので一緒に学校に行くことにした。


 いつもより1本早い電車乗り学校の最寄り駅ではるちゃんを待っていると、はるちゃんが改札から出てきた。蒼は、はるちゃんの制服がスカートであることに驚いた。

「はるちゃん、スカートなの?」

「タイツ履けばスカートでも、そんなに抵抗ないね。せっかくかわいい制服なのに、着ないのもったいないかなと思って、似合っている?」

「スカートのはるちゃん、かわいいよ。」

「それって、いつもはかわいくないの?」

はるちゃんが、スキー教室の時のお返しとばかりに意地悪っぽく返してきた。


 そのあと蒼は、はるちゃんの隣にいた同じ制服を着た女の子に視線をやると、

「はじめまして、妹の夏美です。姉がいつもお世話になっています。せっかくの二人の時間、邪魔しちゃいけないからお姉ちゃん先に行くね。」

 そう言って去っていこうとしたところを、はるちゃんが呼び止める。

「夏美、お父さんとお母さんには内緒だからね。私がいつかちゃんと話すから。」

「わかっている。」

そう言いながら、夏美は足早に去っていった。

 蒼は、すべての家庭が理恵ちゃんの家みたいに蒼の存在を受け入れてくれるわけではないことは分かっていたが、改めて現実を突きつけられると落ち込んでしまう。

「ごめんね。夏美が蒼ちゃんを1回見てみたいって聞かなくて。今日スカートで学校行くのが不安だったのと、久しぶりのスカート履いたところ蒼ちゃんに最初に見せたくて、蒼ちゃんと行くって言ったらついてきちゃった。」

 数分の間にいろいろあったが、スカートのはるちゃんと一緒に学校に行けて嬉しい蒼であった。

 

 学校について、3年1組の教室に入る。すでに涼ちゃんはきており、理恵ちゃんと一緒に話していた。

「涼ちゃん、おはよう。理恵ちゃんも同じクラスなんだね。3年生は4人一緒のクラスになれてよかったね。」

蒼が話しかけると、

「はるがスカート履いてる!!」

理恵ちゃんと涼ちゃんは、蒼に挨拶の返事をするよりもはるちゃんの制服がスカートであることに反応した。

「そんなにみられると、恥ずかしいよ。」

はるちゃんは恥ずかしそうにしていたが、そんなはるちゃんもかわいかった。


 リボンとスラックスの組み合わせの制服を着た、本田さんが教室に入ってきた。いつもの制服やこの前の私服だとかわいい感じだったが、スラックスだとカッコいい感じになっている。

「本田さん、おはよう。スラックスも似合うね。」

「森田さん、おはよう。2年生はスカート指定だったけど、3年生でスラックスもOKになったから、試してみようかなと思って着てみた。」

 女の子と言えばスカートという概念に、男である自分が一番とらわれていたことに蒼は気づいた。制服でも私服でも今後はパンツスタイルも試してみようと思った。

「ところで、公園で会った下田さん、かわいいね。小柄でかわいくて本当に女の子みたいだね。」

「中学の時、小さくて女顔だったから、それがコンプレックスだったみたいで、だったらうちの学校で女の子になった方がいいと思って、この学校入ったんだって。」

「そうなんだ。」

みんないろんな事情で、この学校に来てるんだなと思っていると、

「最初は垢ぬけてなかったけど、最近ぐんぐんかわいくなってきて、この前告白されたときも男同士って思ったけど、かわいいから性別は気にしなくていいかなと思って付き合うことになっちゃた。」

 本田さんは、幸せそうな笑顔を見せた。蒼は、美容室の島田さんが言っていた、「女の子は恋するとかわいくなる」という言葉を思い出した。きっと下田さんも本田さんに恋して、かわいくなろうと努力したのだろう、蒼がはるちゃんに恋した時と同様に。


 そのあと始業式のため体育館に移動している途中、まだスカートになれていない2年生男子をみかけた。まだ恥ずかしそうに下向いて歩いている。去年の自分を見ているようだ。

 男がスカートを履くことで、体の問題として難しいこともあるし、世間の偏見の目や誤解も受けやすい。でも、楽しいこともいっぱいあるし、女の子になってみないとわからないこともいっぱいある。

 白石高校に入らなければ知らなかったことなので、この学校に入ってよかったと思う。勧めてくれた母、普通の女子高生のように接してくれたクラスメイト、困ったとき相談に乗ってくれた先生、周りの人すべてに感謝しながら、蒼は体育館に入った。


 

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一応ここで最終回となりますが、まだかきたいエピソードはいくつかあるので、後日談的な展開で不定期に更新していきたいと思います。



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