創立記念日

 10月下旬の夜、蒼はいつものように夕ご飯を食べた後に自室で勉強をしていた。勉強がひと段落して、スマホをみると理恵ちゃんからラインが届いていた。

 学校が休みとなる11月1日の創立記念日に、市民科学館に行こうとのお誘いだった。またみんなで遊びにいくと思って参加の返信をするが、返信したところで理恵ちゃんからのラインはグループラインではなく、個人宛に届いていたことに蒼は気づいた。

 蒼は、「みんなも来るの?」と質問のラインを送ると、

理恵ちゃんから、「理恵と二人ではダメ?」と返事が来た。

 一度参加の返事をしてしまった以上、はるちゃんが来ないからと言って断るのは理恵ちゃんに悪い気がしたので、理恵ちゃんと二人で科学館に行くことになった。


 創立記念日当日、待ち合わせの科学館の入り口につくと、理恵ちゃんはまだ来てなかった。今日は、この前の涼ちゃんを参考にして、茶色のチェック柄のミニスカートと黒タイツを合わせてみた。黒タイツを履いているので、生足ではないとはいえミニ丈が少し恥ずかい。待ち合せで立ったままだと、すれ違う男性がみんな自分を見ているような錯覚に陥り、より恥ずかしい気持ちになる。

 約束の時間より五分ほど遅れて理恵ちゃんはやってきた。

「遅れてごめん。髪セットするのに、思ったより時間かかって、バス乗り遅れちゃった。慣れないことはしなければ、よかった。」

 いつものポニーテールだが、ヘアアイロンで軽くウェーブがかかっていて、いつもの理恵ちゃんとは印象が違ってみえる。

「今日の髪型かわいいね。いつもかわいいけど、今日はさらにかわいく見えるよ。」

蒼が褒めると、

「ありがとう。やっぱりしてきてよかった。いつも遊びに行くとき蒼ちゃんが編み込みしてるから、私も負けられないって思って頑張ってみたの。蒼ちゃんもミニスカートかわいいよ。さあ、中には入ろう。」

 

 科学館の中に入り、地球が自転していることが分かるフーコーの振子や、磁力や運動量保存の法則を応用したガウス加速器など興味深い展示を見て回る。

 子供の時にも来たことのある科学館だが、高校に入り物理などある程度基礎知識を持ってからみると、子供の時と違う視点でみれて楽しい。

「もうすぐでプラネタリウムの上演時間だから、上の階に行こう。」

理恵ちゃんはそう言いながら、蒼の手を握って引いて階段に向かった。

 プラネタリウムの上演が始まり照明が消されたときに、理恵ちゃんが手が伸びてきて蒼の手を握ってきた。拒むのも理由もないのでそのままにする。はるちゃんの手は蒼の心を癒してくれるが、理恵ちゃんの手は、守ってくれる安心感を与えてくれる。


 科学館を出た後天気も良いので、近くのファーストフード店でテイクアウトして公園でお昼ご飯を食べることにした。公園のベンチに座り、お昼も食べ始める。蒼はフィレオフィッシュセットで、理恵ちゃんはてりたまバーガーセットだ。外で食べると、いつも食べているハンバーガーがさらにおいしく感じる。途中、理恵ちゃんが一口頂戴といって、蒼が食べかけていたフィレオフィッシュにかぶりつく、

「蒼ちゃんもどうぞ。」

と言って、理恵ちゃんがてりたまバーガーを差し出してきたので、遠慮しながら一口かぶりつく。これって間接キスかなと思い、心臓の鼓動が速くなる。


 お昼も食べ終わった後、理恵ちゃんが急に真面目な顔になり、

「蒼ちゃん、はるのこと好きなのはわかっているけど、私と付き合って。」

理恵ちゃんの突然の告白に蒼はどう答えていいかわからず、黙っていると、

「はるも蒼ちゃんが好きなことは気付いているけど、ハクジョ男子と付き合うことに抵抗があるみたいで、悩んでる。でも私は女の子の蒼ちゃん好きだよ。蒼ちゃん、女の子のままでいたいんでしょ。私は受け入れるし、むしろ女の子のままでいて。」

 それから理恵ちゃんは、普通の男性にあまり興味が持てないこと、かわいい女の子が好きなこと、ハクジョ男子に会いたくて白石高校にきたことを話してくれた。


 蒼は今まではるちゃんのことばかり考えていたので、理恵ちゃんの気持ちは考えたことはなかった。予想外の告白に驚いたが、好意を抱かれて悪い気はしない。今の蒼を肯定してくれたのも嬉しい。

「ありがとう。」

 蒼は返答をどうしようかと悩んでいたが、まず告白してくれた理恵ちゃんにお礼を伝えた。

「それってOKってこと。ありがとう。」

理恵ちゃんは、蒼のお礼を肯定の返事と受け取り、満面の笑顔で答えた。蒼は訂正しようとしたが理恵ちゃんの笑顔をみていると、今訂正してこの笑顔を崩すのは悪いような気がしてできなかった。

 理恵ちゃんの手が肩まで伸びて、蒼の体を包んだ。蒼の体を安心感が包みこむ。この安心感に包まれるなら、理恵ちゃんと付き合ってもいいかなと思えてきて、

「これからもよろしく。」

蒼がそう答えると、

「ありがとう。」

理恵ちゃんはさらに強く蒼を抱きしめた。


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