春休み2 

昼ごはん食べた後も、母の女の子講座はつづいた。

「歩幅を小さくして、股は開かず平均台を歩く感じで歩いて」

母から言われ歩いてみるが、なかなか上手くいかない。足を意識している時は良いが、背筋を伸ばしてと言われ足から意識が離れると、足が開いてがに股気味になってしまう。


 母がちょっと待っててと言い残し、リビングから出て行った。数分後戻ってきて、手には白いスカートをもっていた。

「ちょっとこれに着替えてみて。」

と母がよく着ているレースのタイトロングスカートを渡してきた。それに着替えて、再び歩き方の練習をしてみる。

タイトスカートだと自然と歩幅が制限されるので、言われた通りの歩き方が自然とできるようになった。

母からようやく合格点がもらえたところで、休憩となった。

 椅子に座るときも言われたようにスカートにしわがつかないように、お尻をおさえながらゆっくりと腰かけた。


「だいぶん女の子らしくなってきたね。スカートになれるために、明日から家の中ではスカート着るようにしようか。あとそれと、15時から美容院予約してあるから、もう一度制服に着替えて。美容院行って、それから買い物に行きましょ。」

「美容院行くの?それになんで制服?」

「もうすこし女の子らしい髪型にしてもらうためよ。母さんの行きつけの美容室で話はしてあるから大丈夫、心配しないで。それに女の子になりに行くのに、男の格好だと変でしょ。蒼の年頃に合う服お母さん持っていないから、制服の方がいいのよ。服は年恰好にあっていないと、不自然で目立っちゃう。」

 去年説明会でいわれてから髪を伸ばし始めて、いまではようやく後ろですこし結べるぐらいまでは伸びていた。確かに女子みたいにカットしてもらったら、今まで来ていた男物の服は逆に似合わなくなるだろう。


 母の運転する車に乗り、母の行きつけの美容室へと向かう。美容室の入っているビルの駐車場に車をとめ、美容室の入っているフロアまでエレベーターで上がり、美容室のドアを開ける。

「いらっしゃいませ。」

「予約してあった森田です。」と母が受付をすませてくれたので、蒼は案内された椅子に腰かける。

 母も担当している島田さんという女性が挨拶してくれ、母の女の子らしくして下さいというリクエストにも、とくに驚くことなくカットに入る。

 島田さんがカットしながら、美容師業界はわりとLGBTな人が多いとか、お客さんでも男性なのに女性っぽく切ってほしいという人は結構いるとか話してくれた。

 母がどう説明していたかわからないが、完全に僕のことをトランスジェンダーと思われているようだ。訂正しようと思ったところで、カットが終わった。


「こんな感じでいいですか?」

島田さんが鏡をもって全体が見えるようにしてくれている。いままでただ伸ばしてあるだけだった髪の毛が、女の子らしくかわいくショートボブに整えられいる。

 女子が「触覚」と言っている顔の横に垂らした前髪で、気になっていたあごのラインもかくれて、すこし女の子っぽくなってきたのが自分でもよくわかる。

 結ぶときはハーフアップした方がいいといわれ、そのやり方もならった。島田さんに結び方を習っている蒼の姿を、微笑んでみている母の姿が鏡越しに見えた。やっぱり母は息子が娘に変わる、このシチュエーションを楽しんでいる。


美容院を出て、

「さて、これから買い物に行こう。」と嬉しそうな声で母は言った。

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