第8話 【黄泉がえりの牛】ブンバ・メウ・ボイ(O Bumba meu Boi)

 ブンバ・メウ・ボイとは、死んだ牛の復活の話である。ブラジルの各地で伝わっているが、特に有名なのはマラニョン (Maranhão) 州に伝わる話である。それは次のようなすじである。


 18世紀、ブラジル北部のマラニョン州に、マリンニョという人物が経営する牧場があった。牧場では、フランシスコという人物が、牛の世話を任されていた。ある日、カチリーナというフランシスコの奥さんが妊娠にんしんし、牛タンの料理を食べたいと言い出した。フランシスコは奥さんの妊娠にんしん祝いということで、牧場の牛をつぶして料理した。ところが、その牛は、牧場主のマリンニョが特に可愛がっていた大事な牛であった。マリンニョは牧童ぼくどう奴隷どれいを問いただし、とうとうフランシスコが牛を殺した犯人であることを突き止め、牛を返せと責め立てた。

 困り果てたフランシスコは僧侶そうりょ呪術師じゅじゅつしを集めて、町の中央の公園で牛の復活の儀式をさせた。牧場主、牧童ぼくどう奴隷どれい、その場に居合わせた町の者たちが加持祈祷かじきとうに参加し、皆で一斉に「ブンバ! メウ ボイ!!」と叫ぶと、牛が復活したという。


 さて、後年、この牛の復活劇は祭りとなった。毎年6、7月頃にはブラジル北部各地で、ブンバ・メウ・ボイ祭りが行われるという。大抵たいていの祭りでは、牛を殺したことが牧場主に発覚はっかくして右往左往うおうさおうする登場人物を滑稽こっけいに描く喜劇として、先述せんじゅつしたストーリーを上演する。一方で、盛大なパレードをする地域もある。特にブラジルで一番大きなパレードは、6月にアマゾナス (Amazonas) 州のパリンチンス (Parintins) で行われるものだそうで、ボイブンバ (Boi-Bumbá) と呼ばれる。このパレードは、あの有名なリオのカーニバル並の集客しゅうきゃくがあるそうだ。

 余談よだんだが、このパレードのときに牧場主が乗っていた馬はカヴァロ・マリンニョ (Cavalo Marinho) という。たてがみと尾は金色で、眉間みけんに金の星の斑紋はんもんがある美しい白馬で、不思議な魔力を持っているとされている。しかしながら、この祭りでは特にその力を発揮しない。

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