ブラジル怪異集

スグホリコ編

第1話 【美しき女王】アラモア(A Alamoa)

 16世紀にヨーロッパ人がブラジルへ入植にゅうしょくしてくる以前、ブラジル北東部にあるフェルナンド・ジ・ノロンニャ (Fernando de Noronha) 島には、美しい王国が栄えていた。人々は豊かで平和に暮らし、立派な宮殿きゅうでんを建設した。その宮殿に住んでいた伝説の女王こそ、アラモアである。彼女は大変美しかった。目は青くんでいて、髪は金色に光り輝いており、肌は白くき通っていたという。

 この女王の住んでいた王国は栄華えいがを極めたが、入植者にゅうしょくしゃたちが来た頃には衰退すいたいした。そして、女王は姿を消したそうだ。その王国が衰退すいたいした理由を知る者はいない。

 しかし、「女王は今でも生きている」と考える人がいる。彼らによると、女王は島にあるピコ (Pico) という巨石きょせきに封印されているそうだ。その岩は嵐がやってくると開かれる。そしてそのとき、女王が姿を現すという。岩の封印から解放された彼女は、その喜びからなのか、激しい雨と稲妻いなずまの下で、裸になって砂浜で踊る。特に金曜日に嵐がおこると、女王の現れる可能性が高くなるそうだ。女王に出会った人々は、たちまち彼女の美しさに魅了みりょうされてしまう。そんなとき、彼女は髪を振り回し、出会った人を永遠に岩の中に閉じ込めてしまうという。もしかしたら、岩の中には彼女の住む王国があり、彼女に心をうばわれた者は、その王国の民として迎えられるのかもしれない。

 それにしてもヨーロッパ人がブラジルへ入植にゅうしょくしてくる以前に、白人女性が女王として君臨くんりんしていた王国が存在していたとは、なんとも不思議な話である。これは、ヨーロッパの船乗りたちが長い旅のなかで見た夢だったのであろうか……。

 なお、女王アラモアは「アリマン (Alemã) 」と呼ばれることもあるという。アリマンとはポルトガル語で「ドイツ人」の意味である。アラモアとアリマンの語感ごかんが似ているせいだろうか、それとも青い目と金髪のドイツ人女性がアラモアを連想させるからなのだろうか、このような混同こんどうが見られる。

 現在のフェルナンド・ジ・ノロンニャ島には、かつての王国の姿を見ることはできない。しかし、その島の大部分は自然保護区に指定されており、美しい空と大地が残されている。島を取り囲む海もブラジルで最も美しいとされており、スキューバダイビングのメッカになっていると聞く。

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