第33話飛んでけあんぱん野郎でつ
「ひまりちゃんッ! すっごく楽しかったね!!」
ひまりを抱き締めて室内でぶんぶん振り回りまわしているマイコ。
超人的な身体能力で風が起こっている。はわはわわと目を回しながらもジャイアントスイングのように回されるひまりは怒っても良いと思う。
「そうですね、さすがひまり様とマイコ様です。SNS上でもかなりの反響が及んでいます、素晴らしい歌声でしたよ? 早速オリジナル曲を
マネージャーとしてもその非凡な能力を使って卒なくこなしていくハカセ、実際かなりの反響が及んでおり、再公演はいつになるのかと問い合わせが凄まじい。
テレビ出演や対談、コラボの申し込みなど途切れることはない。マルチタスク処理で依頼者の素性や情報などを吸い上げて行く。そのためにアプリに仕込んだスパイウェアが役に立っている。
マイコのぐるぐるの刑が終わり床にぺたりと倒れ伏すひまり、歌い終えた後ということもありへろへろになっている。
今まで幼いながらも感情をぶつける先が無かったものがライブで溢れてしまっていた。我慢することが良い子の証だと信じていたのだ。
「おかーしゃん喜んでくれるでしゅかね……」
「……ひまりちゃん……そうだね、元気にいっぱい遊んでお勉強頑張ったらきっと喜んでくれると思うよ? わたしもずっと一緒に居るから……」
ぐすぐすと鼻水を
うんうん、と同意するかのように関心しているハカセにマイコはイラッとするものの今後の相談を始める。
話を纏めると、魔法幼女、少女関連のイメージアップと共に、ひまりが人との関りを持ち情緒や社交性を学ぶのも良し、好きなように歌って気分を晴らすのも良しと割とのびのびな活動内容であった。さすが魔法幼女第一主義である。
「それと日本を取り巻く世界情勢の調整も考えてもいるのです。このまま強大な力をもつ日本という国が警戒されたままだとご家族とも今後過ごしにくいでしょう。大規模な災害に派遣で行くなども考えていただけないでしょうか? もちろん派遣先は選りすぐりますし世界の奴隷などにはさせません」
「ハカセが言うのならひまりちゃん優先で動いてくれるんですよね? それならばわたしも異議はありませんよ。それに人助けは良い子のお手本みたいなものですからね」
「ありがとうございます。取り敢えず
「わたしは学校さえ問題なければ大丈夫ですよ? あ、魔法少女戦隊マギアルージュとコラボしたいです。あと声優さんのサインも欲しいです、えっとあとは……」
「全てお任せを。サインどころか出演依頼もぎ取ってきますよ」
とってもいい笑顔でサムズアップするハカセ。
そういう所が無ければ有能な人なんだけどな……とマイコは思うのであった。
ほわんほわんほわんほわわわーん
綺麗な腰程まである金髪は乱れ、白い妖精のような肌は酒の影響で赤らんでいる。なぜこうなったのかと言えば――
――――見た、聞いた、共感した、感動した、狂った。
最近まで国名すら覚える事さえなかった島国、
侍が生息してるだとか忍びの末裔が国を
決して信じてはいなかった、いなかったのだが――魔物はいた。
歌の魔物がいた。いや、歌の怪物は存在したのだ。
未だに体の芯に残っっている、あの肌が
体験したことのない快感と、強制的に叩き込まれた共感させられる感情。
酒を飲んで一生懸命忘れようとしているのだ。
最初は怖い物見たさだった、まだスマホで眺めているだけならば軽傷だったに違いない。
最新技術とかいう触れ込みで興味本位でVRゴーグルを装備してアプリを起動させたのがいけなかった。
メタバースに感心し、どんなもんかと思えば小娘が二人出て来ただけであった、なんだお遊戯会が始まるのかとガッカリしたものだがそれが引き返せる最後のチャンスだったのだ。
―――――――――。
そう――言い表せない。感想が言葉にできないのだ。
人間を超越した何かに犯された。ぐっちゃぐちゃのドロドロに私の精神は侵略され蝕まれたのだ。
あれから歌を歌う気にまだなれない、プライドがへし折られ自分を保てなくなった。
麻薬のように中毒性のある
私の声も人々を魅了した……世界に何千万人というファンがいる。
世界がアレを知ってしまったらもう終わりだ。
歌という文化が崩壊する、すべてが色あせてしまう。
「なに後ろ向きになってんだか……私の実力はこんなものじゃないはずよ……」
事実オリビアの歌声は透明感があり透き通るようなセイレーンの如き歌声だ。
数多の男性を骨抜きにし、女性を熱狂させる。
コンサートも年に何度も行っているし世界ツアーも組まれている。
なのに、なのに、なのに、なのに、なのに……。
「どうしてこんなに悔しいのかしら――あら、泣いてるのね……私……」
赤らんだ頬には涙が伝う、その姿も美しいと褒めたたえられる程だ。
絵画の題材にすれば幾千万で飛ぶように売れるだろう。
「少し有名になったくらいで満足していたみたいね……待ってなさい……。日本の小娘ッ! このッ! 歌姫であるオリビアが全力で叩きのめしてあげる!!」
女の執念を舐めない方がいい。
執念のこもった鬼のような表情に変わるとワインボトルを全力で床に叩きつけるオリビア。
破片が飛び散り
流れ出た紅い液体をペロリと妖艶に舐め上げる。
口元に残る血液のあとが艶めかしい。
スマホを手に取るとマネージャーに連絡を取る。
「聞きなさい、ここ一か月のスケジュールは全てキャンセル。行かなければいけないところがあるの――――ん、何よ。私のいうことが聞けないというの!?」
電話の先では困ったような態度のマネージャとの応酬が始まっていた。
「だから知ったことじゃないわよ。日本に会いに行くの――そう、歌の怪物によ。ええ、物分かりいいじゃない。あなたも聞いたから分かるはずよ」
名前を出したとたんマネージャーの態度も急変しスケジュール変更を許諾する。
「早く怪物の事を伝えれば話がはやかったのね。じゃあそういうことね――よろしく」
通話が終わりスマホをソファーに投げ捨てる、怪物の事を伝えて話がトントン拍子で進んだのも気に入らない。
どうやら対談の申し込みをするそうだが、マネージャーが乗り気なのもオリビアの癇に障るようだ。
「私よりも小娘の方がいいってわけね、ええ、ええ、ええ、ええ、分かっているわよ? 今の私が劣るくらいッ!!
苛立ちがあまりにも収まらないために仲間のバックダンサーやバンドを誘い酒でも飲もうと電話で誘い始めるオリビア、酒癖が悪いと有名なのでなかなか捕まらないようだ。
こうして魔法幼女であるパルルに執念を募らせている一方――
「ひまりちゃんオリビアって歌姫知ってる? この人の事なんだけど……」
「ふわー綺麗な人でしゅねーでも知らない人でつよ? どうしたんでしゅか?」
ヨウチューブでミュージックビデオを再生して聞かせるマイコ。
パソコンからは綺麗な歌声が流れ出て来る。
「いい歌でしゅねー、でもひまりは、飛んでけあんぱん野郎ッ! の主題歌の方がしゅきでつ!!」
それを聞くなりマイコはすんごく真面目な顔をして説教を始める。
「それ誰に教えてもらったの? ハカセ? ハカセよね? ハカセと言ってひまりちゃん!?」
本人の知らぬままマイコによる私刑が確定した瞬間であった。
実際の所ひまりがハカセのパソコンを勝手にいじってしまい、たまたまクリックして聞いてしまっただけなのだが……。
――と、あんぱん野郎にも負けているマリアナであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます