第4話不穏なのでつ?

 今日も今日とて超常対策室は混迷を極めている。

 銀行強盗で負傷者を多数出るも魔法幼女(仮)が解決してしまったからだ。おかげで警察に批判が殺到、指名手配のタイミングも悪かった、まさしくヒーローの姿を証明してしまったからだ。


 神経質そうで線が細い男、入間いるまキョウタロウがほぞを噛んでいた。

 頭をガシガシと掻きむしり数本の髪の毛が抜けて行く、目には隈が浮かび上がり睡眠不足が伺える。


「なんであのクソガキはタイミングを考えないんだ!! さっさと実験動物にでもなればいいものを!! 外交筋から問い合わせが来てるじゃないか! IFB連邦捜査局MI7秘密情報部も!! ――そうか、人員をよこしてもらえばいいじゃないか……さっさと連れていけばいい……」

 

 狂ったように笑い始めた入間、周囲の人間は苦い顔をして舌打ちをしている。

 入間という人間はあまり好かれていない、キャリアを積み上げ、トントン拍子で位があがるもの現場の叩き上げの刑事たちからは嫌われている。


 いわゆるエリートなのだが神経質で要領がよく人を見下し悪しざまに命令をする。

 今回の件も所内では意見が分かれていた、保護すべきという良心派と強引に銃で撃ってでも早く捕えろという強硬派。通常ではありえない事態に狂気に走るものも多い。

 先のケガを回復させるという奇跡を起こしたことをきっかけに見たことがない機関の人間や、不法入国者が後を絶たない。

 生き血を啜れば不老不死にだとか、新人類だとか不穏な噂が後を絶たない。

 

 物的被害に目を瞑れば幼女は善なる存在なのだ。


 アニメやドラマのようにいかず、現実ではこんなものなのかと失望せざる得ない。

 恐らく入間は強権を発動して強引な対処に舵を切る気だろう。現場に出る良識派の刑事たちはなんとしてでも止めなければと熱い闘志を燃やす。あの幼女のニパッと笑う笑顔が忘れられないのだ。




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 中流階級がよく好んで住む閑静な住宅街に日系人とは思えない堀の深い外国人が複数人で周辺を警戒しながら会話をしている。

 先日銀行強盗で被害にあった北コーの制服をきた女子高生の住む自宅近辺でもある。


「おい、マジックリトルガールと接触した対象の住処はここなんだな?」


「ああ、間違いない。拠点を確保して監視対象になっているはずだ」


「なぜこの田舎国家に来てまでこんなことをしなければならない……上は何を考えているんだッ!」


「よせ、報告されるぞ。今はまだ様子見だ。確実に確保できる時まで待つんだ」


「…………長丁場になりそうな仕事だな。どうせ米国や、英国の機関もいるんだろ? 見たことある顔ぶれだぜ」


 この一帯にカタギじゃない雰囲気を纏う外国人が多数見受けられる。


「ジャパニーズポリスがなんでも共同戦線の協力を申し込んできたみたいだぜ? リトルガール一人によくやるぜ」


「情けねえなサムライさんよ、刀でも過去に忘れてきたんじゃねえのか? ま、よその勢力とやり合わなくて助かるがな」


 件の女子高生はまだ病院に入院中らしいので監視はされている。現在退院後を見据えて監視体制を構築している所だ。


「トーキョー地区に出没頻度が高いんだろう? マジックリトルガールは?」


「ああ、地方にもたまに現れるが五割以上トーキョーシティだ。今や世界から狙われるリトルガールも不憫だよな、ジャスティスソウルを持っているはずなのに」


「アメコミのヒーローでも迫害される展開なんてザラだぜ? だがスーパーパワーでやっつけちまうんだッ!」


「おいおい、コミックの読み過ぎかよ? だがそれって俺らやられ役じゃねえか。ぞっとしねえぞ?」


「……………………先走らないよう釘を刺しておくか、他の部隊が出るまで様子見しよう。我らがヒーローは強いらしいからな」


「ああ、そうしよう……」


 男たちは拠点に帰還するなりひとまず静観の指示を出す。国からの圧力もモチロンあるがで威力偵察ができていないためしぶしぶ提案を飲ませた。

 男の所属する組織の勢力は中規模で大国に対して強くも出られないらしい。


 強欲な国のルーシア、AUアジアユニオンが先走り、この国を混沌に叩き落とす可能性が高い。


――精々俺達を巻き込まないでくれよ。


 そう男達が願いつつも叶うことはない。すでに騒乱は始まっている、今この瞬間が束の間の平穏だった。




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 病院の窓から見える桜の木をホケーッと眺める。

 ああ、今頃始業式が始まってるんだろうな。銀行強盗の人質になるなんて一生分の悪運を消費してしまったのかもしれないな。


 今学期で高校二年生になった戸部とべマイコはぼんやりと考える。


 体中に撒かれた包帯の下の撃たれた傷は回復したものの銃弾のあとは痛々しくもハッキリと残っている。足に違和感も残っておりリハビリの最中だ。


「病院のご飯おいしくないなぁ、見舞いに来てくれるのは家族だけだし友達作ろうと張り切ってたのに始業式のスタート切り損ねちゃったよ……うううぅ」


 用意された病院食の苦手な野菜を隅に寄せつつしぶしぶ口に運ぶ、眉毛は下がり困った顔をしながら仕方なしに栄養補給をする。


「今年こそは友達百人計画を立てていたのに。魔法少女アニメを布教する為に用意した配布用のポスターが無駄になっちゃったな……」


 本人は気づいていないが重度の魔法少女オタクであり、あまりの布教の勢いにドン引きされ友達ができていないことを分かっていない。それを除けば普通の少女なのだ。


 だが夢である魔法をつかう幼女ちゃんと友達になれたことを思い出すとニマニマとだらしなく顔を緩ませる、何度もそれを繰り返していると看護師にも気持ち悪い子との評判だ。

 魔法幼女と複数回に渡り会話をした事で、あらゆる国に狙われるようになったことを知らないのは幸せな事だろう。


 家族ともども特別な病室が用意され、花瓶、テレビ、トイレ、ユニットバス、あらゆるところに設置されてある監視カメラがマイコのプライベートを丸裸にする。


 超法規的とは魔法の言葉なのだ。


 訴えてももみ消される未来しか待っておらず独り言さえ詳細に記録されている。中には友達がいない宣言に共感し生暖かく見守られてさえいる。


 コンコンと、窓の外から音が聞こえて来た。マイコが窓の外を見て見るとなんと魔法幼女が浮かんでいるではないか。


 ギプスの嵌められた右足を引きずりながらも窓を開けようと必死に鍵を開ける。


 もちろん各国監視班たちは大慌てであり、あまりにも早すぎると絶叫している。  

 部隊を展開するべきか? いや今回は様子見だ。などと会議を開いている。


「パルルちゃん! どうしたの? お見舞いに来てくれたの!」


 満面の笑みで魔法幼女であるパルルを出迎える。件の幼女はぴょこんと窓枠に腰を掛けるとすこし困った顔をしている。


「うーん、えーと、おみまい? ってどうすればいいかわからないでつ……パルル何も持ってないでつ……。わるい子でしゅか?」


「そんなことないよ!? 可愛い可愛いパルルちゃんが来てくれただけで元気が出たよ! ありがとうね! 大好きッ!」


 ガバリとマイコはパルルを腕の中に抱き締める。うむむと苦しそうに幼女は蠢くも悪い反応ではない、むしろどうしたらいいか分からないようだ。


「パルルちゃんは良い子だねぇ~、お母さんとお父さんは大丈夫なの? ちゃんと言ってきた?」


 マイコはその質問がパルルにとって致命的なのを知らない。パルルはすぐさま顔を曇らせ、碧眼から涙をポロポロ流し始める。


 幼い涙は留まることを知らず、マイコの胸に蹲りながらもえぐえぐと泣き続ける。


「ごめんごめんね、悪い事言っちゃったかな? パルルちゃんほんとにごめんッ!!」

 

 パルルは訳を言わずに、ヒックヒックとマイコの胸の谷間をグリグリと顔を往復させその暖かみに包まれたままだ。


「ひっぐ……ひっぐ……。――おかーしゃんもおとーしゃんもいましぇん……」

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