第2話銀行強盗でつね

 可愛く変身した魔法幼女の制服は、ヒラヒラしたフリルが付いたゴシック調のピンクのドレス。

 胸元におっきなリボンが飾り付けられており、サラサラで長い金髪の頭には綺麗なティアラの装飾品がチャームポイントだ。


 変身前後で変わることと言えば可愛い服装と金髪になり、存在の隠蔽力は上昇するが身体能力自体は変わらない。

 魔法幼女という人間の理を逸脱した生物へと変貌してしまっているのだ。


 空を飛び、ドレスのフリルをはためかせながら魔法幼女は本日のパトロール中だ。

 眼下の景色が凄い勢いで流れいく。

 

 一般市民にスマホのカメラで撮影されると随時SNSにアップされている。

 

 すぐさま警察官が出動要請が出るとパトカーのサイレンが街に鳴り響く。


 空を飛ぶだけで世間を騒がせる魔法幼女。ある意味人気者である。


「んーと、えーっと、わるものセンサーに反応は……。――あったでつ! いっくぞー!」


 目標に向かい飛翔魔法発動、全速力で降下を開始する。風を切り音の壁を突き抜ける。


 発生したソニックブームは周辺の窓ガラスを破壊し破片がキラキラと飛び散る。

 

 おまわりさんが頭を抱えながら救助隊を要請するのが目に浮かぶようだ。





ほわんほわんほわんほわわわーん





 銀行内で発生した強盗事件、今まさに人質に取られている私。――なんて運がないんだろう。


 学校帰りにアルバイトの給料を引き落としに来ただけなのに……。


 銀行のATMの調子が悪かったらしく窓口の整理券を受け取って待っていると、急にパンッと乾いた音が銀行内に響き渡る。


 おそるおそる振り返ってみると、目出し棒を被った怪しい人間が複数人銀行に入って来ていた。


 銀行内に女性の金切り声が上がるとサラリーマンのおじさんがお腹から血を流して倒れていた。


 店内にいた人たちは逃げ出そうと入口へ駆けて行くも、強盗に逃げ場を塞がれ脱出することができない。


 人質にしようとしているんだ。


 受付に銃を向け金銭を要求する強盗、手を上げる銀行員たち。

 しばらくすると奥の扉からゆっくりと要求された金銭が入っているであろうカバンを持ってきている。

 バックの中身を確認している強盗をみて、早くどこかにいって欲しいなぁ……なんて思っていると。カバンを持ってきていた人が撃たれて地面に倒れ込んだ。


「少ないじゃねえか!? 俺をなめてんのか!? あ゛! さっさと追加を持ってこいや! つかえねえカスッ! 次しくじったら一人ずつ殺すからな!」


 恐ろしいやり取りを、店内備え付けの椅子の後ろに隠れながらも見ている。


 身体は震え、おかあさんにごめんなさいと呟くように謝る。

 もしかしたらもう会えなくなるかと思うと体の震えが止まらない。――怖い怖い怖い。


 しばらく震えて蹲っていると銀行の外からパトカーのサイレンの音が聞こえて来る。――助かるんだ!


 希望の鐘がカランコロンと脳内に響いてくる。早くおまわりさん強盗をやっつけて…………。


 希望を抱いている心に大きなヒビを入れる悪魔の音が聞こえて来た。

 パンッと三回ほどの発砲音が銀行内に鳴り響く。


 そういえばテレビで銀行には緊急ボタンが受付の裏側にあるって言ってたなぁ、なんてのんきに現実逃避をする私。


 受付のお姉さんが撃たれたのだろう、こちらから見えるカウンターに立っていた人が見えなくなっている。


 なにか意味の分からない叫び声を強盗達は上げると。入り口に色んなものを置き始め、バリケードみたいなものを作っていた。


 それから私たちは携帯など含むすべての持ち物奪われ、頑丈な紐のようなもので縛られ店内の隅に集められる。


 ブルブル震えながらも俯き神に祈りを捧げる。叶いっこないよな、と思うもひたすら願う。


 どうやら警察が到着し、投降を呼びかけるも強盗は銃を発砲し逃走車両を要求している。

 不意に大柄な強盗が私の腕を引っ張って、入り口に連れていかれる。


――痛いッ! 痛いッ! 痛いッ!


 無理やり引っ張られ服の袖が破けるもお構いなしのようだ。


 外が見える位置に連れてこられ、こちらに拳銃を向ける警察官が見えた。


 私という人質に気づいたのだろう銃口を逸らし、スピーカーでやめろッ! その子は関係ないッ! とかドラマのような事をいっていた。


 テレビクルーもやって来ていてカメラが私に向けられている。

 こんな全国デビューはいやだなぁ、鼻水と涙で汚れてるよぉ。


 私のこめかみにゴツリと音をたて銃口が付きつけられている。その瞬間少しおもらししてしまったのは内緒だ。


 周囲は騒然とし、ピシリと音が聞こえてくるような緊張感が伝わって来る。

 あ、くしゃみが出そう。まずいまずいまずい。


「あ、あの…………『あ゛!? んだこらぁ!?』……くしゃみしてもいいですか?」


 きっとテレビの前のみんなは私の事をアホウとでも思っているのだろう、でもね我慢できそうにないの……聞いただけえらいと思うんだ。うん。


「…………あ、ああ、それぐらいならいいぞ……?」


 ほら、強盗さんもきっと変な子だと思ってる。警官もちょっと気を抜かないで助けてよ! もう!


 あ、やばい出そう。きっと「ふえっ」ってなってる私の顔はとっても不細工だと思うの。でも我慢できない。いくぞー。


「ふえっくしょッ――――」


 爆音。


 衝撃波が伝わって来て、私も、強盗も、警察も吹き飛んだ。強盗がクッションになったのか壁には叩きつけられず無事だったみたいだ。だけど頭がくらくらする。


 あたりのガラスも吹き飛んでぱらぱらとダイヤモンドダストのようにキラキラと降ってきている。綺麗だなぁと思いながら鼻血が出ている私。


 あ、チャンスだ、とコソコソ逃げようとしていると。目の前に幼女がすっごいプリティーなカッコをしていたの、とっても似合っていたし胸が凄くキュンキュンする。


 手にもつ巨大なハンマーは似合わないと思うな、するとその幼女が声を掛けてくる。


「わるものはどこでつか?」って。


 あの黒い変なの被ってる人たちだよ、と指を刺して親切に教えてあげるとニパッと笑う幼女ちゃん。とってもかわいい。じゅるり。


 そこからが凄かった。地面を砕く踏み込みと共に立ったまま銃口を下げている強盗一号の腹にハンマーを振り――抜いた。


 壁に叩きつけられた強盗一号はゲボッと血液の塊を吐き出し、変な方向に体が曲がっている。うわぁ……。


 キィンッと金属が何かを弾く音が聞こえた。まただ、あれは幼女ちゃんが銃で撃たれているッ! やめてッ!


 だが幼女ちゃんに弾かれるだけで、拳銃の銃弾がとうとう切れたのか悔しそうに唸っている強盗二号、ハンマーを支点にして幼女ちゃんが空中で回転、回し蹴りを顎に叩き込まれる。天井でバウンドして落ちて来る体にハンマーを横薙ぎに叩きつけられダウン。明らかにオーバーキルだが。ざまあみろと内心思う。

 

 再び、私のように人質を取ろうと走り出す強盗三、四、五号。


 ちっちゃいお手々を強盗に向けると手の平からビームが三本、ギュリリと唸りを上げながら向かって行く。アニメで見た追跡する閃光矢のようでとても綺麗だった。


 強盗の胴体を貫通するビームがそのままコンクリート壁を突き破り飛んでいく。幼女ちゃん殺意マシマシだぁ。


 まるで私の大好きな日曜朝にある魔法少女アニメを見ているようだった、私は目をキラキラ輝かし興奮していた。

 喜びを全身で表現させ応援したいくらいだ。

 

 それがいけなかったんだろう。足に鈍い痛みが走る。


「――ッァ!!」


 声にならない叫び声をあげる。痛い痛い痛い痛い。激痛にあえぎ、のたうち回る。


 私、撃たれたんだ。先程クッション代わりになっていた強盗リーダーがこちらに銃口を向けていた。――バチが当たったのかなぁ、悪い行いをした事は……おかあさんの大切なプリンを黙って食べたことが……。


 胸元に衝撃が走る、熱いよぉ……。息ができない…………。


「わるものめッ!」


 朦朧とする意識の中、最後の強盗に幼女ちゃんがハンマーを叩きつけている所が見えた。やったね幼女ちゃん、私は死んじゃうけど偉いね!


 とてとてとて、と可愛い足音を立て駆け寄って来る。


「大丈夫でつか?」


 うーん、大丈夫じゃないかなぁ……でも叶うなら最後に幼女ちゃんと。


「幼女ちゃんと友達に……なりたかったなぁ……」


 ちっちゃいお手々をこちらに向けて暖かな光を放っている、冷たくなっていく体がぽかぽかしてくる。なんだろ、心地いい。


「もうだいじょうぶでつよ? いたいいたいは飛んでいきましゅた?」


「あ、ありがとう……。あのね……友達になってくれる……?」


 幼女ちゃんはうーんうーんと首を可愛くひねるとこちらを向きニパッと笑う。


「いいでつよ? 親切にしてくれたおねーさんは友達でつ! じゃあわたちはかえりまつ!」


 そういうと、とてとてとて、ばっびゅーんと空気を切り裂き飛んで行ってしまった。残りの窓ガラスがキラキラを頭に振って来る。豪快だなと思うも、目の前が段々暗くなってくる。


 収集した事態に慌てて、警察と救助隊が走り寄って来るのを最後に私の視界は暗転した。

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