日本語訳版第4話『学ばなければ(社会的に)生き残れない!』

文化圏の問題かもしれないけど、もしかしたら私異世界に来てペットみたいな立ち位置になっちゃったかもしれない。このままだと芸とか教え込まれたりリード付けられて散歩させられちゃうかも……。自身の名誉のためにもそれは何としても避けなくては……!私はラエラちゃんの肩をがしっと掴むと、自分を指さして、


「いーさたぅ……は……本町ことは!……で……す……。」


初めて英語で会話するときのような、頼れるもののない中で暗がりを手探りで一歩一歩進むような、そんな不安と高揚感に包まれながら、半ば勢いで言葉を紡ぎ出す。後半は勢いが落ちてしどろもどろになっちゃったけど、何とか私が意思疎通の図れる存在だということを伝えなくてはならない。私にはまだそんな癖はないわけだし……。そんなこんなの私の自己紹介を受けてラエラちゃんは、にっこりと微笑んでくれて、私のことを抱きしめてくれる。また!?……ああそういえばこれは「正解」的なジェスチャーだったっけ。ちょっと恥ずかしいな……まあ嬉しいからいいんだけどね。


「ことは!ことはさん!これからよろしくお願いします。」


どうやら私の拙い異世界語?でも伝わったらしく、しきりににこにこしながら耳元で「ことは」と呟いている。意思疎通できたことにさっきまでの不安は雲散霧消し嬉しさが間欠泉のように吹き上がる。でも初めてのペットに名前を付けて可愛がっている女の子にも見えて、その微笑みがちょっと怖い!私は人間の言葉を一応?一応理解できるってことをどうにかして伝えないと……!部屋を改めてじろじろ無遠慮に見回す。といっても、あんまり物を買わない子なのだろうか、部屋は物も少なく美しく整頓されている。まるで……といってもほぼそのままなんだけどログハウスみたいな壁も相まって、「綺麗」という言葉がとっても似あう、そんな部屋。そんな中、私の目が捉えたのは、何やら長方形の薄く白いものが同じくらいの大きさの分厚いものにサンドイッチされている、こっちの世界でいうところのいわゆる「本」だ。そうだ!本が読めれば私がペットじゃないってことを証明できるかも!私は布団からがばと跳ね起きると、部屋の真ん中に設えられた丸机に置いてある本と思われるものを手に取る。本は丁寧な装飾にと、思い切ってページを開いた。


「うわ……なにこれ……。」


何と形容したらいいのだろう、例えるなら授業中、自分は眠気に抗いながら黒板の内容をノートに取ってるつもりではいるんだけど実は寝ちゃってて、それでも必死に板書してるんだけど全然まともなこと書けてなくって、後で見返した時に「なにこれ」ってなる、あのタイプの文字が行儀よく陳列されていた。しかもあっちとは違ってこっちはもともとの文字を類推することもできないし、というかそもそももともとの文字がたぶんこんなのだし、まあつまり読めない。「いーさたぅ」とか「あぁ」とかひらがなで書いてあるわけでもないし、そもそも何について書かれてあるのかもわからない。結論として、ホントに何にもわからない。完全にお手上げ。


「くぅ……こんなはずでは……。」


私が困り果てていると、


「ほんですか?」


こちらを心配するように見上げるラエラちゃんの姿が。相変わらずなんて言ってるか分からないけど。……いや、これはもしかすると何かに使えるかも……?私は本を指さしてみる。


「ほん……?」


よし!聞き取れた!「のぉ」って言ってる!「本」は「のぉ」だ!


私が何かを指さす。

ラエラちゃんが教えてくれる。

私はそれを聞いて発音できるようにする。


完璧!こうすれば私もこの世界でいろいろ必要知識を学べて、いろんなことができるかもしれない!まあそれにはラエラちゃんが必要不可欠なんだけど……。それになんだかラエラちゃんの優しさにただ乗りしてる感じがしてイヤだな……。ナイスアイデアかと思ったけどナイスじゃなかった。やっぱり一から学習しないとダメなのかな……。結局どの世界でも勉強しなきゃダメなのかぁ。ひっそりがっつり落胆している私の服の裾が引っ張られる。顔をそちらの方に向けると、別の本を手にしたラエラちゃんの姿が。


「そのほんはおねちゃんのむずかしいほんなので……こっちのほんをよみましょう。」


おぉ、2回出てきた。「のぉ」が2回出てきた。それ以外はホントにわかんなかったけど、まあたぶん一緒に読もう、みたいな感じなのかな?読み聞かせしてくれるなんて優しいなぁ、なんてのほほんとしていると、細長い円筒状の何かと小さな直方体の何かもついでに出てくる。おや?このセットは最近までいやでもお世話になってたアレなんじゃないか?ラエラちゃんは細長い方の何かを本の余白に近づけさらさらとその表面を滑らせる。白い大地に黒の道が刻まれて……ってやっぱり鉛筆だ!とするとあっちは消しゴム的なサムシングだろうか。この2点セットに本……これはもしかして。


「このほんでいっしょにことばをまなびましょう!」

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