第3話『わかりあうために』

ふかふかベッドの上で、私とうさ耳少女は向き合っていた。ちらりと覗った彼女の顔はまるでゆでダコみたいに真っ赤になっていたし、私も顔から火が出ているみたいに熱いからたぶんお互いに照れ合ってるんだと思う。さっきまで抱き合っていた……というと語弊がすごいけど、なんだか気恥ずかしくて顔をまともに見られない。


「縺ゅ?√≠縺ョ窶ヲ窶ヲ縲」


彼女の声にふと顔をあげる。まだ顔を赤らめているけど、それでも彼女はしっかりとこちらを見つめている。と、突然彼女は自分のほうに指を指し示すと、


「繧上◆縺励?」


今回は短かったのでぎりぎり聞き取れたけど、なんか日本語の発音にすると「いーさたぅ」みたいな、やっぱり意味の通らない単語。それでも、


「繧上◆縺励?」


もう一度、今度はさっきより少し長い時間をかけて話してくれる。


「繧上◆縺励?」


「!」


その時、私に電流走る。この「いーさたぅ」なるものはたぶん私たちの世界でいうところの一人称、つまり「私」とか「ぼく」とか「余」とかそういった類の言葉なんじゃなかろうか。私は自分のほうを指さして、


「い、いーさたぅ。」


と言ってみる。すると彼女はぱあっと顔を輝かせると、おずおずといった様子で私に抱き付いてきた。なんで!?でも露骨に否定されてるわけではないし、これはもしかして「正解」ということでは?頭の片隅でそんなことを考える。……それにしても。


「縺帙>縺九>縺ァ縺呻シ」


またなにか言ったようだけど、今の私はどきどきしてそれどころではない。どうして……?おんなじ女の子なのに……?なんでこんなに心が高鳴っちゃうんだろう?そんな私の心のうちの葛藤を知ってか知らずか、うさ耳ちゃんはぎゅっと抱きすくめていた腕を緩めて私から離れていく。そして得意顔でもう一度自分のほうを指さすと、今度は、


「繧上◆縺励??縺ッ縲?繧「繝ォ繝?ぅ繧「繝サ繝輔か繝シ繝槭Ν繝上え繝医??縺ァ縺吶?」


急な長文で語りかけてくる。ぎりぎりさっきの「いーさたぅ」は聞き取れたけど、そのあとの未知の言語のポロロッカまでは堰き止めきれない。が、ここにきて否定を表す語彙を持ち合わせていなかったことに気付く。「わからない」ってどうやって伝えればいいんだろう……。


「え、ええと……。」


めっちゃ期待に満ちた目で見てくるうさ耳ちゃん。……困った。困ったことを伝えるために、困った顔をしてみる。


「!」


どうやら気づいてくれたらしく、


「縺ゅ▲窶ヲ窶ヲ縺斐a繧薙↑縺輔>縲」


申し訳なさそうな表情を浮かべている。しばらくして、もう一度自分を指さしながら、また彼女が言葉を紡ぎ始める。今度はまるで幼い子供に食事させてあげる時みたいに、一口大、細かく区切って話しかけてくれる。やさしいなぁ。


「繧上◆縺」


これはさっきの「いーさたぅ」っぽいから「私」とかそういうことだと思う。「私」から始まることといえば……自己紹介?これはうさ耳ちゃんが自己紹介をしてくれているのかな?


「縺ッ」


もうわかんない。ごめん……私の理解力がないばっかりに……。発音的には「あぁ」みたいな感じだけど……。


「繧「繝ォ繝?ぅ繧「繝サ繝輔か繝シ繝槭Ν繝上え繝」


ながぁい。急速に過ぎ去っていく言葉を頑張って引きとどめて反芻してみる。


「ちゅ……あ……らも……らえっら……?」


ラエラちゃん……?あなたはラエラちゃんなの……?そもそも自己紹介しているかどうかも分からないんだけど、もしこの名前であってるなら、私とラエラちゃん?とのコミュニケーションにおいて大きな一歩かもしれない。


「縺ァ縺吶?」


あぁまだあった。ラエラちゃんに気を取られて聞き逃してしまった……でもあんまり長くなかったし、たぶんさっきの「あぁ」みたいなのだろう……たぶん。短かったし大事じゃないといいな。中学校の英語でも”a”とか”the”とか飛ばしてもスピーキングだったら許されるし。私はラエラちゃん?に向き直る。


「え、えっと……ラエラ、ちゃん……?」


呼びかけてみると、ラエラちゃんはラエラちゃんだったらしく顔に満面の笑顔を咲かせるとまた抱き付いてきた。やたらとスキンシップの多いラエラちゃん。優しい笑顔で頭とかよしよしされてる。嬉しい。……頭よしよし?あれ?もしかしてこれ「飼い犬が芸を覚えてくれて嬉しい」みたいな感じ?私ペット感覚で拾われたの!?

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