第13話 優しい心
サラの作業の間、俺は店の中で陳列する武器の数々に目を奪われていた。
いかにも勇者が持ってそうなハンパなくかっこいい剣に無骨で巨大な戦斧、それからいろんな形の盾などなど。
「もしかしてこの武器、みんなサラちゃんが作ったのー?」
「ボクが作ったのもあるっすけど、大体はボクのパパが昔作ったものっす。パパはここらでも有名な武器職人だったっすからね~」
クラリスの問いに鼻高々で膨らみかけの胸を張るサラ。
サラの父親ってすげえんだな……、だってこんなすごそうな武器を作るって言うんだからさ。
しばらく待っているうち、サラが作業を終えたようだ。
「お待たせっす! まずこちらがアンナさんの剣っす、ボクのメンテナンスでまた切れ味も鋭くなったはずっすよ!」
「いつも助かるよ」
そう言ってアンナがかざした剣は、いつにも増して刃が光り輝いているように見えて。
「そしてこちらがダイナきゅんの防具っす! とりあえず着けてみるっすか?」
「そうだね。ダイナ、ちょっといい?」
「クカッ」
クラリスに背中を軽くなでられたところで、俺はサラの成すがままに防具を着けられる。
「じゃじゃーん! これがボクお手製の防具っす! ……本音を言うとドラゴンのための防具は初めてなんすけど、どうっすかね?」
「クカァ……!」
本人は初めてと言ってるけど、新しく作ってもらった防具はまるで身体の一部のように馴染んでいた。
後頭部を覆う角付き兜にきれいな鱗の飾りが腰辺りにあしらわれた革製の鎧が、なんともいかしてるぜ。
「クカッ、クケケッ!」
「うんうん、喜んでいただけて何よりっす!」
「ダイナの考えていることが分かるの~!?」
目を丸くするクラリスに、サラはニカッと笑って答える。
「同じドラゴンをルーツに持つ種族のことっすからね、言葉は通じなくてもなんとなく分かるっす。ね~」
ニコニコのサラに抱かれて、俺はなんだかこそばゆい感覚を覚えた。
同じドラゴンルーツって言ってたけど、確かにこの娘にはなんか親近感がわくかも。
「それじゃあまたのご来店お待ちしてるっす~! ダイナきゅんもまったね~!」
ブンブンと手を振るサラに見送られて、俺たちは店を後にした。
「サラちゃんも可愛いし、また来たくなるお店だったねダイナ」
「クカッ」
ニコニコするクラリスの言葉に、俺はうなづいて同意する。
確かにあそこは男心がくすぐられる店だったな。サラもなんか感じがいい女の子だし。
「ダイナの防具も作ってもらえたし、次はどこ行く? アンナちゃん」
「そうだなあ。私もこれ以上は特に用事もないし、クラリスに任せるよ」
「そっか。じゃあ……」
「――ひゃあっ!?」
ふとどこからか幼げな女の子の悲鳴が俺の耳に届く。
「クカッ?」
それと同時にクラリスとアンナの二人も、尖ったエルフ耳をピクピクと動かして注意を高めている。
「ねえアンナちゃん、今の聞こえた?」
「ああ。何やらただならない様子に思えるが……クラリス!? どこへ行くつもりだ!」
アンナの呼び止めにも構わず、クラリスは声のした方に走っていった。
待ってくれよ~!
慌てて俺もこの足で追いかけると、路地裏で猫みたいな耳をした小さな女の子が柄の悪いモヒカン頭の男たち三人組に絡まれているのが目に写った。
うわあ……、漫画とかでありがちなチンピラだ……。
実際に見るのは初めてだけど、本当に小物臭いなあ。
「なあ嬢ちゃん、俺たちにぶつかっといてごめんなさいも言えねえのかあ?」
「言えないでやんすかあ?」
「兄貴を怒らせたらタダではすまねえでっせ?」
「あ、あ、あ……!」
金髪モヒカンの男たちにメンチを切られて、猫耳の女の子は今にも泣き出しそう。
そこへ女の子を庇うように躍り出たのはクラリスだった。
「やめなさい! この子怖がってるでしょ!?」
「あぁん? なんだてめえは」
「うっ」
モヒカン男の気迫にクラリスは気圧されてしまう。
「よく見たらエルフの娘じゃねえか。しかもいい身体してやがるぜ」
ジュルりと舌なめずりしてクラリスの身体――主に豊満なおっぱい――をジロジロ見るモヒカン男。
子分と思われる男二人もゲヘヘと下品な笑い声をあげている。
このままじゃ女の子だけじゃなくてクラリスまで危ない!
「クカァ!」
そう判断するや否や俺はリーダー格のモヒカン男の手に噛みついた。
「痛ってえええ!? 何しやがる!!」
「ダイナ!?」
目を丸くするクラリスを尻目に、俺は男の手に食らいつく力を強める。
「痛たたた! 何だこいつはあ!?」
「こいつー!」
仲間の一人が俺を引き剥がそうとした時だった、背後でクラリスが魔法で茨の蔓を出していた。
「もういい加減にして……!」
「ひ、ひいっ!?」
「この女、おいらたちに魔法を使う気でやんす!?」
うねうねとうごめく魔法の茨に恐れを成したのか、モヒカン男たちは一目散に逃げていく。
もちろん俺もそのタイミングで口を離してるぜ。
「大丈夫? 怪我はない?」
しゃがんで目線を下げるクラリスの確認に、猫耳の女の子はこくんとうなづく。
リナ・フェリス
【猫獣人】
リナちゃんっていうのか、どうやら何事もなかったみたいだな。
するとそこへアンナが遅れて駆けつけてきた。
「クラリス! 探したぞ!」
「あ、アンナちゃん」
「む、その娘は誰だ?」
「あのねアンナちゃん、実はね――」
クラリスが簡単に説明をすると、アンナはため息混じりにこんなことを漏らす。
「全くお前はいつもお人好しで困る」
「あはは……」
乾いた風に笑うクラリスに口を挟んだのは、助けたリナちゃんだった。
「あ、あの……っ。助けてくれて……ありがとう……」
「ううん。困ってる人がいたらお互い様だよ」
たどたどしくお礼を言うリナちゃんの頭を、クラリスが優しくなでてあげる。
「それにお礼ならこの子、ダイナにも言ってあげてね」
「うん。ありがとう、小さなドラゴンさん」
「クケッ」
リナちゃんの笑顔に俺も清々しい気分になった。
人助けもいいもんだよな。
「お名前何て言うの?」
「……リナ」
「リナちゃんっていうんだね。どうしてこんなところに?」
「あのね、お母さんと一緒にお買い物してたんだけどね、途中ではぐれちゃったの」
そう説明するリナちゃんはどこか心細そうで。
そりゃあこんな小さい女の子がこの広い町で迷子になったら不安で仕方ないよな……。
するとそれを聞いたクラリスがすくっと立ち上がり、大きな胸を叩いて宣言した。
「それじゃあお姉ちゃんが一緒にリナちゃんのお母さんを探してあげるよ!」
「え、いいの……?」
「うん。ここまで来たら放っとけないよー」
「あり、がとう」
なんか後ろでアンナがまたため息をついてるけど、リナちゃんのお母さんを探すことに。
「それじゃあ……どうしよう?」
「あてもないのに引き受けたのかお前は」
「だってえ~!」
これじゃあアンナの気苦労も絶えなそうだぜ……。
「とりあえず広場に行ってみるのはどうだ? あそこなら人もたくさん集まるから、母親もいるかも知れない」
「そっか~! さすがアンナちゃんだね!」
「全く……」
アンナの提案で広場に行ってみると、早速猫耳な女の人がこっちに向かってくる。
「リナ~!」
「お母さーん!」
お互いに抱き合うのを見て、俺は二人が親子だと確信した。
「もしかしてあなたたちがリナを?」
「はい。すぐに見つかってよかったです」
ニッコリと笑みを浮かべるクラリスに、リナちゃんのお母さんは頭を深く下げて礼を言う。
「うちの子をありがとうございました~!」
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」
お母さんと手を繋いで帰っていくリナちゃんが、振り向いて手を振ってくれた。
「優しいお姉ちゃんにちっちゃいドラゴンさーん! ありがとう~!」
クラリスの優しい心が、小さな女の子の困り事をすぐに解決したのであった。
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