生徒会ラプソディー

乃々沢亮

1限目 4月/死のD組

 告白をするなら直接か、はたまた電話か手紙を用いるしかなかった時代。

 キャンディーズが解散し山口百恵が引退したと同時に松田聖子がデビューしてその直後にピンクレディーが解散した時代。

 日本の女学生たちの多くが『かまちんカット』(松田聖子の本名が蒲池かまち法子であったため、『聖子ちゃんカット』を揶揄的にそう呼んだ)になり、後ろ姿では個体が判別しにくかった時代。

 不良男子は極端に長いか短いかの学ランにダボダボのズボン、同女子は裾を引き摺らんばかりのスカートにほっそい眉。芯を抜いたぺっしゃんこの革鞄の取っ手に、赤(ケンカ売ります)だの白(ケンカ買います)だのテープを巻いてケンカの売買を成立させていた時代。

 サザンオールスターズの登場で日本のロックシーンが激震しロックは身近になり、同時にニューミュージックも台頭してきた時代。

 これはそんな時代の物語だ。

 時代背景を説明するのにずいぶんな字数を費やしてしまった。しかも若い人には理解できなかったろうと思う。すまないことだ。ざっくり半世紀くらい前のことだと理解していただければよろしいかと思う。


 片田舎でも都会でもない海べりの街がこの物語の舞台になる。人口約4万人くらいの東京のベットタウンで、これといった産業もないがそこそこ長閑で平和な街だ。

 僕はそこそこの家庭に生まれそこそこの頭脳とそこそこの運動神経を持ち合わせていたが、そこそこの私立中学の受験には見事にスベって公立中学に入学した。

 その頃の日本では『荒れる学校』が流行っていてウチの中学も例外ではなかった。なにしろ東の隣町には日本有数のすさんだ中学生が集う中学があったし、南には清廉されていない無粋で無鉄砲な中学生が集う中学もあった。

 となればウチだって負けてはいられない。威勢と面子を守るためだけの無益な抗争が(校外または郊外で)繰り広げられることになる。

 攻撃は最大の防御なり。ウチの不良たちはよく近隣の荒んだ風体の青少年たち(=霊長目ヒト科ヒト属ツッパリ種。中学生に限定せず)に個人戦を仕掛けていた(総力戦では敵わないため)。

 ところで僕は不良ではなかった。不良とそうじゃない生徒のハイブリットだった。学校内では不良と呼ばれる友達が多かったが、学校から一歩出ると一緒にはいなかった。だからケンカに連れて行かれたこともないし、夜な夜な遊び廻るのに付き合わされたこともない。

 僕はなぜかわからないが彼らから一目置かれていたフシがある。

 先生からも「お前は特異な存在だ」と言われた。

 しかしその特異さが災いして、僕は3年生のクラス替えで不良たちが大集結した(一括管理した方がラクだという先生たちの管理上の施策だと思われる)死のD組に入れられた。先生からは「頼むネ」と耳打ちされる始末だ。


 上述したとおり僕は不良ではない。むしろ頑張って進学校に入り、中学受験失敗の汚名をすすぎたいと願っていたくらいにマジメな人間だ。

 中学校生活のラストイヤー。なのに、僕はある騒動に巻き込まれ、やがてなぜか自走をし始め爆走に至ることとなるのだった。

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