モテるために【熱血】を捧げて転生した最強の冒険者、二度目の人生は【クール】にモテたい

純情あっぷ

赤髪の美女との出会い。そして地獄を見る

第1話 モテるためには転生するべし。

 みなさん、こんにちは。私の名前はショード・バーン。

 突然も突然ですが、世の男性諸君に質問です。


 ―――モテたことは、ありますか?


 恐らく大多数の人間が『ノー!』と、一部のモテ上流階級の男に対して、怒りの感情を露わにするでしょう。人生には三度のモテ期が到来する、という言葉を聞いたこともありますが、あんなの幻想です。モテない奴は一生モテないです。

 地べたを這いずり、泥水を啜り、見目麗しい女性たちが、モテ男たちに群がり集う姿を、歯を食いしばって見ているしかないんです。


 ですが、世の中にはその残酷な事実にすら気付かない愚かな人間もいるんです。

 それが俺です。いつかはモテる、必ずモテ期が来る、そう信じて特級冒険者まで上り詰めた、馬鹿な男です。

 

 そんな世の中に翻弄され続けた中年の男が最後に選ぶ手段とは、一体なんだと思いますか?



***



「―――カァッ!!」

「あら、ようやくお目覚めになったのですね。先程から四十過ぎた中年男性の口からは聞きたくないような言葉ばかりが、呪文のように垂れ流されていたので困っていたんです」

 

 何だここは……状況は分からないが、どうやら俺は眠っていたようだ。訳の分からないまま上半身を起こすと、そこには純白の衣装に身を包んだ、今まで見たこともないような絶世の美女がこちらを見下ろしている。


「一体、ここは……」


 目の前の美女から視線を外し、周囲を見渡す。

 どこかの部屋、というわけでもないらしい。壁もなければ扉もない。真っ暗な空間だが、何故か視界だけは明瞭である。


(確か俺は……そうだ! アプロのダンジョンを踏破して、それから――――)


 寝ぼけている脳みそをフル回転させて、自分が意識を失う直前まで何をしていたのかを思い出す。しかし、


(くそっ、全く思い出せない。それともなんだ。俺は死んでしまったのか? だとしたらこの金髪金眼美女は俺のことを迎えに来た天使? いや、この純白の衣装を見る限り、死後の世界における俺の花嫁か? あり得るぞ! あれだけ冒険者として人助けをしてきたんだ。このくらいの報いがあったって不思議ではない!)


「因みにですが、私は天使でもなければあなたの花嫁でもありません。大変恐縮ですが、身の程を弁えていただけると幸いです」

「も、申し訳ない!」


 金髪の美女が冷めた目でこちらを見下ろす。


(しまった! どうやら無意識に声が出ていたようだ。女性の前でひとりごちるとは何たる不覚! これは紳士にあるまじき行為。何とか挽回しなくては……)


「いえ、あなたはひとりごちってなどいないので安心してください。加えてこの私の目の前で、尚且つでえっちな妄想をしている時点で、どうあがいても紳士を気取ることは出来ないので更に安心しちゃってください」


 感情の機微を感じさせない冷淡な物言いに、俺の心は徐々に平静を取り戻す。

 そして美女の言葉通り、俺はどうやらすっぽんぽんらしい。


(なるほど、全く場所が特定できない謎の空間に裸で美女と二人きり。よし、まずは裸である自分を受け入れるんだ。そもそも人間はこの世に生れ落ちた瞬間、衣服など着用していない。そう、俺はあるべき姿に戻っただけ。試しにオギャーと泣いてみるか?)


 四つん這いの姿勢で仰向けになったところで、美女が再び口を開いた。


「あの、ほんとにやめてもらってもいいですか? 中年の赤ちゃんプレイを間近で見せられる女神の気持ちを考えたことはあるんですか?」

「女神……?」

「えぇ、モノホンですよ。モノホンの女神〝アプロ〟ですよ。ショード・バーンさん」

「モノホンの女神アプロ……」


 微動だにしない表情をこちらに向けながら、自称女神アプロが「いぇーい」と、ピースサインを作っている。

 

(まさか……この絶世の美女が慈愛の女神〝アプロ〟だと? アプロ教と言えば、彼女を唯一神として崇め奉る一神教であり、世界中でも広く信仰されている宗教のはずだ。確かに先程からこちらの心を見透かしたような発言が多いような……それに初めて会ったはずなのにどうして俺の名前を知っているんだ。それも女神の力というわけか?)


 疑えば疑うほど、彼女が女神であるという確信が強まっていく。

 しかし何だろう。どうも威厳というか、オーラがないような。女神があんなセンスのないポーズをするのだろうか。


「ふむ、まだ状況を把握しきれていないといった表情ですね。もしかして自分が何故ここにいるのかお分かりでないと?」

「す、すまない……確信を持てるのは俺が全裸で正座をしているということだけだ」

「全く、仕方ないですね」


 自称女神が大きくため息をつくと、何もないところから数枚の用紙が突如現れた。それを手に取ると、彼女はそこに記された内容を機械的に読み上げた。


「えーっと、ショード・バーン 年齢は四十歳。身長が二メートルに、体重は百九十キロ……なんだか熊さんみたいですね。職業は特級冒険者で、その人柄の良さで民衆からは多くの支持を集めていた。そして未だかつて踏破されていなかった、ダンジョン都市【アプロ】のダンジョンを単独で制覇。その後ダンジョンのクリア報酬を使って転生することを決意。そして今に至る。こんな感じでどうでしょう」

「そ、そうだった。俺は……」


 用紙に書かれた内容を読み上げた女神は、用無しと言わんばかりにそれを床へとポイっと放り投げた。

 それと同時に、彼女の言葉によって脳内で堰き止められていた情報の波が一気に押し寄せてくる。


「アプロのダンジョンをやっとの思いで攻略して、そのダンジョン報酬を受け取った俺は……」


 何のために特級冒険者になったのか、何のためにたくさんの人助けをしてきたのか、そして何のために未踏破ダンジョンを死に物狂いで攻略したのか。その末に俺は【熱血】を犠牲にして――――


「モテるために転生したこと忘れてたぁあぁぁぁああああ!!!!!!」


 

 これは人生をモテることに費やした男が、次の人生でちょっぴりモテたりモテなかったりするお話。

 


 



 











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