第10話 恋心と嫌な報告

 (はぁ~……次、キサラギさんに会ったらどんな顔すればいいの? あれって……そうよね? そういう意味よね? んーー! 頭がグルグルするよー! 待てよ? メリーさんに……かまかけてみる? 反応で何か分かるんじゃない?)


 ――か。 陛下」


 「え? あ! ごめんごめん、メリーさん」


 メリーに話しかけられているのに気付き、歩みを止める。


 「マリ陛下、大丈夫ですか? 執務室は大分前に通り過ぎましたが?」


 マリは周囲を見渡し、自身がどれだけ思考に耽っていたか気付いた。


 「え? あれ~? 本当だね、ごめんなさい。 戻ろ戻ろー!」


 笑って誤魔化したマリは、メリーを連れて来た廊下を戻る。


 「ねぇ、メリーさん。キサラギさんの事で聞いてもいいかな?」


 「っ!? え、あの……その……どんな事でしょうか?」


 キサラギの名前を出しただけで、メリーは明かにキョドる。いつものスーパーメイドの面影は無かった。


 (えぇぇぇ!? 分かりやす過ぎじゃない?!)


 「いや……昨日の夜の話しなんだけ――――忘れましょうマリ様!! アレは夢です! お酒のせいで見た夢です! 忘れて下さいませ!」


 マリが話している途中にメリーは遮り、必死に訴える。


 (あ、これ確定なんだ。 やっぱり、昨日のアレは愛の告白なんだ! やばい! 死ぬ! 恥ずかしすぎて逆に草)


 確信したマリは顔を真っ赤にしながら、何とか言い訳を絞り出す。


 「え? キサラギさんが捕まった罪が最初にメリーさんから聞いた内容と違うなって……思ったから聞こうと思っただけだよ?」 


 「え?! あ~……えっと、そう、でしたっけ? あ!! アレはですね、捕まえる時の方便でして……実際に投獄する際に言い渡された罪が最初にお話しした、亜人の分際で博識なのが腹立つ罪です」


 「いやいや、普通に言い掛かりにも程があるよね~」


 「そうですね……今思っても、アレは流石に無いなと私も思ってましたから」


 2人で苦笑いを浮かべながら、執務室へと入る。


 「さて、お喋りは終わり! 仕事しますか~!」


 (うっっわ、気まず! バレたかな? 大丈夫かな? でも、どうしよー! ダメダメ、今日は亜人を解放出来るかどうかの瀬戸際! 私の事なんて二の次!)


 「はい。 まず、此方が昨日の申し付けられた内容の報告です」


 メリーさんに渡された羊皮紙を見る。


 「はぁ……やっぱりか。 騎士団長から報告は?」


 「まだですが、動きはあったと兵士から伝令が早朝にございました」


 「ん。 なら平気か……侯爵リアンさんからは?」


 首を横に振るメリーさんを見て、マリはまたタメ息を吐く。


 「はぁ~……メリーさん、リアンさんの子供の調査しといて。 最悪、取り潰しね」


 「……かしこまりました」


 それから暫く羊皮紙の書類にサインする事、数刻。


 執務室をノックする音がマリの心臓を跳ねさせる。


 コンコンコン


 (まさかキサラギさん!? 待って、まだ気持ちの整理も何も付いてないんですけど?!)


 「メ、メリーさん、お願ぃっ!」


 変に高い声が出てしまい、更にマリは焦る。


 ガチャ……


 「陛下、騎士団長が報告したいと来ております」


 (……ほっ。 良かったぁ……いや、騎士団長が来たってことは良くないんだけどね)


 「入室を許可します。 此処へ」


 「陛下が許可しました、騎士団長ボルガス入りなさい」


 扉が開くと、漆黒の鎧に身を包んだ騎士団長が入って来る。


 鎧が、ガチャガチャと鳴る辺りかなりの重量なのだろう。


 「失礼します、女王陛下。 任務完了の報告に参上致しました」


 マリの前で跪くのは、赤髪の老騎士だ。


 所作の一つ一つから、猛者の気配をド素人のマリでもひしひしと感じていた。


 「ボルガス、早朝から御苦労様でした。 では、報告を」


 「はっ!! やはり、件の商人達は奴隷にしていた亜人達をゴルメディア帝国へと送ろうとしてとおりました。 解放せずに、売り飛ばそうとしていた様です……」


 (かぁ~……だよね。 労働力を手放せって言われたら、そりゃ売り飛ばしてお金に換えようとするよね)


 マリはこめかみを押さえて、頭痛を耐える。


 「被害は?」


 「我が騎士団は被害無し、亜人達にも被害はございません! 現在、騎士団の訓練場にて保護しております! ただ……」


 (溜めるな溜めるな! もうこれ以上はお腹いっぱいよ?)


 「ただ……何ですか?」


 「護衛をしていた傭兵達と、商人の息子達は激しい抵抗をしてきた為……全て殺害と相成りました」


 (はぁ……朝から最悪な気分。 確か、商人達の息子って……15か其処らの子供だったよね……。リアンさんがもっとしっかり締め上げてたら、こんな事にならなかったのに……)


 「分かりました。 騎士団の皆に労いの褒美をお願いメリー。 では、下がりなさいボルガス」


 「有り難きお言葉……失礼致します」


 ボルガスが立ち上がり、執務室を退出する。 完全に退出したのを確認したマリは、 女王モードを解除し机に突っ伏す。


 「…………ぷはー、疲れたぁー! メリーさん、褒美の手配お願いね。 後、お酒頂戴~……精神が持たないよー!」


 「ご立派な態度でしたよ、マリ陛下。 手配はお任せを……ですが、最近お酒が過ぎていらっしゃいませんか?」


 「うー……飲めないなら、頑張れないよ~!」


 机に突っ伏すワガママ女王に、メリーはため息を吐きながらワインをグラスに注ぐ。


 「どうぞ、陛下」


 目の前に置かれたワイングラスにマリは飛び付き、くぴくぴとアルコールを身体に補充する。


 「ありがとぉー! メリーさん、大好き! でも、どこからワインボトルとグラス出したの? フワフワのメイドさんのスカートの中から出てきたよね?」


 「ふふ、メイドの秘密でございます」


 口に指を当て、しーっとする仕草は同性で無ければイチコロの破壊力だっただろう。


 「ひくっ、よーし! 気合いも入った! メリーさん、リアンさん達の元に向かいます。 あ、リアンさんの子供の事って分かった?」


 立ち上がったマリは、首を傾げながらスーパーメイドに聞く。


 「少々お待ちを……来ましたね」


 執務室の小窓を開けると、小鳥が入ってきた。


 小鳥の足には、布が巻かれている。


 「お待たせ致しました。 侯爵リアンの家族構成、年齢、性別が判明しました」


 そして、布を取られた小鳥は小窓から出ていく。


 その光景を、マリは目を見開き空いた口が塞がらなかった。


 「ねぇ、メリーさん。 本当に何者?」


 「ふふ、秘密でございます。 陛下」


 そう笑うスーパーメイドに、マリは苦笑いを浮かべるのであった。

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