第9話 深酒の代償

 ルーデウスと喧嘩した翌日の朝。


 昨晩はキサラギと深酒したせいで、最悪の目覚めだった。


 「痛たた……こりゃ、二日酔いですな。 水……水を」


 頭を押さえながら、ベットを抜け出す。


 マリが机の上に置かれていた水を飲みながらベットを見ると、其処には昨日助けた亜人の兄妹がすやすやと寝ている。


 「ふふ、可愛い顔で寝てるね。 これは……朝チュンってヤツでは?」


 朝チュンも何も、泥酔したマリに無理矢理ベットに連れ込まれ添い寝していただけである。


 妹のミケルは素直にベットに入ったが、兄のルキが顔を真っ赤にして抵抗するので中々に手こずった事をマリは思い出していた。


 「よし! 直ぐに家族の元へ返してあげるからね!」


 二日酔いを飛ばす為、水を飲み干し気合いを入れる。


 「メリーさん、いる?」


 「はい、マリ陛下。 御身の側に」 


 扉越しに話し掛けると、直ぐ様返事が返ってくる。


 昨日遅くまで酌をし、現在の時刻は早朝の筈だ。


 (メリーさんって、いつ休んでるんだろ??)


 マリの疑問は尽きないが、とりあえずすべき事を始める。


 「着替えが終わったら、昨日お願いした事の報告を頂戴。 執務室で打ち合わせしてから、リアンの元に行きます」


 「かしこまりました。 それでは、失礼致します」


 メリーとメイド達が部屋へと入り、テキパキとマリの着替えを終わらす。


 マリは部屋を出る前に、兄妹の寝顔を見て微笑む。


 「2人が起きたら、美味しいご飯食べさせてあげて」


 「「「仰せのままに、女王陛下」」」


 メイド達にお願いをし、マリは執務室へと向かった。


 ◆◇◆


 マリは、執務室に向かいながら昨日キサラギと話していた事を思い出す。


 ――――え? じゃあ、キサラギさんはエルフの国に帰る途中に捕まったの?」


 「あはは、そうさ我が主。 こう見えて私は長生きだが……あの時は肝が冷えたよ。 世界を旅し、帰ろうとこの国を通っていたら……突然そこのメリーに襲われてね。 メイド服なのにめちゃくちゃ強かったよ、あはは!」


 キサラギは昔話を酒の肴にしてくれていた。


 「あれは……前女王陛下のご命令でしたから。 貴方が何もしてないのは……ちゃんと分かってましたよ?」


 「ほえー、メリーさん凄いんだね。ひくっ」


 感心するマリに、メリーは頬を赤く染める。


 「それで、数年? ぐらいかな。 あの牢獄にずっと閉じ込められてたのさ」


 「ねぇ、メリーさん。 ひくっ、何で母はキサラギさんを捕らえて閉じ込めたの?」


 「そ、それは……」


 良い淀むメリーを見ながらキサラギはニヤニヤしていた。


 「なんて言ってたっけ。 確か……老いても見た目も変わらない不遜な生き物だから……だっけ?」


 「そうですね……私もその様に記憶しております」


 苦笑いするメリーを見るキサラギは、友をからかう瞳をしていた。


 「はぁ!? うっわ、本当に母って、ひくっ、最低なサイコパスだったのね」


 「マ、マリ陛下! その様に仰ってはいけません」


 「あはははは! 実の娘にそう言われちゃ、あの女王様も立つ瀬が無いね」


 笑い合いながら、酒を飲む。


 キサラギが持参した、非常に度数の高い酒だったが、最近酒を飲み慣れたマリには丁度良い度数だ。


 暫し飲んだ後、ふとマリがキサラギに聞く。


 「ねぇ、キサラギさん。 やっぱり……国に帰りたい?」


 キサラギは、頬を赤く染め長い耳をピクピクと動かしながら呟く。


 「いや……今は帰りたくないよ。 だって、此処には君がいるから」


 自分でも何を言ったか理解していなかったのだろう。


 深酒で意識が朦朧としているのか、頭がふらふらと揺れている。


 「ひくっ……!? 」 「キサラギ!?」


 突然のキサラギの告白にマリの顔は真っ赤に染まり、メリーは驚く。


 「ん……? あ、いや……あれ? 私、今なんと言った?」


 キサラギが自分の失態に気付いた瞬間、執務室の部屋が開かれジャックが入ってきた。


 「マリ陛下失礼します。 税務管殿は少し酒が過ぎた様です。 今日はもうお開きとしましょう! さぁ! 早く! さっさと歩け!!」


 「え? あ、ジャック殿酷いよ。 年上を敬いたまえ~」


 足下ふらふらのキサラギをジャックが押し、部屋から出ていった。


 「あ~……ひくっ、じゃあ私は寝よっかな~」


 「はい、先程の事は忘れて下さいませ」


 「う~……うん、お休みなさい」


 その後の事はよく覚えていない。

 ルキとミケルをベットに連れ込んだ事は少し覚えていた。


 ◆◇◆


 昨晩の事を思い出し、1人悶える。


 (ん~……やっぱり忘れられないよ~!)


 マリの頬は、酒が抜けても赤く染まり火照っていた。

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