転生したのは死が間近の女王様!? ~超可愛い弟が王になれるよう平凡な女王が抗う奮闘記~

秋刀魚妹子

第1話 プロローグ

 龕灯 真理(がんどう まり) は、女性として日本で生まれ、平凡な人生を送っていた。


 容姿は美しくも無く、醜くも無い。

 マリは自分の顔が嫌いだった。


 内気な性格のせいで、友達も恋人も出来た記憶は無い。


 それでも、マリの人生は幸せだった。


 「何故なら推しが元気をくれるから!」


 家に引きこもり、幼少期からオタク街道まっしぐらだったマリは様々な小説を読み漁り、ひたすら知識を蓄えていた。


 そして、オタ活をしながら幸せな日々を送っていたある日……会社の飲み会で全てを失った。


 「す、すみません部長。 私はお酒は……」 


 「おいおいマリちゃん。 飲んで無いじゃないの! ひくっ、ダメだよぉ周りが白けちゃうでしょ~? ひくっ」


 「ちょっ!? まっ……ぐびぐびぐびぐび」


 ゴクゴクゴクゴクゴクゴク


 禿げ頭のパワハラ上司に無理矢理酒を飲まされ、マリの意識は混濁し理性は何処かに飛んでいってしまった。


 「なぁんだ、飲めるじゃないのぉ~!」


 「うぅぅるさぁいっ! この禿げ親父! 飲めないって断ってる奴に酒を飲ますな! 馬鹿ですか? 私が急性アル中で倒れたらどうするんですか? 責任取れますか? 取れねぇだろうが! この禿げ!」


 顔が真っ赤になり理性が吹き飛んだマリは、普段抑えていた想いが止まらなかった。


 「な、ななな! なんだ君は! し、失礼だろ!」


 「なぁにが、失礼だ! 失礼なのは部長の方でしょぉが! ひくっ、それに……普段からされてる行い法律違反だらけですよねぇ? パワハラ、セクハラ、マタハラ、部下への飲酒強要! 上げたらきりがない! ひくっ、なにか? 全部上に報告して、クビにしてもらいましょうかぁ?」


 部長は酔いが冷め、顔を青ざめて土下座で謝り始めた。


 「すまん、許してくれ! この通りだ! すまん、すまん!」


 マリは部長の頭を鷲掴みにし、周囲を見渡す。


 「あんたらも止めなさいよ、同僚が無理矢理酒を飲まされてんでしょ?! そういう所だぞ男共! ひくっ、気分が悪いので私は帰ります」


 部長はその場で項垂れてしまったが、マリは無視して居酒屋を出る。


 マリは初めての泥酔で、上司をフルボッコにしてしまったのであった。 


 「ったく、これだから強制参加の飲み会は嫌いなんですよ! ひくっ、早くお家に帰って推しを堪能するんだ~♪ ランランラ~ン♪ ひくっ、おろ?」


 おぼつかない足どりで、帰宅している途中。


 マリは道路に向かって転倒してしまう。


 混濁する意識の中、顔に当たるトラックの光がマリの意識を走馬灯へと導いた。


 (あ……これ、ダメなやつだ。 あはは……泥酔して道路に倒れ、トラックに引かれて人生終了? ラノベでも見たこと無いよ?)


 時間にして一瞬の刹那に、マリの脳は高速で回っていた。


 (本当にゆっくりなんだ。 あぁ~……願わくば、あの小説もう一周しときたかったなぁ……。 あと、推しカプの同人誌だって書き終わって無いし……あぁ……もうすぐ死ぬんだ)


 ゆっくり、ゆっくりとトラックがマリに近付く。


 (ねぇ、信じて無いけど……神様。 次に生まれ変われるなら、私……あの大好き乙女小説みたいな人生を送りたい! 推しと同じ空気を吸えて、恋人も出来て、パワハラ上司が居ない、そんな世界で生きたい。 生きたいよぉ……神様)


 マリが願った瞬間、マリの人生は幕を閉じた。


 そして、マリの新たな物語が始まる。


 ◆◇◆


 「痛たたた……これが二日酔いなのね」


 いつの間に自宅に帰って寝たのか、マリが目を覚ますと同時に強烈な頭痛が襲ってきた。


 ゆっくり目を開けると、其処は知らない天井だった。


 「……知らない天井だ。 え……ここ、何処? いっ……まさか、ラブホ!?」


 泥酔してる時に悪い男にお持ち帰りされたのかと起き上がるが、どうやら違う様だ。


 部屋の家具が豪華過ぎる。


 煌びやかな装飾品に彩られたテーブルや椅子。 壁もえらく高そうな壁紙が貼ってある。


 寝ていたベットも、映画や漫画でしか見たことの無いお姫様ベットだ。


 「うお……24歳の私にはキツくないか? あれ? 声が……あー、あー?」


 (知っている声と違う、まさか泥酔したせい?)


 起き上がり、ベットから下りる。


 その時に、ようやく視点が低い事に気付いた。

 

 「え? なにこれ、縮んでる? どうなってるの? あ、鏡鏡!」


 これまた豪華な化粧台に向かい、鏡を見る。


 「……!? 誰だ……これ」


 其処には、記憶のマリは居なかった。

 

 黒髪でボサボサ頭もしてない、日本人の平均的な顔もしてなかった。


 鏡には、綺麗な金髪をした美少女が立っている。


 年は16程だろうか。


 「は、はは……夢、だよね? だって、私は昨日……昨日? 」


 昨晩の出来事を思い出す。


 「そうだ、私……酔って、部長をフルボッコにして……そして、死んだんだ」


 (アレは夢じゃない、じゃあ……これは?)


 コンコンコンッ!


 混乱の最中、ドアがノックされる。


 びくっ! (だ、誰……? )


 マリは恐怖で身体が動かない。


 「マリ様、お目覚めですか? 執事のジャックです。 準備がございますので、お早めに……マリ様?」


 声の主は、返答が無いことを不審に思っているようだ。


 (どうする? どうする私! っていうか、こんなに見た目も顔も違うのに名前一緒なの?!)


 マリがあたふたしていると、扉の向こうの声が焦り始める。


 「マリ様、大丈夫ですか! メイド長を呼べ!! マリ様の御様子がおかしい!」


 扉の向こう側が慌ただしくなる。


 (ぎゃぁぁぁ、やめてぇー! 大事にしないでー! 本当になんなのコレ、お願い夢なら覚めてー!)


 マリが心から願った直後、容赦なく扉が開け放たれた。


 「姉上! ご無事ですか?!」


 「ルーデウス様、お待ちを!」

 「殿下! お待ち下さい!」


 扉を開けて入ってきたのは……超絶に可愛い男の子だった。


 「え、尊……ちが、え? さっき、ルーデウスって……えぇ!?」


 (サラサラな金髪、キリリとした眉、クリクリの母性をくすぐる瞳、国宝級のイケメン!!)


 戸惑うマリに近付くルーデウスを、執事ジャックとメイド長メリーはハラハラしながら見ていた。


 それもその筈、幼少の頃からマリは何故か弟のルーデウスに冷たく。 いつも、心無い言葉をぶつけていたからだ。


 ルーデウスの優しい気持ちは確かなもので、邪な心は微塵も無いとジャックとメリーは確信していた。


 だからこそ、姉のマリに傷つけられる所を見るのが辛いのだ。


 「姉……上? やはり、お父様やお母様のようにどこか体調がよろしく無いのですか?」


 ルーデウスは戸惑う姉の側にゆっくりと近付く。


 また、振り払われてもいい。

 また、冷たくされてもいい。

 ただ、ただ……心配なのだ。


 ルーデウスにとって、家族はもう……マリだけなのだから。


 「……ル」


 「!? はい、姉上! ルーデウスです、大丈夫ですか?」


 名を呼ばれた気がして、ルーデウスがマリの直ぐ目の前まで行ってしまった。


 そして……。


 がばぁぁっ!

 「ルーたんだぁぁぁぁ! ルーたんの、幼少期? え? 待って、死ねる。 凄い! 凄い凄いっ! 私が想像してたイメージそのまま! 絶対将来、超絶イケメン確定演出大草原不可避! すーーーーーはーーーーっ! 空気が! 推しと同じ吸う空気が美味しい! きゃーー! 」


 ルーデウスにマリが抱き付き、突然大喜びしだした。


 「え、ちょっ……姉上。 くすぐったいです」


 「あ! ごめんね、あぁぁぁぁぁ!! 可愛いぃぃぃぃ! 国宝! もう!! これは国宝です! 宝物庫に仕舞わなきゃ!」


 我慢出来ず、ルーデウスの頭を撫で繰り回す。


 「えぇ……姉上? 僕は弟のルーデウスですよ? 国宝では無いですよぉ」


 扉の前では、ジャックとメリーが唖然としてその光景を見ていた。


 長年、弟を冷遇していた姉が別人になったかのように可愛がっているのだ。


 信じられないのも無理は無い。


 「あ! コホンッ! マリ様、その辺で……ルーデウス様が目を回しておられます」


 「え!? あ、ごめんねぇぇぇ! 推しに何て事を! 大丈夫?! ルーたん大丈夫!?」


 頭を撫で繰り回されたルーデウスは、目を回していたがその表情はとても明るい。


 「あはは……ごめんなさい。 ちょっと、テンション振りきっちゃって。 えっと~……それで、あなた方は?」


 「はぁ……しっかりして下さいませ、マリ様! 貴女様が幼少の頃よりお仕えしている執事のジャックでございます!」


 怒りながら自己紹介したのは、黒髪でイケメン執事だ。 右目に丸眼鏡をしているのが、まさにそれっぽい。


 「ふふ、でも……なんだか凄く嬉しそうよジャック。 改めましてマリ様、メイド長のメリーです。 思い出して下さいましたか?」


 おっとりしたメイド長さんは、ピンクのツインテールが凄く可愛い。 そして、デカイ。 何とは言わないがデカイ。 メロンか!


 (いいえ、全然)


 とは、言えない雰囲気の中、マリは高速で頭を回転させて考える。


 (待って、これは夢じゃない。 そして、ルーたんの幼少期が居るってことは……私、乙女小説の世界に転生したんだ! やったーーー! きゃっほー! 推しの姉になれるとか、どこの同人ですか? どこで買えます? いやいや、違う……ここが乙女小説の中だとして……私は誰だ?)


 「では、マリ様。 メリーに着替えをして頂き、直ぐに参りましょう」


 (え? 何処に? あれ……知ってる。 知ってるよ!? ルーデウスの裏設定資料で読んだ。 主人公の予言の巫女と出会った時のルーたんは、酷く弱ってるんだけどその理由が……暮らしてた王国が滅びたから。

 ルーたんの両親は亜人差別をしていて、奴隷にしてた。 2人が急死した後に……姉が即位。 でも、姉も酷い差別主義者で……1年後に原因不明で死去したんだ。 だから、国が滅んでルーたんは1人彷徨ってたんだ! ってことは……もしかしてですよ? その姉って……)


 「ね、ねぇ……ジャックさん。 ちなみに、準備したら何処に行く感じかなー?」


 「さ、さん? マリ様、本当に大丈夫ですか? しっかりして下さいませ、今日は大事な女王即位の日ではございませんか」


 「ちなみに……それって、私じゃないよね?」


 「「??」」


 ジャックとメリーが、コイツは何を言っているんだという顔で見合わせる。


 「いいえ、マリ様です。 即位、おめでとうございます。 マリ女王陛下」


 「はぁぁいっ! オワターーーーーー!!!」

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