第27話

 佐々木さんの知らせを受けてから、私は暫く寝込んだ。詳細が知りたいという事、葬儀に出たいのでその辺りも確認して貰えないかと言っておいた編集長から返事が来たが、大きい声では言えないが、どうやら自殺か事故で揉めている様で、葬儀は親族のみで行うみたいだと彼女は言った。そして電話を切る際、グリコのおまけの様に、――それをすると、もれなく、絶対ついてくる物の様に――「みんな言ってるの、自殺するような理由がどこにもないって。それに遺書もなかったみたいだし……」と言い、私はお礼を言って、電話を切った。

 それから暫くは、佐々木さんとの会話を覚えている範囲で何度も何度も繰り返し思い出しては、自分の発言、立ち振る舞いを責めた。だけど私はぺらぺらの安っぽい友情の様な何かを掲げて悦に浸りたくなかったので、そういう行為を愚かだと更に自分を罵った。

 私は田口にはその事を黙っている事に決め、病院に行った振りをした後で「飲みすぎで胃が弱っていたところに風邪を貰ったようだ」と説明をした。私は長く人と関わらないで生活をしていた所為で、こういった種類のどうにもならない気持ちに、どうやって折り合いをつけるのかが、全くと言って良い程思い出せなかった。

 それでも幸い私にはやるべき事が幾つかあった。仕事をし、伊藤さんに嘘の連絡をし、田口との計画を成功させる。取り合えずは、今はそれらを手に付けるしかなかった。

 それでも、どうしようもなく苦しくなる時「私は大丈夫」「寿命だったの」その言葉をただただ繰り返し唱えた。佐々木さんが私に残してくれた魔法の呪文は、ほんの少しだけ私を楽にしてくれた。だけどそれは、根本的な解決には至らなかった。

そんな風にしてどうにか数日をやり過ごし、私はどうにか平常心を保てる様になった。このまま約束の日が来て、田口は元の場所に戻る。私はそれまでにどうにか自分をもっと平気にしなければいけない。その事だけを考えていた。


 そう、私は自分の事ばかりになり、すっかり忘れていたのだ。

 田口の調子がまた悪くなるなんて、すっかり可能性から排除してしまっていたのだ。

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