機怪人

とも

プロローグ

 ここは、ジャパリパークの地下深く……園長も知らない、極秘の研究所。表向きは、普通のサンドスター研究所だが、その本当の目的は……


「どうだ、素体は集まったか?」


 椅子に座って栄養ゼリーを吸う、背の高い男が淡々と言う。その目の前にいる白衣を着た男が、それに答えた。


「はい。鬱病や統合失調症などに苦しむ自殺志願者……言われた通り、そういう者達を集めてきました。題目は『ジャパリパークのフレンズやサンドスターによる精神疾患の治療』……これで怪しまれることはありません」


「ご苦労……あと、手紙も書いておけよ。患者達は我々の努力も虚しく自殺してしまった、本当に申し訳ありません……とな」


「はい、下っ端共に命令しておきます」


 ご立派なお題目に、虚偽の死亡を知らせる手紙。それらが意味するものは……


「例の計画を始めるぞ。『ツインソルジャー』計画……もとい、改造人間の改造準備を始めろ」


「はい。奴らには何と伝えます?」


「正直に伝えてやれ、お前らはお望み通りこれから死ぬ、とな……クロザリル投与や電気けいれん療法が検討されているレベルの奴を連れてこい、と言っておいたはずだ」


 クロザリル。精神疾患治療の最終手段に当たる薬だ。危険な薬のため、厳重な治療体制のもとで、医師の許可が降りた場合にのみ使用出来る……それ即ち、病気の重さが最重度であることを意味する。電気けいれん療法はうつ病などにも使われる方法で、こちらも治療法としてはあまり選ばれない、即ち普通の患者には推奨されない治療法だ。


「あぁ、そのためにそんな指定を……確かに奴らはもはや精神崩壊寸前の状態……奴らは親族にも疎まれていた、死の手紙を送ったら喜ばれるかもしれませんねぇ?」


「ふふ、そうだな……そう考えると、我らは正義の味方か? まぁ完成品は闇ルートを使って高値で売りつけるつもりなのだが……何にせよ、まずは試作だ。さっさと始めるぞ」


「わかりました……あぁ、私だ。全館放送に繋いでくれ」


 この施設一帯にお知らせの音が響く。そしてすぐに、冷酷な言葉が放たれた。


「全職員に通達。技術者は改造室に集合、素体どもを連れてこい。一般職員は作業室に集合、モニターに書いてあるとおりに手紙を描きあげろ。机にあるスポイトで、水を数滴垂らすのを忘れるなよ。繰り返す……」


 研究者達が慌ただしい足音を立てて改造室に集合する……それと同時に、まるで囚人のように拘束具を付けられ、患者服を着せられた者達も連れられてくる。素体達だ。


「お前達、時は来た。ツインソルジャー計画を始動する。量産が成功すれば、給料とボーナスの大幅増額を約束しよう。今回作るのは試作機だ、失敗するなよ」


「はっ!!」


 一斉に研究者達が言う……そして素体達は、何も喋らない。否、喋れないのだ。罪悪感、自分への憎悪……人によっては幻聴。それらが渦巻いて、頭がおかしくなりそうなのだ。喋る気力もない者もいる。


「えー、それと素体共……あんなお題目の通りになるなんて思ってた甘ちゃんはいないと思うが、念の為言っておく……貴様らはこれから、人として死ぬことになる。人格も破壊され、完全に機械となるんだ。だが貴様らに価値はない、即ち逆らう権利はない。いいな!?」


 そう言われた素体達は……突然笑いだした。


「あはははははは! 死ねる、やっと死ねる!! もう拘束具もない、開放されるんだ!! 」


「皆さん、私の死を見ていてくださいね! もう私を見て不快感を催すこともありません!!」


「そっか……死ぬのか……なんか、あっという間だったな……まぁ、いいか。生きてたって仕方ない」


 一人大人しい者がいるが、大体の者達が喉を潰す勢いで叫んだ。


「こいつらを機械に叩き込め。改造手術を開始する」


「了解」


「素体共、永遠に眠れ……そして生まれ変われ!! 貴様らは我らの給料のため、商品になるのだ!!」


 素体達が機械に入り、蓋が閉まった瞬間昏睡ガスが噴射された。


「スターエンジンとスターロウエンジンを組み込め。内蔵を全て作った機械に入れ替えろ。脳だけはそのままで、サンドスターロウで輝きを全て奪って記憶と人格を消す。記憶消去手術は別で執り行う、まずは改造だ」


「はっ!」


 手際よく手術が進められていく、体の改造は殆ど終わり、体にロウとサンドスターを注入している……その時だった。警告音がけたたましく鳴り響いたのは。


「何事だ!?」


「サンドスターとロウの注入中に、1人のバイタルサインが消滅! 2人、3人、4人……ダメだ、止められない!!」


「何が原因だ!? 原因究明を急げ!!」


「注入や内蔵の総入れ替えに耐えきれず、細胞が次々と死滅!! どんどん死んでいく……!!」


 人間には持て余す力のサンドスターと、サンドスターロウ……その大量注入に、ヒトごときの体が耐えられるはずがなかった。


「何とかならんのか!? 注入を一旦停止して……」


「ダメです、どんどん消えて……うわっ!?」


 突然、バイタルサインの消滅した機械が爆発してロウが漏れてしまった。次々爆発していく、機械すらも耐えられていないのだ。


「えぇい、こん畜生!! 早くどうにかしろぉっ!!」


「そんな事言われても……なっ、これは!?」


 大量に漏れてしまったロウから、セルリアンが形成されていく。ロウとサンドスターの供給が止まらず、どんどん大きさを増していく……


「は、早く供給を止めろ!!」


「だ、ダメです! 制御装置もやられて……量を制御できません!!」


「た、退避! 退避ぃー!!」


「ま、待っ……ぎゃあぁぁーッ!!」


 超巨大セルリアンはクモのように足を生やし、高速移動を始めた。最強最悪の超セルリアン……Number∞、PLANET EATER。名前の通りこいつは全てを飲み込んで、破壊していった。その上輝きを吸い、どんどんパワーアップする。次々にフレンズが喰われ、ヒトが殺され……戦闘機まで出撃したが、その全てが落とされ……最終的には。



「園長!! 私達はこの一撃に全ての力を使う!!」


「私達は石版となり、永遠にこのパークを守ります」


「さらばじゃ、園長!! お前やフレンズ達との生活、悪くなかったぞ!」


「園長、我らに最後の力を!!」


 それを聞いた園長が、空高くお守りを掲げた。同時に園長は、爆破弾にやられた……園長は、跡形もなく吹き飛んでしまった。だが、お守りの力は間に合った。四人が文字通り全ての力をEATERに叩き込む…!!


「喰らえ化け物ォォォ!!」


 そこに居た全員が叫び、全力の必殺技を叩き込んだ! その一撃はパークだけに留まらず、地球全体を揺らした。そして、PLANET EATERは跡形もなく消滅した。4人はすぐ、眠るように石版となり……そこに、セーバルが現れた。


「サーバル、トワ……それにみんな。ジャパリパークは、私が守るから……だから、バイバイ」


 セーバルが涙を流しながら、山に飛び込むと……そこにフィルターが張られ、EATERの復活を防いだ……だが被害は甚大で、パークは完全に崩壊。生き残った人間は全員が退去し……人間は、ジャパリパークから『絶滅』した。




 ……それから、20年程後のこと。パークガイドのミライが残していった、帽子の髪の毛から、ヒトのフレンズが生まれた。名前はかばんちゃん、命名はサーバルキャットのフレンズ。様々なフレンズと出会って、仲良くなって……旅立って。真実を知らぬまま、旅に出た。それから、さらに1年後……




 完全に崩壊した、あの施設にて。壊れた機械が、バイタルサインの復活を無言で告げる。理由は、あの時制御が効かなくなった機械がロウよりも多く、サンドスターを供給したからだ。それが長い時間をかけて、体を再生させたのである……カプセルが割れて、中からヒトが見えてきた。記憶を持ったままで唯一生き残った、機械戦士。血生臭く、腐臭が漂う……これは、死体だらけの部屋から始まる、1人の男のお話。


「俺、は……どうして?」

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