第265話 おやすみダブルベッド-1


抜き足差し足忍び足・・・そうっとそうっと・・・


盗人のようにそろりと寝室の中を伺って、コソコソとベッドまで歩いていく。


ただいまの時刻深夜1時20分。


超真夜中ですね!もうお休みタイムですよね!


声に出さずに実況してしまうのは、この間見た寝起きドッキリのせいだ。


ああいうバラエティは、何年経っても変わらず面白い。


とはいえ、一人でやっても面白さは半減なのだが。


現在貴崎の人員は2名で、うち1名はすでに就寝中なのでやむを得ない。


連休の中日で、明日の予定は溜まった掃除と洗濯物を片付ける事だけ。


という事で、久しぶりに大好きなアニメ映画を見始めたら、シリーズ全制覇したくなってしまった。


茉梨が大好きな、長編アニメーションは、子供の大好きなおもちゃが主人公の冒険モノだ。


笑いあり、涙ありの深い物語で、大人こそ泣けると公開当時は話題を攫った。


随分時間が経った今も、変わらず愛される名作だ。


3部作を全部見ようと思ったら、かなりの長時間になるのだが、今日はいいだろう!とテレビの前に陣取ったのが夕飯の事。


途中、勝に言われて入浴休憩を挟んだが、それでもぶっ通しで見続けた。


ちょっと切なくて、でも感動的なエンディングを涙を拭きながら見て、ああこれで幸せな眠りにつける!とベッドまでやって来た。


二作目の途中で、もう部屋行くぞ、と離脱した勝はすでに夢の中だ。


台詞を覚える程繰り返し見た映画なので、一人でも問題なし!おやすみ!と手を振ってから、3時間ちょっと経過していた。


何時に勝が眠ったのかは分からない。


先にリビングを出た勝に、スマホは預けてしまったのでそれ以降一切話もしていない。


日付変わる頃には眠ってるといいんだけど・・・


今日、茉梨は日中に布団を干しながら昼寝をしたけれど、料理中だった勝は休む間なく働いていた。


茉梨のリクエストで作ったロールキャベツは、クリームソースがたっぷりでキャベツの甘味とミンチ肉の肉汁との相性もばっちりの絶品メニューだった。


貴崎家では、結婚前も今も変わらず、手の込んだ料理は勝が担当になっている。


カレーとシチューと圧力鍋料理ならお任せ!と胸を張る茉梨だが、週の半分は勝がキッチンに立つのが日常だ。


「そう・・っと・・・」


「・・映画終わったのか?」


「ぎゃう!?」


「なに、その怪獣みたいな悲鳴・・」


「お、お、起こした!?」


「いや、起きてた。お前さっき廊下で転んだだろ」


「げ!気付いていた?」


ずぼらをして、フッドライトを付けずに廊下を歩いて、階段を踏み外したのだ。


「結構派手な音したし・・・ケガは?」


「膝打ったけど平気ー。モコモコパンツのおかげー」


「痣にはなるだろーな。擦り傷もなし?」


「んー、たぶん、血は出てないから」


「そっか・・・」


「起こすつもりは無かったのよー?すまんねぇ、許してたも」


ごめんね、と両手を合わせてベッドの上で正座する。


あ、結構膝が痛い。


これは絶対青タンになるやつだ。


「いーよ。どうせお前がベッド入ったら起きたと思うし」


「そっと気配を殺してきたのよ?スパイのように」


「いや、お前一番向いてねぇから、そのキャラ」


「ええーふーじこちゃん駄目?」


「色々と足りない・・イテ」


足りないのは百も承知じゃーい!と拳骨で勝の頭をぐりぐりする。


そういう所もひっくるめて、可愛いよ?愛してるよ?とか、ないかね?


ま、無いよね、うん、わかっとります。


「そこは愛情で目を瞑ってたも」


「んー・・・そーだな、俺もお前が不二子ちゃんだと落ち着かんわ」


「だよねー?」


「だな・・・ん、寝る?」


勝の問いかけに、茉梨が大きく頷いた。


「ねーるー!」


戸締りはすでに勝が終えているので、心おきなくベッドに飛び込める。


「・・・ん」


軽く頷いた勝が、茉梨に向かって両手を広げた。


「・・・っ!」


何も言っていないのに、茉梨がして欲しい事がちゃんと伝わっている事にキュンとする。


先に眠っている勝を起こしてまで、抱きしめて欲しいとは思わないけれど、こうして寝起きでも呼んでくれるところが嬉しい。


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