鍵を隠すなら

万倉シュウ

鍵と自転車の不一致

 木を隠すなら森の中、という慣用句がある。物を隠すなら、同じ種類の群れの中に紛れ込ませたほうが効果的だという意味だ。木の葉を隠すなら森の中、とも言う。イギリスの推理小説『ブラウン神父シリーズ』で登場した台詞に由来するらしい。人を隠すなら人の中、と応用も利かせられる。

 しかし、何事にも例外はある。群れの中に投じたところで、かえって目立ってしまう場合もあるのだ。例えば、迷彩服は森の中では効果を発揮するけれど、人混みの中では逆効果だ。この場合、迷彩服は森林と同種という扱いなのかもしれないけれど。

 この手の隠蔽は一種の賭けだ。気付かなければ異様だと思わないけれど、一度気付いてしまえば、紛れ込ませなかった時と比べて、強烈に印象に残る。先の迷彩服なんて良い例だろう。閑散かんさんとした場所と人混みとでは、受ける印象が大きく異なる。

 俺も今、同じ状況におちいっている。高校の駐輪場。放置された自転車は施錠され、しかし鍵はささっている。抜き忘れかと思いひねってみるけれど、解錠される気配はない。自転車と鍵が一致していないのだ。

 誰かの悪戯いたずらだろう。あるいは、鍵が変形して解錠できなくなったから、自転車ごと放置したのかもしれない。うん、そちらのほうが納得できる。

 しかし、俺の隣には納得いかない面持ちを浮かべる人物がいる。その人物は腕組みしながら、俺のほうを見て、首をかしげた。

越渡こえど君、どういうことだろう?」


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