やっぱり、ミャーコには見えている



 事件はあっけなく解決した。

 なんだ。犯人はまたまた三村くんかぁ。そう言えば、ミャーコに嫌われてるもんな。


「あっ、でもさぁ。じゃあ、鏡に映ってたのはなんだろ?」


 僕は先日の鏡にうなるミャーコの説明をした。猛がポンと僕の肩をたたく。


「かーくん。猫は鏡に映ってるのが自分の姿だとわからないんだ」

「へえ。そうなの?」

「だからな。ミャーコはかーくんがよその猫をダッコしてると思って、ヤキモチ妬いたんだよ」

「うぎゃーっ! ミャーコが可愛すぎるんだけどッ!」


 なんだぁー。それだけのことか。安心。安心。オバケも泥棒もいなかった。一件落着!


 ……ところがだ。

 この事件は、これで終わりじゃなかったんだ。むしろ、ここからが本番ね。


 翌朝。今日は土曜日。

 僕が仕事に行くために十時ごろに起きてくると、まもなく、ミギャーッと、またもや興奮したミャーコの声が庭から響いた。


 何? また三村くん? 昨日、泊まっていったからね。朝から元気だなぁ。ミャーコとランニングか。でも、庭が荒れるからやめてほしい。


 僕は居間をよこぎって縁側にむかった。ガラリとガラス戸をあける。


「三村くーん。朝からさわぐのやめてよねぇ」


 走りまわるミャーコ。

 でも、人影は見えない。

 すると、キッチンのほうから声がした。


「かーくん。なんやいな? なんか呼んだか?」

「えっ?」


 そんな、バカな? なんで三村くんがキッチンに? じゃあ、ミャーコは追いかけて……?


 ゾォ……ッ!


 じりじりあとずさりながら、僕はキッチンにとびこんだ。三村くんが猛と二人で昆布茶をすすってる。


「おう、かーくん。なんやってん?」

「な、なんでもない……」


 やっぱり、おかしい。

 三村くんはここにいた。

 なら、ミャーコは追いかけてたんだっ?


 もちろん、この時間、同居人の蘭さんはまだ就寝中だ。さっきベランダに洗濯物干すとき、それは確認ずみ。

 だとしたら、この家にはほかにもう誰もいないんだけど。


 お、お、お……オバケ?


「かーくん。早くしないと遅刻するぞ?」

「あっ、うん。行ってきます」


 時間が迫る。しょうがないんで、僕はとりあえず家を出た。

 でも、出がけにさ。変なことに気づいた。門のかんぬきが外れてる。また、猛だな。あいつ、朝方に新聞とりに行くとき、たまにかんぬき、かけ忘れるんだよな。


 家を出ると、前を歩いていく小学生の集団が、うちのほうを見ながら、コソコソ話してるのが聞こえた。


「あそこ、化け猫がおるんやって」

「えっ? ほんま?」

「うん。ショウくんが見たって」

「そんなんおるわけない」

「ほんまやって。あそこ、草ぼうぼうで絶対、なんか出るやろ」


 むーん。小学生たちのあいだで、うちがお化け屋敷認定されてる? たしかに、ちょっと庭木の手入れとかサボってはいた。


 気にはなるけど、これ以上遅くなると電車をのがしてしまう。僕はあわてて駅へと走った。

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