フィストオブジャスティス

浅貴るお

第1話

「来るな!刺すぞ!」

 男は少女に包丁を突き付けながら、周りに叫んだ。

 警官たちは、興奮している男を宥めようと説得を試みているが、効果はないようだった。

 俺は、現場から100メートル程離れた歩道から、男に近付ける場所を探していた。

 赤いライダーススーツに、赤いフルフェイスヘルメットを被っているが、殆どの人は日が当たっている時、俺の姿を視認することができない。なぜなら、自ら開発した無色透明の光学迷彩塗料を全身に塗っているからだ。

 ゆっくりと日向の道を進む。

 男までの距離40メートル。ここまで来ると、警官たちがわさわさ居て、日向をこれ以上進むのは、難しそうだった。

 俺は一旦足を止め、首元についている右側ツマミを回した。

 ピリッと微弱な電流が身体中に流れ込む。血管が広がり、体内の血液が少し暖まる。

 よし、身体のリミッター解除。次に左側のツマミを回す。

 ボイスチェンジャー起動。

 両膝を屈め、ジャンプの態勢に入る。

 タンッ。

 跳躍する。

 警官たちを飛び越え、パトカーの屋根に着地。

次から次へパトカーの屋根に着地しつ、男に近付いて行く。

 遂に一番、男から近いパトカーの屋根に着地すると、腕を組んで言い放つ。

「これから正義を執行する!参る!」

 声が響き渡る。

 ダンッ。

 パトカーの屋根から、跳躍し、一気に男との距離を詰める。

「ジャスティス!」

 男に迫る!そこでようやく、俺の姿が視認されるだろう。深紅の姿を。

 この現場にいる男、少女、警官たちが狼狽えたはずだ。その隙に男に肉薄し、男の右手首を握った。

「痛ッ!」

 激痛に男は、包丁を落とした。

 そして男の腹に正拳突きを喰らわせた。

 男はぶっ飛び、ビルの壁に身体を叩きつけることになった。

「正義執行完了‼️では」

 そう言って俺は現場から走って消えた。



 

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