第125話
さて、リスナーのみんなにホワイトデーのお返しはできたけれど、僕の身近な人たちへのお返しはまだ済んでいない。
エリーなんて、ウエディングケーキレベルのものを僕の家に送り付けてきたからね。
とてもおいしかったけれど、食べるのに苦労したものだ。
その話はいったん置いておこう。
みんなへのお返しについてだけれど、正直、配信でリスナーに何を返すかの話し合いや収録などで全然時間が取れなかったため、何か凄いものを作って渡したりはできない。
配信外で、みんなの分のクッキーは作ったけれど、それだけだとエリーのようにインパクトがない何か物足りない様な気がする。
「お兄ちゃん、何悩んでるの?このクッキー凄く嬉しいよ。私一生、大切にとっておくね」
「いや、ちゃんと食べて。腐っちゃうから。それに来年も作ってあげるから」
「ホント!?じゃあ、食べよっかなー」
梨美は一口だけクッキーを齧ると幸せそうな蕩けた顔をする。
作った甲斐があったけれど、もっと喜んで欲しいなって思うし日頃の感謝も込めて何かしてあげたい。
「蒼様、私たち女性は男性からクッキーをもらえるだけでとても嬉しいですし幸せなのです。ですからこれ以上のことをしてくださらなくても構わないんですよ?」
「うーん。………あ、そうだ」
「何ですか?」
バレンタインのお返しということで、お菓子をあげなきゃという思考だったけれど、そうだよ。別にお菓子じゃなくてもよくないか?
カバンからルーズリーフを取り出す。
朝の登校する前の時間だからあんまり時間はないけれど、人数分くらいは作れる余裕がある。
莉々さんとシュガーちゃんの分はまた後で作ればいい。
ルーズリーフを横長の適当なサイズに切って、文字を書いていく。
「出来た」
「お兄ちゃん、何ができたの?」
「これは........................」
「これは、僕に何でも一回だけしてもらえうることができる券だよ」
「「………ごくり」」
「じゃあ、はい、これ」
二人に何の気なしにこの券を渡すと二人はその券をじっと見て、僕の方を見てくる。
「……この券があれば、蒼様がなんでも一回言うことをきいてくれるということでしょうか?」
「うん、そうだよ」
「お兄ちゃん、それって本当に本当なの?」
「僕は二人に嘘を吐いたことはないと思うけれど」
「それはそうですが……ところで、この券は私たちのほかに誰に渡すつもりで?」
「誰って由利たちのいつものメンバーにクラスみんな........................」
「ダメです、蒼様。一度、いつものメンバーだけにして様子を見ましょう」
そこで、真剣な顔をした白金に止められてしまう。
「蒼様は、自分の価値というものを軽んじすぎる節があります。いつものメンバーならいいですが、クラスの人々までこの券をもらってしまったら襲われちゃったりしますし、学校の人全員などになったら百パーセント襲われますので、まずいつものメンバーだけにしましょう」
「そうだよ、お兄ちゃん。この券をもらえてそれだけ信用されてるんだなーって思えて嬉しいけれど、もっと自分のことも考えて。女の人は何度も言ってるけれど狼なんだから」
「わ、分かった。いつものメンバーだけにする」
二人から、本気の目で止められたので、クラスのみんなにはクッキーだけをあげることにする。
「はぁ……それにしてもこの券どうやって使おうかなぁー」
「そうですね、使いどころに悩みます。いっぱい案がありすぎて……」
「………って、それより早く学校に行かなきゃ」
「あっ、そうですね。車に乗ってください」
「はーい」
学校へ着くまでの間、白金さんはずっと何をしてもらうか真剣に考えていて、僕と何かをしている光景を想像したのかにやってしたり、顔がとろけてしまったりして少し運転が危なかったとだけ言っておこう。
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