第18話 出雲へ行きますよ(^^)ノ
廃仏派の筆頭であった物部氏は、仏教推進派の蘇我氏と対立して没落した。
物部氏が没落すると、蘇我氏が束の間の栄華を極める。
しかし、乙巳の変で中臣鎌足と中大兄皇子により蘇我入鹿が宮中で暗殺され、蘇我氏宗本家は滅亡する。
その後は、藤原氏が、その全てを引き継ぐ形で繁栄を極めて行く。
藤原氏は、物部氏の祭祀権と、物部氏が持つ、軍事権と警察権を取り込む事で、その権力は揺るがないものとなった。
ここ石上神宮で祀られている布都御魂(ふつのみたま)は、藤原氏の祭神である建御雷神(たけみかづち)と共に祀られている事が多く、これは藤原氏に布都御魂(ふつのみたま)の神格が奪われたとする説があると言う。
私は、ふと思い付いた事を話してみた。
ねえ、大化の改新の功績によって、中臣氏は、フジの名を冠する藤原性を、天智天皇から賜ったんだよね?
それって、富士山を目指した徐福集団の筆頭である事を、天皇自らがご褒美として、お墨付きを与えたって事なんじゃないかな、と夫に言うと、驚いた顔をして、それは、なかなか面白い説だと面白がっていた。
境内には、数種類の鶏の仲間がいた。
鶏って、夜明けを告げる鳥だから、神聖な神の使いだと考えられているんだよね。
私達は、境内の鶏を眺めながら、雑談をして、今日の宿泊先である出雲へと向かう事となった。
ここから出雲は、車で5時間以上もかかると言う。
石上神宮を出たのが、お昼過ぎなので出雲には、夕方には到着するだろうとの事。
ちなみに、今日は遅いので、出雲大社への参拝は、明日の朝にしようと言う事になった。
車中で私は、ノートパソコンを開き、軽く仕事を片付けたりした。
仕事はそこそこにして夫と色々な話しをした。
どんな切っ掛けだったのかは忘れてしまったが、神はいるかどうかと言う話しになった。
そもそも、こう言う類の話しが得意でなかった私にとって、これは、内面で起きた大きな変化だと思う。
神っていると思う?
私が聞くと、夫は、人が想像出来るものは、存在するんじゃないかな、と答えた。
確かに、それが想像出来るなら、頭や心の何処かには、それはいるのだろう。
そもそも、存在しないものは、想像すら出来ない筈だから。
夫は言葉を続けて、神と言うものが存在するなら、それは外側が造り出すもので、姿も形も見えないと思う。
例えば、日本の神はとても寛容なんだと思うんだよね。
日本人は、クリスマスを祝うし、初詣には神社に行くし、死んだら寺で供養してもらう訳じゃん。
それって、日本の神が寛容だから許されているって話しだと思うんだ。
言い換えれば、日本人が信仰に対して寛容だからこそ、日本の神も寛容になるって事なんだけどね。
だから、僕ら一人一人が集まって作り上げた社会の、その中心にいるのが神なんだと思うんだよね。
それは決して見えないけれど、確実に存在してると思うし、明確に意思も持っていると思うよ、と言った。
私が、日本人って無宗教を自認してる人が多いような気がするけど。
でも、そう言う人って、死んだら何もないとか言いながら、お墓参りは熱心だったり、朝のテレビの占いとかで一喜一憂してる気がする。
そう言うと夫は、日本人って、宗教的な生き方が染み付いてるから、それが信仰によるものだって事が自覚出来てないのかもね、と言った。
その後、聖書の話しになり、夫が、聖書って、一神教について書かれた聖典なのに、何で悪魔と神を区別して考えるんだろうね、と言い出した。
僕みたいな人に言わせるなら、聖書に書かれている存在全てが、一神教の神なのであって、悪魔だろうが、悪人だろうが、預言者だろうが、登場する全ての存在が、唯一の神の一つの側面だと思っちゃうけどね。
いや、それどころか、それを印刷した人や、読んでる人だって、そうだよ。
そもそも、善悪なんて、一方的な物の見方だよ。
仮に、神と悪魔が存在するなら、それは常に離れずに一緒に歩んでいるものだと僕は思うけどね、と熱っぽく夫は語った。
これは、陰陽道の考え方なんだろうか。
上気した様子の夫を見ながら、恐らく、世間一般には受け入れられない思想だろう、と私は思った。
しかし、当事者でもないのに、正義という名の共同幻想に酔っ払って、やたらと居丈高に振る舞う人達を見ると、ぞわぞわした複雑な思いに駆られるので、私は夫の言う事に、概ね同意である。
仮に、愛と呼ばれるものが存在するなら、善悪とは別次元のものだろう。
人は集団に属すると、優しい人でも集団の圧力に同調して急に意地が悪くなったりする。
だからと言う訳ではないが、私は集団や組織が苦手だ。
なるべくなら、そうしたものに煩わされたくない。
それから、気が付くと大山(だいせん)の雄大な姿が見えた。
これは、私のような凡人が見ても一目で霊峰だと分かる。
出雲に到着したのは、午後6時を少し回った頃だった。
辺りはもう薄暗い。
私達は、すぐに予約しておいたビジネスホテルにチェックインして、すぐ近くの温泉施設に向かった。
その温泉施設は、ホテルと提携しているそうで、宿泊していると温泉代が安くなるとの事だった。
隣りには、居酒屋もあるから、風呂上がりはここで夕飯を食べよう。
温泉は、赤く濁っており、浸かると思わず声が漏れた。
ああ、長旅の疲れが癒される。
掛け流しの温泉を、指に付け少しだけ舐めてみた。
血の味がする。
やはり出雲は鉄の産地なんだろうなと思った。
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