日本書紀が書けなかった事 聖書の続きの物語

@furuyayou

第1話 甲府盆地へようこそ(^^)ノ

私の夫は、かなり変わっている。


私は、福島は郡山の出身だけれど、あの東日本大震災で職を失い東京の三軒茶屋に越して来て六年程して、友達の紹介で今の夫に出会った。


どことなく、雰囲気と顔が好みだったので、何度か会っているうちに、気が付いたら付き合っていた。


顔が好みと言っても、イケメンとかではないし、単に、私好みの、ちょっと目が離れていて絶妙にホッとする顔だったのだ。


性格は温厚で、人によって態度を変えたりしない所に好感が持てた。


コンビニ店員にだって敬語で話す。


ただ、感性と言うか、視点が独特で、私が震災で仕事を失い、仕方なしに、東京に出て来た事を話すと、そのお陰で、付き合う事が出来た、震災には感謝しないと、だとか、挙句、自分にとっては、震災特需とまで曰ったのには、流石に呆れてしまい、不謹慎だと怒ってしまった。


思えば、私が夫に対して怒ったのは、あれが最初だったような気がする。


夫はさらっと、まあ、悪い事と良い事は、常に同時進行で起こっているものなんだよ、と笑って答えていたが、そう言う事を言ってるんじゃないと、余計に腹が立ったのを覚えている。


もっとも、その後は、あまり常識外れな事は言わなくなったので、私も、妙齢と言われるような年齢になっていた事もあり、そのまま、気付いたら結婚していた。


そして、結婚を期に、三軒茶屋から夫の実家である甲府に引っ越して来た。


夫も私も、どちらも文筆業を生業としているから、特にどこに住もうが影響はないのだけれど、夫は長男なので、両親の面倒は、いずれ見なければならないだろうから、どちらにせよ、いつかは東京から山梨には引っ越さねばならなかったのだ。


しかし、年齢より若く見える、夫のご両親はまだまだ元気と言う事もあり、実家から車で30分程のアパートを借りる事にした。


まだ、同居するには早い。


結婚するまで知らなかったのだが、夫の叔父は、山梨の小さいが歴史の古い神社の宮司をしている。


つまり、夫の父の実家は神社なのだ。


叔父夫婦には、子供がおらず、夫は、叔父夫婦に随分と可愛がられたらしい。


夫は神職に就く気はないから、神主の資格のようなものは持っていないが、父親や叔父さんからは、一通りの作法を伝授されてはいるらしい。


その中には、除霊をしたり、悪縁を切ったりする、いわゆる、陰陽師の所作も含まれているそうで、夫は、平均すると二ヶ月に一回程、そうした依頼の手伝いに叔父さんの元に行っていると言っていた。


数時間で終わる一回の施術で、世の成人男性が、数日は働かないと得られないお金を持ち帰って来れるので、本業がパッとしない時には、そのアルバイトに随分と助けられたそうだ。


私は、そうした目に見えない霊的なものには、基本、懐疑的なので、報酬が高額過ぎるのでは、と憤ったものだ。


しかし、夫曰く、縁が拗れるのは、偏った考え方をしているからだよ。


それは、本人の考え癖だったり、先祖由来のものだったりする。


悪縁を切らなければ、良縁には絶対に恵まれないから、カウンセリングも含めて、僕達は、そうした絡まった縁を解いたり、切ったりする。


だから、その後の人生を考えたら、報酬は安過ぎる程だと思うよ。


特に気にする事もなく、夫は、そう言った。


もっとも、僕は他人に、そんなに深く関わったりするのは好きじゃないから、本業にはしたくないけどね。


笑って答える夫に、私は、何やらモヤモヤする思いを抱えていた。


それって、無償でする事は出来ないの?


私がそう尋ねると、夫は笑顔のまま、それが本当にしたい事なら出来ると思うけど、仕事として依頼を受けてやるなら、お金はもらわないと、相手が抱えてる問題は、実は、自分が抱えてる問題って事になっちゃうよね。


お金って、分かりやすく言うと、物資的なエネルギーだから、無償でやるとするなら、その代償を僕が支払わなければならなくなるんじゃないかな。


ただ、自分に依存させないようにしないと、変な宗教みたくなっちゃうだろうけどね。


その辺は、叔父さんは上手くやるよ。


相手が言って欲しい言葉とかは、一切言わないし、相手と綺麗に線を引くからね。


僕は、そう言うのも面倒なんで、助手で十分だと思ってるんだ、と夫は言った。


そもそも、私は、副業で夫がそうした事をしているのを、結婚するまで知らなかったし、見えない世界について偏見に近い嫌悪感を持っていたので、夫のそうした部分に少なからず不信感を抱いていた。


しかし、ある日、そんな思いを打ち砕く、不思議な出来事が、私の身に起きてしまう。

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