第36話


 俺たちはしばらくは何事もなく日々を過ごしていた。


 そんなある日いつものように放課後部活をしているとミキが来ていない事に気付いた。


「ミキは?」


 俺はゆうやに聞いてみた。


「あれ?さっきまでいたのにどこ行ったんだろ」


「早退でもしたのかな?」


 放課後までは普通にいたはずなのにと不思議だった。


「えー元気そうだったけどなぁ」


 しかし、俺たち以外にミキの事を気にする人は誰もおらず疑問が残りつつも部活が終わった。


「結局あいつ来なかったな」


 俺は少し残念だった。


「もしかしてサボり?」


「ミキがサボりとかないない」


 そんな話をしながら俺とゆうやは帰っていると校門まで来た所でミキが待っていた。


「あれ?お前何やってたんだよー」


 ゆうやは茶化すように言った。


「ごめんごめん、ちょっと野暮用で」


 そう言いながらミキは笑っていた。


「で、何で戻ってきたんだよ。そんなに俺たちと一緒にいたいのかよ」


「ハハッそうそう!」


「気持ちわりー」


「まぁとにかく帰ろうぜ」


 ミキは終始笑っていたが、一つ気になる事があった。それはミキの制服が汚れていた事だ、背中や膝の辺りに砂汚れのようなものが付いていた。


「てかなんでそんな制服汚れてんの?」


 ゆうやが俺の心を読んだのか聞いた。


「ほんとだ、なんでだろう」


 ミキはそう言って首を傾げていた。


「なんだよ変なやつー」


「ハハハッ〜俺って変なやつだよな〜」 


 ミキとゆうやは笑っていたが俺には何がおかしいのか分からなかった。


 そのあといつも通りくだらない会話をしながら家まで帰った。俺とゆうやはミキがなんで部活に来なかったのか深くは追求しなかったが俺はそれがどうもひっかかっていた。


 何か大事な事を忘れているような気がする。そんな事を考えながら部屋で過ごしていると下からご飯が出来たと声がかかったので降りると、珍しく父が早めの帰宅をしていた。


「とうさんどうしたの?」

 

 驚いた俺が聞くと父は笑いながら答えた。


「今日は珍しく早く終わってな、とうさんも驚いたよ」


「そうなんだ。あ、おかえり!」


「ははっ、ただいま」


 優しく微笑む父は嬉しそうにシャワーに向かった。


「ご飯、とうさんが出てきてから一緒に食べようか」


「うん、そうだね」


 俺はご飯をテーブルに並べるのを手伝いながら父が出てくるのを待っていた。


 しかし、中々出てこない父。


「とうさん遅いわね、ちょっと見てくる」


 心配した母が見に行った。俺は呑気にテレビを見てくつろいでいると風呂場の方から母の叫び声が聞こえた。


 驚いた俺は走って風呂場に向かうと、そこには腰を抜かしてその場にしゃがんでいる母と洗い場で倒れている父の姿が。


「とうさん!」


 俺はとにかく必死に父を揺すった。すると、どうやら息はしているようだった。一先ず救急車を呼んだ。


 母はしばらくすると冷静を取り戻したようで父にタオルをかけていた。


 すぐ救急車は到着すると、あっという間に父を運び出していった。


 母は救急車に乗って父と病院に向かったが、俺は留守番を言い渡された為一人家に残った。


 家の中は先程の慌ただしさが消えしーんと静まり返っていた。


 よくよく考えてみると前にもこんな事があった。それで俺は意外と冷静に対処する事が出来たんだ。恐らく父は脳の血管が詰まったせいで倒れたけど命に別状はなく数日入院して帰ってきたはず。


 そう考えると安心してさっきまでの事で忘れていたお腹が空いてきた。


 母が用意してくれていたご飯でも食べるか‥‥。そう思って箸を持った瞬間体がぐわんと揺れた。

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